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20 B級恐竜映画

 奴は俺達を威嚇するように吠え、装甲車の外板がビリビリと震えた。

 まるで至近で大気を震わせる雷鳴が、免振マンションをビビらせて揺する振動のように。


「ひゃあ、こいつは凄い迫力だわ」


「うわあ、凄いや。

 マジでジュラシック・サファリパークだあ」


「それがB級恐竜映画のノリじゃなきゃいいがなっ!」


 澪は半分ビビっていて、玲は興奮しているようだ。

 玲も日本ではハーピーを相手に、あんなに怖がっていたのになあ。

 恐竜系は別腹ってか。


 そして俺はといえば。


「ちい、頼むからいきなりタックルなんかを決めてくるなよ。

 じゃ、まずはこれで」


 御馴染みの十メートル大槍を盛大に撒いてやった。

 これの使い方も慣れてきたので、ほぼ正確に落とせるようになってきた。


 何しろ先端の穂先部分が糞重たいので、柄の部分が齎す直進安定性と相まって、少々風があっても、ほぼ完全に真っ直ぐ落ちてくれるからな。


 それにアイテムボックスの特殊な使い方として、こっちに流れ槍が来たらそのままアイテムボックスに収納出来るように工夫出来た。


 という訳で、思いっきり百本ほどかましてやった。

 所詮は十メートルサイズの小蜥蜴、楽勝かと思ったが、なんとかなりの本数の槍を弾きやがった。

 槍をバラまいて弾幕を張ったところ、奴の体に当たった内、二十本くらいは跳ね返って転がった。


「うわ。こいつめ、ぶ厚い装甲皮膚なのか。

 伊達にティラノ系統の肉食系じゃないな。

 この大槍の刃を投下されて弾くなんて、どれだけ硬いんだよ」


「それでも、結構刺さってるわよ」


 確かに十本以上刺さってはいるが、奴が暴れるとそれがポロポロと抜けていく。

 刺さり方が浅いので、まったく致命傷にはなっていないようだ。

 しかも頭のような急所は逸れてしまった感じだし。


「でも刺さり方がうんと浅いよね。

 この方、まだまだ御元気そう」


「元気っつうか、あれは痛いから怒り狂っているんじゃねえのか」


 まあ、いきなり自分の体長に等しいような刃物を大量にぶん投げられて、それが体に何本も突き刺さっていたら普通は怒るわな。

 というか、強烈な痛みでバーサクモードに入るだろう。


「じゃあ、今度はこれだ」


 次は、ぐっと高い場所から槍を落としてやった。

 しかし、奴が突撃モードに入っている。


「あ、ヤバ! 避けられそう。

 よし、じゃあこれだあ」


 俺はホーンを派手にかき鳴らした。

 奴は聞き慣れない大音響にビクっと足を止めて、そのまま槍の雨を食らって見事に串刺しというか、槍衾を背中に生えさせて倒れ伏した。


 今度は頭にも見事に突き刺さっている。

 死んだか?


「グォオオオオっ」


 死んでない。

 いきなり起き上がってきた。

 ティラノ寝入りかっ!


「うおっ、びっくりしたあ。

 なんちゅう生命力だ。

 さすがは肉食魔物だなあ。

 じゃあ、もう一回いこか」


 俺はそう言って、収納を用いて奴の体から強引に槍を引き抜いた。

 凄まじい血飛沫が幾つも上がり、またもや凄まじい悲鳴とも咆哮ともつかぬ大音量が響き渡ったが、すかさず俺は御代わりを進呈した。

 今度は倍の数の槍を、さっきの倍の高さから贈呈式を行った。


「倍プッシュ。いや、倍フォールかな」


 さしもの奴も今回は、見事に穴だらけにされて血をたっぷりと流したところへ、またしても深々と全身に槍を差し込まれて、そのまま大地に縫い付けられた。


 だいぶ槍の投下も上手くなってきたようで、今度は五十本くらい刺さって針鼠ならぬ針ティラノになっていた。

 収納を試したが、どうやら無事に倒せていたようで見事に収納出来た。


「ふう、手強かったな」


 危険な爆発物はぶっつけ本番で使いたくなかったので、槍だけで仕留められてよかった。

 高さを変えたので、コントロールをミスった槍が何本かこっちへ流れ槍になったが、なんとか収納して事無きを得た。


「よかったー」


 だが後方からきた突然の凄まじい衝撃に装甲車がグルっと回って、見事に反対向きになってしまった。

 そして向かい合う形になった状態で、もう一匹の魔物と対面したが、奴は憤怒にブーストされていた。

 おまけに、その口元は真っ赤に濡れている。


「忘れてた。

 もう一匹いたんだった!

 うーん、ホーンのせいで呼んじまったかな。

 それとも、あいつの悲鳴が届いたか。

 おい、ナプキンくらい使えよ。

 口元を汚したまま次の料理に取りかかる気か」


「おいちゃん、それって絶対洒落になってないからね。

 あいたたた」


「うわあ、びっくりしたー。

 大変、車の後ろがひしゃげて割れちゃってるよ」


「俺達が割れてなくて幸いだな。

 お前達は大丈夫か?

 頭は打っていないだろうな」


「うん、たいした事ないよ。

 ちょっと身体をぶつけたけど、シートベルトをしてたから大丈夫。

 車が壊れちゃったね」


「さすがにこの状況で、外に出て新しい車に乗り換えるのはキツイな。

 しかも、どうやら今乗っている車は真面に動けなくなったらしい。

 後ろがあんなに潰されてたら当り前だけど。

 この車って厳つい感じだけど、全長は普通車とたいして変わらないからな。

 潰されたのが後ろの部分だけでよかった。

 さすがは、曲がりなりにも装甲車っていうところか」


「え、それってヤバくない?」


「まあ、そこはなんとか頑張るさ。

 俺がこいつらを倒せるのはもうわかっているんだから」


 だが奴はこれを正面から齧ろうとして体を屈め、目の前で顎を目一杯に開けた。


「凄い迫力だ。うひゃああ」


 玲の奴め、嬉しい悲鳴を上げながらしっかりとビデオ撮影をしている。

 小学校三年生のくせにいい根性をしてやがんなあ。


「おい旦那、背中がガラ空きだぜ。

 そら素敵なプレゼントだ。

 あの世で、これからも夫婦一緒に仲良くな」


 俺は迷わずに自分達の上から、さっきと同じ高さより今度は五百本の大槍を大盤振る舞いで、集中的に狙いを定めて振らせてやった。


 もし、あの威力がこのライトアーマーを襲ったのであれば,ライトな装甲を貫いて串刺しになるは必至の貫通力だ。

 まあ、そうはならない訳だが。


 そいつは断末魔の苦鳴を上げて崩れ落ち、ライトアーマーのフロント部分に横倒しになった頭を預ける格好で大地に縫い留められた。

 またしても車に凄い衝撃を食らったが、それで今回のデスマッチは終いだった。


 そいつの体と周囲の地面には見上げるような長さの大槍が突き刺さっていたが、俺達の車とその至近には一本も落ちていなかった。

 落ちていないというかアイテムボックスに回収したのだが。


 倒した獲物と、こういう形で御対面するのは嬉しくない。

 そんなに恨めしそうな顔をしてこっちを見るなよな。

 そっちが襲ってきたのが悪いんだからよ。


「でっかい獲物が獲れたね!」

「ああ、これって食ったら美味いのかね」


「あたしは人食い魔物なんて絶対に食べませんからね。

 そいつって口の周りが血だらけじゃないの」


「食われたのは馬だけかもしれんぞ。

 北海道には人を襲わずに牛ばかりを六十五頭も襲った羆さんがいてだな」


「もうっ」


「冗談だよ。

 さすがに、俺もこいつは食う気がしないな。

 草食トカゲなんかなら、なんとかステーキでいけそうだけど」


「日本で見た大猪は美味しそうだったよ」


「そうだな。

 いつか狩るか」


「料理を担当するあたしとしては、普通の豚のお肉の方が嬉しいかなあ」


 俺達も、だんだんとこの世界に慣れてきて、魔物の一匹や二匹では驚かなくなってきた。


 しかし、今日の奴は強力な魔物だったな。

 こんなに車を壊されたのは初めてだ。

 みんな、そうたいして怪我がなくてよかった。

 軽い打ち身程度だろう。


 この世界の医療って、どうなっているのかね。

 (まじな)いや祈祷とかは勘弁してくれ。

 せめてポーションとか回復魔法くらいは欲しいもんだ。


 俺は新しい装甲車を出して、子供達に申し付けた。


「車を乗り換えてから出発しよう。

 あれが実は群れでやってきていて、その辺にまだ隠れているとか言わないだろうな」


「大丈夫じゃないかな。

 だって、あの大きさの肉食恐竜魔物が群れをなしていたら、きっと御飯に困っちゃう」


「ああ、そうかもしれないな」


 そう言いつつも周囲を警戒しながら俺は、ささっと新しい車に乗り込んでエンジンをかけた。

 奴らがライオンみたいに群れを成していたら困る。

 地球のティラノは子育てをしていたという説もある。

 さっきの奴らも、母熊みたいに子ティラノを大量に連れていたなんていったらヤバイ。

 あるいは、実はこいつらの方が子供とかな。


 そういや、レーダーは反応していなかったな。

 日本では勝手に表示していたのに。

 あの飛行魔物はマップを表示させていたら、その中に偶然見えていただけだしな。


 もしかして、ヤバそうな極限のピンチだと勝手に起動するのだろうか。

 俺はレーダー機能をアクティブにしてみたが、どうやら周囲に魔物はいないようだった。

 これからは平穏そうにみえても警戒を怠ってはいけないな。


「ふう、どうやら大丈夫そうだ。

 さあ車を乗り換えよう。

 二人共おいで」


 当分は、この前方のやや見辛い車で行かざるを得ないか。

 街道だから、いきなり穴に嵌る心配はないと思うけど、人を撥ねたりしたら困るんだよな。


 それにフロントガラスの面積も些か少ない上に側面の窓も小さくて、他の車よりも周囲が見えにくいから運転自体が非常に疲れる。

 後ろは殆ど見えないしな。


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