19 ジュラシック・キャンプ
それからまた少し散策をしてから、御昼は村の外れでキャンプ御飯にした。
今日は休養日なので、ゆったりと過ごすのだ。
宿が子供達から大変に不評だからなあ。
何しろ村に宣教師として駐在しておられる牧師様が、それを自虐ネタにして笑い飛ばすようなレベルなのだから。
「ふう、なんとか先の話に目途がついてきたので一安心だな。
やはり人の往来の多い街道筋は魔物も見かけなかったし」
「そうだね。
でも魔物はまた出るよね」
「まあな。
それはなんとかするしかない」
初めて熱い銃弾を受ける魔物は音も相まって、上手くするとあのハーピーのように逃げてくれるかもしれない。
図体がでかい奴だと無理かもしれんがなあ。
重機関銃くらいだとどうかな。
まあその場合は、でかい兵器類を試す事も考えねばならんが、それだと自分達が巻き込まれそうで怖いな。
荒野で兵器取り扱いの演習をしておこうかとも思ったのだが、そんな余裕もなかったし音で魔物を呼び寄せてしまいそうなので止めておいたのだ。
「迷宮都市かあ」
玲が少し楽しそうにしている。
いい事だ。
まだ小さいこの子の事が一番心配なのだから。
まだ見ぬニルヴァよ、どうかこの子の期待を裏切らない素敵な街であってくれよ。
「いいけど、玲。
危ないから迷宮に入ったりはしないからね」
「わかってるよー。
でもなんか楽しそう」
「だよなあ。
こういう気持ちって女にはわからないかもな」
「もう、おいちゃんまで。
いい歳こいた、おっさんのくせに」
「ふ、昔からよく言うだろ。
歳を食うとな、なんというかこう童心に帰るのだ」
それに迷宮都市なんていう良い物に心を躍らせない男がこの世に一人だっているもんか。
まあ雰囲気を楽しむという事で、ダンジョンの入り口くらいまでは行ってもいいかなあ。
中に入るのはちょっと。
俺の場合は体力的にも迷宮探索なんて絶対無理だし。
冒険者でパーティを組んだって、俺だけが若い奴らに置いていかれてしまうわ。
ダンジョンに潜っているような冒険者って普通の人間よりも体力ありそうだし。
それに体力が尽きて、途中でダンジョン内で遭難しそうだ。
雪山遭難みたいに救助隊を呼ばないと。
「やれやれ。
これだから男っていうものは」
「はいはい。
あ、フランクはもう焼けてきたんじゃないか?」
今日は俺も缶ビールを持ち出している。
荒野で魔物が襲ってくるような事態ではないので、今日は澪も文句は言わなかった。
炭火だと煙が出たり、急に移動しなくてはならなくなったりすると面倒だ。
まあ炭火だって収納に入れておけば問題ないのかもしれないが、今日のところは大人しくツインバーナーで焼いている。
これだって上等なキャンプアイテムなのだ。
ツインバーナーのフランクを焼いている鉄板の反対側ではカレーを煮込み、各自一個持ちでシングル・ジュニアバーナーにて一合用のメスティンで御飯を焚いている。
メスティンは俺が好んで使う黒いコートを塗布した焦げ付きにくいタイプだ。
いつも昼飯なんかは移動の合間に車の中だったから、今日は本当に楽しい。
俺も毎日車を運転していたから、今日は休めて本当に助かる。
道中に魔物が出なかったらまだいいのだがな。
カレーはみんなで準備して、煮込むのは澪の担当だ。
玲がフランクを楽しそうに焼いてくれていて、俺はビールを飲む係だ。
たまには、おっさんにも楽をさせてくれ。
野営ではなく、いかにもキャンプっぽい気楽な雰囲気でフランクを齧り、澪が作ってくれたカレーを美味しく頬張った。
俺の御飯が一番焦げ焦げだったが、オコゲは好きな方なので気にしない。
トイレ用にモーターホームを出しておいたので、子供達は久しぶりに中でテレビゲームに興じているようだった。
俺はといえば、キャンプ用のローチェアーに座って転寝をしていた。
こんなにのんびりと出来る時間は久しぶりだった。
そして、しばらくして何かの気配で眼が覚めた。
だが何もいない。
「あれ? 今何かの気配がしたと思ったんだけどな。
最近は魔物三昧だったから、少々神経過敏になっているのかね。
さて、もう一眠りすると……」
だが、村の方が妙に騒がしい。
そして、なんか煙を噴いていた。
「なんじゃ、ありゃあ」
しかも何か複数の悲鳴が聞こえて来た。
「なんかヤバイな、おい」
このままトンズラしたって構わないのだが、この先の安全のために、ここで何が起きたのかを知っておく必要がある。
俺の脳裏に、日本で地元の街を襲った惨劇が蘇る。
こんな平和な農村に、かくも突如として不穏な事象が襲い来るだなんて、実に由々しき事であった。
「おい、ちょっと様子を見に行くぞ。
危なかったら、そのまますぐに逃げるから」
「えー、大丈夫?」
「わからんが、やはり何が起きたものか見ておきたい。
念には念を入れて、こいつで行くとしよう」
そして俺がモーターホームと入れ替えで出した車両はライトアーマー、自衛隊からコピーした装甲車だ。
これは重いし視界があまり良くない車なので、好んで乗りたくはないのだが背に腹は代えられない。
ちょっと動かし方がわからなくて数分ほど格闘したが、うろ覚えの知識でなんとか動いたので来た道を戻っていった。
ライトアーマーは前に弄ってみたのだが、「あれ? どうだったかな」みたいな感じで動かなかった。
これだから年寄りは困る。
今回は一通りメモしておいた。
こいつは駐屯地見学の試乗会で乗せてもらった事があるし、ネットで調べた軍用車の動かし方も覚えていた。
この手の軍用車は始動方法が一般の車と違うので、そこが手間だ。
運転自体は普通の車とそう変わらないと思うのだが。
軽装甲の分だけボディが大変に重いのでアクセル操作なんかは癖があるから慣れないと運転し辛いだろう。
特に装甲車なので格別重いから、普通の車のようにアクセルをチンタラ踏んでいるとトルク不足で動かない。
そして装甲車に乗って、おっかなびっくりの状態で村に戻った俺達が見たものは。
「うわー、やっぱり魔物だったー!」
「あっちゃあ、大きいね」
「わあ、ジュラ紀の肉食恐竜みたい!」
こいつはまさに、ほとんど獣脚類っぽい感じの魔物だった。
身の丈約十メートルっていうところか。
ティラノに比べたら一回りか二回りくらい小者だな。
確かに昔の肉食恐竜っぽい感じのスタイルだ。
こういうのって、12・7ミリ重機関銃なんかで倒せるもんなのかね。
ちょっと難しい気がするのだが。
ティラノとは違い、なんだか獣脚類タイプの地竜という感じで、へたをするとブレスでも吐いてきそうな雰囲気があるし。
あるいは何かの魔法みたいな物を使われたらヤバイ。
そうなったら、確実にB級映画よりも酷い事になるな。
この装甲車がなんとか耐えられるのは、ハーピーの蹴りくらいか。
こいつの紙装甲では、あれにでも結構やられそうなレベルだがな。
「はい、魔物見学会はお終いな。
いやあ、もううっかりと小村なんかに泊まれやしないな。
まったく、原始少年リ〇ウか!」
「何それ」
「大昔の漫画だよ。
超売れっ子な有名漫画家さんが描いていた漫画だ。
原始時代に人と恐竜が同時代に生きていて、槍しか武器を持っていないような小さな村をティラノさんが襲うのさ」
「うわあ、そいつは最悪ねー」
「でも、あの子って格好良かったよ。
もっと近くで見たかったな」
「冗談だろ。
はい、ジュラシックサファリパークごっこはもうお終いね。
俺達は、あいつに喰われた事にしておいて、このままトンズラすんぞ。
ああ、ヤベエ」
「えー、おいちゃんは戦わないの。
村がやられちゃうよ」
「あのなあ。
こいつは今まで相手にしていた草食魔物なんかとは違う肉食魔物なんだからな?
奴の事は全長十メートルの熊かなんかだと思え。
俺はハンターなんかじゃないんだぞ。
たとえハンターでも倒すのは無理だ」
そして、ぐるんっと装甲車の向きを変えて走りだそうとした瞬間、突然大音響と共に目の前へ魔物が降ってきた。
うわ、なんつうジャンプ力をしていやがるんだよ。
カンガルーじゃねえんだぞ。
「なっ⁉」
「おいちゃん、後ろでもさっきの奴が暴れている! そいつは別の魔物よ」
「きっと夫婦なんだよ」
俺は、さっさと逃げ出しておかなかった後悔で冷や汗が噴き出してきていたが、それでも見に行っておかないといけなかった。
こんな怪物が村を襲う場合があるという情報を知らずにいたら、この先大変な事になっていた可能性がある。
「くそ、戦車が欲しかったぜ。
まあ戦車は一人で動かせんがな。
仕方がねえ。
おい、戦うぞ。
この装甲車は厚さ一センチにも満たない柔な装甲しかない。
伊達に名前にライトなんてついていないんだからな。
こんな奴に踏まれたらイチコロだぜ。
尻尾の一撃でも食らったら、車ごと芋虫ゴロゴロをやる破目になる」
それにもたもたなんかしていると、後ろの奴が応援に来そうだ。
前門のティラノに後門のティラノかあ。
ええい、どうやって殺るかな。
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