14 異世界魔物サファリ
本日も行軍して、なんとか無事に予定を終了し終えた。
魔物はいっぱい出たが、昨日のように無様な事はなく無事にやり過ごす事が出来た。
見た魔物は草食魔物ばかりだったのだが、これを餌にする肉食魔物もきっといるはずだ。
今のところ出会わなくて済んでいて幸いだった。
まるで恐竜が跋扈する世界を旅する矮小な哺乳類の気分が味わえた。
「明日はどうするの?」
昨日作った陣地をそのまま収納しておいたので、それを出して本日の陣地構築は速やかに終了した。
澪はココアの入ったカップを両手で囲いながら訊いてくる。
「今考え中だ。
直線距離ならこの半ブッシュ地帯は街道まで四十キロメートルといったところだ。
だが、もう少し先へ行けば半ブッシュ地帯でなくなるかもしれない。
地図で見た具合では沼地や森だというわけではないから、それで草原地帯を先に進めるんじゃないかなと思う。
明日は荒地を西方面に移動して行けそうな草原の道を探そう。
最悪は、このまま西へ向かってニルヴァへ続くフィスカ街道へ直接出よう。
まったく、現地へ来てみないと実際のところはわからないものさ」
玲はもう、こっくりこっくりと舟を漕ぐモードに入っている。
「わかった。
じゃあ、もう寝るわ。
おやすみなさい。
玲、キャンピングカーへ行くわよ」
「ふあーい」
「おやすみ。
俺はもう少しやる事があるからね」
とりあえず、地図の使い方をもう少し見てみよう。
マンションのあった場所の上の方にはブッシュ地帯というのがあった。
おそらくそいつは密集した本物のブッシュだと思うが、今回みたいなものは通常の草原とは異なる表示とかにできないだろうか。
俺は残りの旅を安全で確実な物にするために、あれこれと思索を巡らせていた。
一通り考えておいて、結果の確認も取った。
もう充分かなと思えたので、一度レーダーの範囲を広げたりして魔物の有無を確認してから寝る事にした。
まあ足の速い魔物や飛行魔物だとレンジ外からすぐにやってきてしまうので、そいつばかりはどうしようもないのだが。
そして翌朝、何かに起こされて目が覚めた。
「うん、なんだ~?」
モーターホームが揺れている。
もしかして地震か?
何か嫌な事を思い出したな。
それはもちろん、あの迷宮の胃袋の事だ~。
俺は、のそっと起き上がってモーターホームの窓についていたブラインドを開けたら、なんとでっかい蜘蛛がいた。
「ぶっ」
何がでかいかって、そりゃあ図体だよ。
全長十五メートルっていうところか?
これは、所謂クロウラータイプという奴か。
こういう生き物って普通は夜行性じゃねえのかよ。
もう御天道様は高いぜ。
くっそ、どうしてくれようか。
コンテナ壁に足をかけて逆様にぶら下がるような感じで前足をモーターホームにかけて揺すっている。
俺は上にいるはずの二人に声をかけた。
「澪、玲いるか!?」
「なあにー?」
「おふぁよー」
よかった。
外へ出ていなかったか。
「今、でかい魔物に襲われている。
絶対に外へ出るな。
何かに掴まっていろ!」
「あ、うん」
「うわ、どこ魔物」
「超でかい蜘蛛だ。
このモーターホームよりもでかい奴に、見事に取り付かれているから爆発物は使えない。
なんとかやっつけるから待っていろ」
そして俺は収納で奴が体を這わせている区画のコンテナを収納した。
奴は急に支えを失って体を落とし、慌てているようだ。
蝿取蜘蛛のようにクルクルと回っている。
こんな狭いところで器用なやっちゃな。
他の魔物に攻撃を受けたと思ったのか?
そして、さっき収納したコンテナをドスンと体の上に落とされてバタバタしている。
「照準ようし」
そして俺は例の大槍を、狙って頭に打ち込んだ。
大蜘蛛は暴れたが、体の上に追加の巨大な鉄材を大量に載せてやったので、もう逃げられない。
鉄材も元は大型トレーラー用コンテナだった物だ。
面白い事にトレーラーの外観で中身はびっしりと鋼鉄の塊で作る事ができた。
それを二つも大盛りで載せてやったので、こいつには文字通り荷が重かったようだ。
自分の胴体の長さほどもある大槍で虫ピン状態にされながらも、まだもがく。
なんちゅう生命力か。
「だが、死ねや」
俺は遠慮なく追加の虫ピンを十本ほどくれてやった。
さしもの大蜘蛛もついに標本モードになったらしい。
コレクションとしてありがたく回収しておいた。
生きている間は収納の能力で回収出来ないので、こうして確認しないと安心できんわ。
トレーラーも同時に収納しておいた。
あれだけがドスンっと行くと、凄い地響きになるからな。
「ね、ねえ。
蜘蛛は片付いた~?」
ベッドの上で布団を被っていた澪が顔を覗かせて訊いてくる。
「蜘蛛は駄目だったかい?」
「ちょっとねー」
「でも凄かったよ、大きな蜘蛛。
格好いい~」
男の子と女の子で見事に反応が別れたな。
まあ、面白いっていえば面白いけどね。
あの大蜘蛛で座敷鷹とかやってみたいもんだ。
それに使う蠅代わりの獲物はなんだろうな。
ぜひとも、そいつは俺以外の何かで頼むぜ。
それから大事をとって車内で食事を取り、出発の準備を整えた。
「さあ、出発だ。
今日こそ『人の(作った)道』に戻るぜ。
もう随分と踏み外してきた気がする」
「おいちゃん、それってかなり人聞きが悪いよ」
「でも意味的には間違っちゃいないよね」
俺は慎重にレーダーで周囲の警戒をしながら、荒地と草原の境界地帯を西へ向かって走らせた。
いい感じに走っていたのだが俺は車を停止させた。
マップ上で前方に赤点が一つ見えたからだ。
こいつはでかいな。
どうするか。
まあ回避するしかないんだが。
「あれ、どうして止まっちゃうの?」
「前方に大型魔物らしき敵がいる。
どうしたもんかなと思ってね」
「強い?」
「わからん。
でかいのは確かだ」
俺は、じっとその赤点を監視していたが、敵はまだ二十キロメートル先。
つまり地平線の彼方だ。
俺は地図機能を弄ってみた。
お、なんとまあビュー画面を開けるじゃないか。
しかも便利な事に赤点の部分を見られる機能があるな!
よし、見よう。
うっわ、こいつは。
「ドラゴンか?」
「え?」
「本当に?」
「いや、よくわからない。
なんか、それっぽい感じの翼のある飛行魔物だ。
マズイな。
敵が強力で空を飛ぶ奴だと敵わん。
あ、動いた。
こっちの方に来る!
もしかして見つかったのかも。
こいつはヤベエ」
「えーっ」
俺は急いで収納で土を回収して穴を掘って、そこに速やかに車両を滑りこませた。
そして上に鉄板で蓋をして、その上から薄く荒地に見えるような感じに土や石などを散りばめてみた。
「あいつの知覚力はどうなっているのかねえ」
「こっちに来るの?」
「わからん。
声は絶対に出すな。
じっとしてろ。
あれだけ離れた場所から、こっちへ正確に向かってくるんだ。
凄く知覚力が高い奴なのかもしれん。
通常空を飛ぶ生物は視覚が強力な事が多いが、相手は魔物だから通常の常識は通用しないかもしれない。
聴力が凄い場合も考えられる」
奴はこっちへやってくると、この辺りの空をウロウロしだした。
こいつも俺と同じくレーダーのような機能を持っているのか?
感知した獲物を見つけられなくて戸惑っているのかな。
頼むからそのまま消えてくれ。
だが、そいつは性質のよくない事に俺達を発見できたようだ。
真っ直ぐこっちに向かって飛んでくる。
きわめて確信的な動きで。
「ちっ、見つかったか。
もしかしたら赤外線か何かで見えないものも視る事が出来るのかもな。
地球にもそういう生き物はたくさんいる。
音波でソナーみたいに探知しているのかもしれんな。
あるいは異世界魔物だから何かの索敵魔法みたいな物を使うのか。
くそ、多才な野郎だ。
とにかく逃げるぞ」
「えー、でも大丈夫?」
「わからん」
俺は偽装を収納して穴から這い出した。
奴は急降下してくる。
くそっ、どんな攻撃をしてくるんだ?
攻撃魔法とかは勘弁してくれ。
あとブレスとかか?
空からの高速物理攻撃とかも嫌だ!
奴は俺達を目掛けて飛んできて高度を下げてスピードを落とした。
もしかしたら地上へ降りるつもりなのか?
俺はスピードを落としたせいで狙い頃な敵へ、レーダーの赤点を頼りに巨大で尖った氷の槍雨を降らしてやった。
全て一トン以上もあるでかい奴を山盛りね。
モーターホームの冷凍庫であれこれと試して作っておいた奴を拡大コピーしたものだ。
ホイップクリームの型や、米の爆ぜ菓子のビニールなんかで、氷柱のようにごつい形の氷を作ってみたのだ。
氷はこっちにも飛んでくるが、そいつは全て収納して再利用だ。
奴の翼に、尖った形に製氷して拡大コピーしておいた重量のある氷がボコボコに当たって激しく血塗れだ。
この氷の鉄槌の方が、戦闘機の翼に大穴を開けて空力的な安定を失わせて墜落させる目的でエクスプローション弾薬となっている二十ミリ機関砲弾を叩き込むよりもずっと効果的ではないだろうか。
そして失速した奴が俺達の前方の地面に思いっきり叩きつけられていく。
よっし、大成功。
地上を攻撃できる戦闘機という物は、地上でその天空からの攻撃を受ける兵士の運命を握る破壊神のような存在だが、一旦その座から転げ落ちたらどうなるか。
こうなるのさ。
そして遠慮なく超大量のアイスキューブでビッシリと氷攻めにしてやった。
爬虫類っぽい奴だから、氷の冷気で動きも鈍くなったようだ。
もちろん、それが狙いだったんだが。
それから俺は遠慮なく、いつもので奴で行かせてもらった。
プスプスプスっとね!
「よし、収納完了~」
「ねえ、今の本当にドラゴンだったの?」
「いや、よくわからないが違うような気がする。
これは翼で飛んでいる鳥に近い竜みたいなものだ。
さしずめ飛竜とでもいったものだな。
あれがブレスを吐くような本物のドラゴンだったのならば、俺達も今頃は全員生きていないかもしれん。
後であいつの死体を鑑定してみよう」
「うわあ!」
とりあえず、なんとかなってよかった。
それにしても、あんなに強力な索敵を行なえる魔物がいたとは。
いやあ、さすがにヒヤヒヤしたぜえ!
「お! 二人共。
かなりいい感じになってきたぞ。
ここは草原地帯の幅が街道まで三十キロメートルくらいになっているところだが、どうやら街道へ出るのに邪魔だった潅木地帯のゾーンも抜けたようだ。
ここから街道を目指して南へ進んでいくとするか」
俺は快調に車を滑らせて草原を駆け抜ける。
子供達もビニール製の窓から外を眺めている。
相変わらず地面はでこぼこで、たまに大きな石を踏むと玲がはしゃいだ声を出す。
面白いので、たまにはわざと踏んでみる。
どうせ時速三十キロメートル程度で走らせているので、この頑丈な軍用車両はビクともしていない。
それに壊れたって代わりの車はコピー品が幾らでもあるしな。
そして俺達は、ついに草原地帯を抜けて人が作った道に辿り着いた。
この道の遙か先に目的地の街が存在しているのだ。
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