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17 村の探検

「ふう、食べた食べた。

 やっぱり、御姉ちゃんのオムライスが最高に美味しいや」


「いや、まったくなあ」


 それを聞いた澪がクスクス笑って突っ込む。


「おいちゃん。

 そんな事を言って、さっき宿の御飯にもしっかりと手を付けていたじゃない」


「いや、だって当分ここら辺の宿で世話になるんだから、飯の味の調査くらいはしておかないとな。

 ここは小さな村だから最悪だったが、大きな村や街へ行ったら内容も少しはグレードアップするんじゃないか?

 どうやら胡椒くらいは流通しているようだしなあ。

 そういう事も、ここで飯を味見していかないと比較も出来んし。

 まあ、そこの村ないし街へ入れたらの話なんだが」


「はいはい。

 村の食事の味見は全部おいちゃんに御任せしておくわ。

 当分、自分達の御飯はあたしが作りますからねえ」


「おう。

 俺も今のところ、味見以上には食指が湧かんなあ。

 さっきの宿飯はやっぱり不味かった。

 所詮は少村だなあ」


 それを聞いて澪は、またしてもせせら笑うと食器などの片付けを始めた。

 鍋やフライパンはキャンプで使うような水の要らない洗剤などを使って、食器は紙食器を使っているからゴミ袋へポイっと捨てて。


 まあ汚れなんかも収納にそれだけ仕舞ってしまうという荒業もあるのだが、澪的にはちゃんと手入れしたいものらしい。


 そして灯りは電池式のランタンだしなあ。

 まさにキャンプないし災害時の生活そのものだな。

 生憎な事に、俺達のマンションの住人が行く指定避難所も、そこに駐屯していた自衛隊も完全に壊滅しちまったのだが。


 それにしても、子供とはいえ日本人と一緒でよかったなあ。

 一人だと心細いし、何よりも心が折れてしまいそうだわ。

 こういう時に日本語で普通に会話できるのは精神的に凄くいい。


 栄養バランスを考えた日本の御飯を作ってもらえるのも大きい。

 俺の場合は、一人でいて面倒になるとレトルトやカップ麺で済ましてしまいそうだ。

 酒の量も増えそうだし。

 あとコンビニやスーパーの出来合い飯や、外食で頼んだ料理もいっぱいあるからなあ。


 あれこれと収納に入っていて、コピーして増やせるのは幸いだ。

 そう出来るようにしてくれたであろうイコマに感謝する。


「ねえ、おいちゃん。

 僕達って日本へ帰れるのかな」


「さあなあ。

 何しろ、この世界について何一つ知らないんだからな。

 帰る手立てが無いと決まった物ではないのだろうが、今のところ皆目見当もつかん。

 そういう情報も、大きな街とか、あるいはこの大国アリス王国の王都にでも行かないと、その取っ掛かりすら見つけられんのかもしれないしな」


「ふうん、そうか」


 ああ、子供達は日本へ帰りたかろうな。

 親も教師も友人も全て消え去った、あの思い出しか残っていない国へ。

 それでも。


 まあ順応性の高い小学生なら、この異常な事態への適応も不可能ではあるまい。

 このアラカンレベルで年寄りのおっさんは、もう半世紀レベルで手遅れなのだがな。

 後は没する日(おむかえ)を待つのみよ。

 それまでに子供達の生活その他の事をなんとかしておかなければ。


 それから村の探索に出かけた。

 まずは小村の水準を調査したい。


 子供達だけを宿に残していけないので一緒に行く。

 念のため拳銃はいつでも抜けるよう懐に忍ばせてある。

 長物の銃も、収納からパッと出せるように前から練習しておいた。


「おや、出かけるのかい」

「ああ、ちょっと散策に」


 すると女将は少し侮蔑の表情を浮かべた。

 なんだ?


「ふんっ、こんな村に見るとこなんかあるもんか」


「そうかい。

 村には何があるんだ?」


「小じんまりとした教会と村長の屋敷に、小さな物々交換所と鍛冶屋と大工くらいのもんさね。

 後は形だけで商品なんか碌に並んでいない店だけさ。

 店は店主も畑仕事に出てばかりだから、まず開いていないけどね」


「ははは、それくらいあれば十分じゃないか」


 それだけ見られれば、ある程度の生活水準は推し測れるかもしれない。


「はん、あんた本当に変わり者だね」


 俺は首を竦めるのに留め、子供達を促した。

 気を付けないと、子供をかどわかして売り飛ばすような奴がいるかもしれない。


「澪、玲、絶対に俺から離れるな。

 ここの治安の状態がよくわからない」


「う、うん。

 わかった。

 玲、絶対に離れちゃ駄目だよ」


「はーい」


 なるべくなら戦闘は避けたい。

 異世界で、こんな地方の村では俺達余所者が揉め事を起こした場合、たとえ相手が悪かったとしても間違いなく俺達のせいにされるだろう。


 そして街道沿いに出て歩いてすぐに、何か看板が吊り下げられているところがあった。

 だが読めん。

 絵で示してくれよ。

 見たところ、識字率が高そうな世界には見えんのだがな。


 きっと村人は看板すら見ないのだろう。

 小村だから見なくてもわかるだろうし、外からの客もそうそう来ないだろうしな。


 中を覗くと、汚いがどうやら鍛冶屋のようだった。

 なんとなく、その佇まいが西洋のファンタジー映画にでも出てくるような趣で、ちょっとばかり胸が高鳴った。

 しかし。


「なんだ、お前らは!」


 厳つくて、汚い髭面のおっさんが怒鳴りつけてきた。

 まあ、ここじゃこんなもんだな。

 子供達は俺の後ろにさっと隠れた。


「何、ただの旅人さ。

 小さな村なんで、少し見て回っているだけだ」


「仕事の邪魔だ、とっとと失せろっ」


 言われなくても、さっさと退散させていただく予定だったので、すぐに御暇させてもらった。


「ちぇ、僕はもう少し見たかったな。

 ちょっとワクワクしたのに」


「あっはっは。

 パッと見た感じでは、村の技術水準みたいな物は見てとれたよ。

 農具や炊事道具なんかがメインだな。

 馬車の部品みたいな物もあった。


 前に見た街の門番も剣や槍を持っていたから、街ではそういう物も作っているだろうし、もっと高度な製品もあるんじゃないのかな。

 やはり何とかして街へ入りたいもんだ。

 ここで通用する身分証がないのが困り物だな」


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