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11 とりあえず飯

「とにかくさあ。

 みんな御飯を食べようよ」


 何はともあれ、頭を捻りまくりの俺は放っておいて、作りかけだった御飯の無事を確かめに行った澪。


 どうも女という生き物はあれだな。

 なんというかこう、順応性が高いというか適応力が高いというか、あるいは現実主義者といったらいいのか。

 確かに昔から言うようにアストロノーツには向いた生き物なのかもしれないな。


「まあ、いいんだけどな」


 玲は、御姉ちゃんの作ってくれた焼きうどんに夢中だった。

 仕上げの途中で火は切られたのだが、余熱で上手い具合に仕上がっていたらしい。


 あの騒動の中でも出来上がっていた御飯が、零れずに無事お皿に盛られる事になったのは龍神大和の加護というべきなのか!?

 普通なら、フライパンが引っくり返って御終いだよな。 


 やっぱり子供って順応性が高いよね。

 もうそんな年頃は半世紀近く昔に通り過ぎてしまった俺は、ふと漏らした。


「この焼きうどん、なかなかの物だね。

 これで一杯やっちゃ駄目かい?」


 澪はそんな俺に呆れたようなジト目を向ける。


「おいちゃんさあ、いくらなんでも危機感無さ過ぎじゃない?

 ここがどんな所だかもわからないのに」


「だって、僕もう疲れたよ、パトラッシュ」


 まあ確かに澪の言う通りなんだけど。

 だが、今の所俺のレーダーに敵影は映っていない。

 ここでも例のウインドウは健在で、あれこれ試したが問題なく使え、ちゃんとコピーも出来た。

 アイテムボックスもちゃんと使え……「うおっ」


「どうしたの、おいちゃん」


「いや、びっくりした。

 あの街の残骸が、死体以外は全部俺のアイテムボックスに入っていた。

 俺の祈りはアイテムボックスには届いていたらしい。

 中に厖大な物資の量があって驚いたわ。

 その殆どは押し潰されたり壊れたりしているが、無事な物も相当あるな。


 そうか、それで瓦礫には潰されなかったという訳か。

 なんという収納力だ。

 しかし、あの迫ってきていた壁はどこへいった。

 そして、ここは一体どこなんだ」


 澪は焼きうどんを飲み込んでから、箸で俺を指しながら言った。


「もしかして、ここはあの迷宮が元いた世界なんじゃない?

 だって壁が中心に向かっていったら最後には無くなっちゃうんじゃないかな。

 きっと御腹一杯になったから、この世界に帰ってきたんだよ。

 それで何かの都合で、あたしたちも一緒に来ちゃったとか?

 おいちゃんが瓦礫を収納しちゃったから街を消化できなくて、なんかこう一種の消化不良みたいな感じでこちらの世界へ吐き出したとか」


「うーん、そうなのかなあ」

「でも、ここって日本じゃなさそう」


「まあ、それはそうだよなあ」


 俺は立ちあがり窓の外を見た。

 相変わらず見渡す限りの大草原が広がるばかりで、草色の地平線が広がっていた。

 こうもはっきりと地平線なんていう物を拝むのは、大昔に四つ輪でアメリカ横断旅行をやった時以来だな。


 あれは360度見渡す限り平坦な光景が広がっていて、まるで地球の上で御盆の上に乗っているかのようだった。

 あれこそ地平線って感じの物だったわ。

 これも少し趣は違うが、確かに地平線のど真ん中には変わりない。


 そして携帯も圏外だし、無線LANなども当然使えない。

 少なくとも日本の、いや地球の電波が来ていない場所らしい。


「これからどうしたもんかねえ。

 まあ、今は水も食い物もあるんだけどな」


 この先、もう結構歳を食っていて体も半ば壊している俺が死んでしまったら、この子達はこんな場所で一体どうなるだろう。

 そんな事は考えただけで頭が痛くなるので、今は考えるのを止めた。


「あと、ここって建物の基礎が無いんじゃないかなあ。

 ただ真っ直ぐに立っているだけじゃないのかな。

 嵐が来たらズドンと倒れるんじゃないのか?

 大丈夫かいな」


 地震や台風で倒れてしまうかもしれないし、建物本体も補修が出来ないので、あちこち痛んで崩れてくるだろう。

 経年劣化で塗装部分が剥がれてしまえば雨風が素地のコンクリートに沁み込んで侵食するのだ。

 染み込んだ雨水で中の鉄筋が錆びたら一気に駄目になってしまうだろう。

 強風に吹き続けられているだけでも、マンションの表面塗装なんかは剥がれていく。


 特に屋根は十年、いや五年ともたないだろう。もう第一回の補修の時期が近かったが、工事前に行う事前調査では屋根の防水が既に駄目になりかかっていたのだ。


 いつまでもここには住めない。

 草原に生息する怪物に襲われるかもしれないし。

 さすがにマンションの高さに等しい三十メートル級の怪物のアタックを真面に喰らったら心許ないだろう。


 いるんだよな、この草原にはそのサイズが。

 わかる、わかるぞ。

 身も蓋もなく、理屈じゃなくて、ただそう感じとるのだ!


「ここを出るの?」


「わからん。今考え中だ。

 そもそも、ここだって人間が住んでいる世界なのかどうかもわからんのだし」


 そう言って俺はウインドウを開けて地図を出してみたら。

 おや?


 俺がまた変な顔をしているので澪が聞いてくる。


「どうしたの~?」


「いや、この世界の地図がちゃんと出ている。

 この世界の名はオウルというらしい。

 人も住んでいるみたいだな。

 ちゃんと街がある」


「本当~。

 じゃあ街へ行こうよ。

 さすがに、ここは辺鄙だわー。

 草しかないもん。

 あたし、もうこの景色は見飽きちゃったよ」


「それは確かにそうなんだけどな」


 ここはあれこれと大丈夫な世界なのか?

 何しろ子連れなのだからな。


 だが、さっき考えたような事もあるのだ。

 街の様子は見にいかねばならないかなあ。

 非常に心配だぜ。


「む?」

「どうしたの?」


 俺が唸ったのを耳にして、今度は焼きうどんを食べ終えてペットボトルの御茶を飲んでいる玲が訊いてくる。


「いやな、地図を見ていると気になる地名があってなあ」

「へえ?」


「迷宮都市ニルヴァだとさ」

「迷宮……」


 澪も微妙な顔をした。

 確かに、俺達にとっては嫌な響きではある。


「何かの手掛かりにはなるかもねー」

「行ってみる?」


 玲は、あっさりと気楽に言った。


「うーん、保安上の理由から一気に行きたくないんだよなあ」


 何かヤバイ街のようにも感じるのだ。

 だが……いや、どうするかな。


「じゃあさ、とりあえず、どこかもっと小さな街へいって様子を見るとかは?」


「そうだなあ。

 このまま、ずっとここにいてもいい事はなさそうだしな」


 俺は地図を睨んで唸った。


「何か問題なの?」


「ああ。

 まず、今俺達がいるのは凄く辺鄙なところなのさ。

 まあ、考えようによってはいきなり街の傍に出るよりはいいのかもしれないけどな」


 この世界の住人が俺達に友好的だという保証がどこにもない。

 俺達は完全に余所者なのだ。

 言葉さえ通じるものかどうか。

 通常ならば、まず通じまい。


「あと、ここより北方にある主街道へ出てから西方向にある迷宮都市ニルヴァまで行くのはかなりの数の街を通過しないといけなくてな。

 ここは大国みたいだから身分改めとかが厳しくて、俺達を街に入れてくれない可能性がある。


 ニルヴァと反対側の東方向へ行くと、この国の王都に出る。

 わかるか?

 王都、王国の都、つまりこの国の首都だ。

 ここはアリス王国というかなり広い国だな。

 大陸で一番と見做されるような凄い大国だ。

 絶対君主の王様が、その全てを統べる国なんだ。


 もし中へ入れてくれたとしても、この世界ではたとえ何かがあったとしても俺達のために弁護士を呼べるわけじゃないのさ。

 澪、その意味はお前にだってわかるよな?」


 それを聞いた澪も渋い顔をする。

 さすがに、これくらい大きい子だと俺の言わんとする事は、なんとなくでもわかってくれるようだ。


「そうかあ。じゃあ、他の方面は?」


「ここは周囲の地形が厳しくて、後は下の方、南方向に行くしかないが、こっちはまた地形が輪をかけて険しいようだな。

 地図を見た限りでは、物凄い荒地が続くらしい。

 その方面から行ったら割と辺境となる田舎方面の街道に出るんだ。

 そっちの街の方が主街道筋沿いの大きな街よりも、まだ目がありそうだ。

 ニルヴァを目指すのなら、どちらから行っても距離的にはそう変わらない。

 そっちには辺境の街とかが地図に出ているな」


 澪は目を瞑って考えている。

 玲の事を考えているのだろう。


「とにかく行ってみようよ。

 玲を、この子をこんな草原の真ん中にずっと置いておけない。

 あたしだってキツイわ。

 それに……」


 賢いな。

 この子も俺と同じような事を危惧しているらしい。

 いずれ俺はこの子達よりも先に死ぬ運命なのだ。

 爺ちゃんと孫みたいなものだからな。


 そうしたら、俺の能力による食糧その他の補給は終わる。

 俺は健康に自信がない。

 それは明日突然にやってくる危機であるかもしれないのだ。


「わかった。

 それでは、下から行ける感じかどうか偵察してくる。

 それとも一緒に行くか?

 ここの様子もわからないのに、お前達だけを置いていくのも不安なんだよなあ。

 魔物に襲撃をされたりしたら、子供達だけでは一巻の終わりだ」


「うん。

 みんなで行こうよ。

 何かあってもいけないしさ。

 逆に、もしもおいちゃんが帰ってこれなくなったら、あたし達だけじゃどうしたらいいかわかんないよ」


 それがあったんだ。

 この危険な異世界にて小学生だけで御留守番なんてな。

 無いわ~、それ絶対に有り得ないわ~。


 留守中に何かあったなんていったら悔やんでも悔やみきれない。

 俺がトラブって長期帰れなくなる可能性すらある。

 街で拘束されて牢屋に放り込まれてしまったなんていったら!

 自衛隊装備を使って牢を爆破して出て来る事は可能なのだが、それだと御尋ね者確定だしなあ。


「じゃあとりあえず、いきなり大きな街まで行くんじゃなくって、一回皆で辺境方向から偵察に行くか」


「さんせーい」

「わあい、異世界を探検だね!」


「そんなにいいものじゃないんだけどな」


 それでも、あの迷宮の胃袋の中でくたばってしまうのに比べたら随分とマシな話さ。

 少なくとも、この子達はまだ生きているんだから。


こういう感じで迷宮が地球へ足を延ばすような部分も、この作品からダンジョンクライシス日本に引き継がれています。


たぶんこの作品の書き出しは、2016年の8~9月には書かれている「おっさんリメイク」よりも以前に書かれているような気がします。2017年の1月には既に書かれている形跡がありました。

おそらく途中で筆が止まってしまったのでこれを書くのを止めて、おっさんリメイクの設定で書き直したはずです。

そっちの方がスイスイと書け、投稿しても読まれましたので、そこから今に至ります。


おっさんリメイクの最初の構想自体は、このおっさんリメイク0でした。

2018年の5月くらいまでに書き足して、15話くらいまで書いてありました。


ダンジョンクライシス日本は、2017年の1月あたりから書かれていたと思います。

投稿開始は6月の終いでしたが。


「おっさんのリメイク冒険日記」コミカライズ8巻好評発売中です。

https://syosetu.com/syuppan/view/bookid/6287/

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