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17-1 戦乱の足音

 アルバトロス王国第二王子ミハエルは忙しく立ち回っていた。


     ◆◇◆◇◆


 あの男を帝国に送り込んで大正解だった。

 帝国には様々な波紋が捲き起こり、隙を見せた。

 膨大な量の情報が流れ込んできた。

 今はそれを噛み砕いているところだ。

 だが時間は無い。


 今までの流れも、朧気ながら掴めていた。

 帝国は奇襲による電撃作戦を遂行する予定だ。


 二年前のミレーヌ事件、他にエミリオの件もある。

 そしてスタンピード事件。

 本来ならば、もっと早く帝国は攻め込んできていただろう。


 だが、あの稀人の活躍もあって、それが出来ない間に帝国は第二皇子による半クーデター状態に陥った。

 この状態で攻めてくるというのだから、こちらから見たらお笑い草以外の何物でもないが。


 今回の事件で、元々人望の無かった第二皇子シャリオンの権威は更に失墜した。

 貴族平民を問わず、国民からは皇太子である第一皇子ドランの復帰が望まれている。

 無能な第二皇子を担いだ連中も焦っている事だろう。

 後が無いからな。


 見た目にもわかりやすい実績を作るために、アルバトロス王国に対して戦争を敢行するはずだ。

 ここは着実に叩いておかねばならん。

 二つ手を打つか。


 まずは友好諸国との折衝。

 出来れば連合王国軍を組めれば最高だ。

 諸国も帝国の蛮勇には、水面下では大いに深慮遠謀という感じに懸念を表している。

 世界の先行きを見据えて憂慮しているのだ。

 

 そして、更にあの男も焚きつけておこう。

 約束の時間だ。

 部屋の一角、指定した場所へ一瞬にして男が現れる。

 グランバーストだ。


「やあ、こんにちは。

 ミハエル殿下。

 今日は情報の話を聞かせてもらえるんですよね」


「ああ、君の御蔭で色々とわかった事がある。

 帝国はやっぱり攻めてくるよ」


「いつくらいに?」


「あと一週間以内っていうところだろう。

 奇襲作戦だ。

 もう戦の準備はとっくに出来ているんだからな。

 闇夜に紛れ、少数ずつで河を渡りこちら側で合流するらしい。

 こちらに帝国の協力者もいる。

 今そのへんを探らせているところだ。


 帝国内の移動や物資の運搬も偽装して工夫しているようだ。

 兵站として運ばれる物資も相当な量になるからな。

 極力収納も使ってくるだろう。


 連中は河を渡る際には、魔物避けの薬を使っている。

 今までもかなり渡河訓練はやっていたようだ。

 表向きは河ヘビなどの魔物の掃討という理由でね」


     ◆◇◆◇◆

 

 そうか、ついに来るのか。

 西の方からだよな。


「王国の勝算はどれくらいです?」 


「向こうの動きはかなり掴んでいる。

 まあ、それなりには、だな」


(この男をもってして、それなりにはか。それではこっちが困るんだが)


「ちょっと、これを付けてもらえませんか?」


 いつもの腕輪を出して見せる。


「これはなんだい?」


「それは転移の腕輪です。

 アイテムボックス機能と味方追跡用のマーカーの機能がついてます。

 殿下の場合はマーカー機能がメインですね。

 あなたは必要な時に捕まえるのが一苦労だから」


「突っ込み所が満載なのだが、他にこれを持っている者は?」


 王子も思案顔で訊ねてくる。

 腕輪を検分する目が真剣だ。


「王都冒険者ギルドのギルドマスターのアーモン、うちのアルスと真理、その他のケモミミ園の警備をしている冒険者二十名、現オルストン伯爵、そして他の稀人二人。

 それにキッチンエリのエリですね。

 あなたで二十八人目です。

 私は転移魔法を始め、自前の各種能力がありますので」


「そんなにいるのか……」


「まあ必要の無い人間には渡してませんよ。

 うちは色々と特別でして。

 それがあれば各国との調整も早く済みます。

 どうせ行くんなら早い方がいいです。

 緊急時なので、それに関して訊かれたら、宝物庫にあった奴を期間限定で借り受けてきたとでも言っておけば問題ないでしょう」


「そうは言うがな。

 まあせっかくだから、ありがたく受け取っておこう」


「そう来なくちゃ。

 これで疾風のミハエルの名にも更に磨きがかかりますね。

 じゃあ私も準備がありますので、これで失礼します」


     ◆◇◆◇◆


 アルフォンスが宙に溶けるようにかき消えたのを見届けて、ミハエルもしばし思索に耽耽る。


(アーモン、アルス。

 懐かしい名が耳に残る。

 二年前の空中庭園事件にて、彼らの望外の活躍が無ければ、妹のメリーヌもこの国も決して無事では済まなかっただろう。


 そして今回もあの暴れん坊や、神聖エリオンたるレインボーファルスが力を貸してくれている。

 これも始祖ヤマトの残してくれた加護のおかげだろうか。

 この前に兄上が、またとんでもない加護をもたらすような物を持ち帰ってきたしな。

 あれも、あの暴れん坊がやらかしたらしいが。


 ここが正念場だ。

 暴れん坊の炊きつけは終った。

 良い物も貰った事だし、早速出かけるとするか)


 とりあえず腕輪をチェックするが、使い方は王家にあるものと同じだった。

 以前あの男に宝物庫に入る許可が与えられたので、その時に仕組みを見抜いてしまったのだろう。

 自分も対帝国戦に備えて、腕輪の再現が出来ないかといろいろ試させたのだが無駄骨だった。


(やれやれ、これだから稀人という奴は。 

 そこに我が先祖も含めて。

 あの男が敵でなくてよかった事だと首を竦めるしかない)


 まずは隣国ハイドの王宮へ跳んだ。

 第一王女ミレーヌの婚約者シド王太子のいる国だ。


 各国大使館や友好的な王国への連絡手段『ツウシンキ』で先触れの連絡を入れ、転移魔法で行く旨を知らせておく。

 そして、その場でかき消える。


     ◆◇◆◇◆


 俺はケモミミ園に戻り、部屋でMAPを見ていた。


「国境間のかなりの距離を占めている河の長さを考えると、今の状態のままでは防衛が厳しいな。

 それに考えている事もあるし」


 そして園の大広間の方に顔を出した。


「にゃあ~」


 呼ぶ声がするので、見るとおチビ猫のレミたんであった。

 御気に入りの段ボール箱の中からだ。

 思わず、厳しく引き締まっていた自分の顔が綻ぶのを感じる。


 ちょっとは力を抜けよな、おっさんよ。

 気負ってばっかりじゃどうにもならん事も世の中にはたくさんあるんだから。


 運動会用に開発した段ボール箱が猫族には大好評だ。

 そういう訳で各サイズを作成して、それらに色々な模様を入れてみた。

 どうせなら商人向けに出せよと突っ込まれそうだが、そこは気にしない。

 俺は、只の幼稚園の園長先生に過ぎないんだからな。


 そういや最初は商人という触れ込みだったし、あれこれと商売はしているが。

 だってこんなに大量の子供達を抱えているんだぜ。

 この世界にないような教育プログラムも導入しているんだし。

 金がかかってしょうがねえや。

 しっかりと稼がないと。

 日本の児童養護施設とは違って、国や自治体から予算が出ている訳じゃないんだからな。

 誰も寄付なんかしてくれないし。


 とにかく可愛いは正義である。

 ネコミミも正義。

 しゃがみこんで頭をもふもふしてやると、レミも凄く嬉しそうにしている。


 異世界人たる日本人から見たら厳し過ぎるほどの、この子の年齢的な話もあるのだが、最初の頃に中々懐いてくれなかった経緯から、この子の事は人一倍愛しく感じる。


 この平和は必ず守り通さねばならない。

 なんとしても対帝国の対策を早速練らねば。

 それから面子を収集して、ケモミミ園防衛のための主だったメンバーを集めて会議を行った。


「どうやら、近日中に戦争になりそうだ。

 帝国が奇襲をかけてくる。

 俺をここへ足止めするために、ケモミミ園に攻撃をしかけてくる可能性があるんだ。 

 神聖エリオンたるファルがここにいるので普通ならそれもどうかと思うのだが、あの大馬鹿者の第二皇子の勢力ならば、そんな事には一切構わないんじゃないかと思っている。


 アルスはどう思う?

 昔、帝国の連中と激しくやりあったんだよな。

 ミレーヌ殿下から聞いたよ」


 アルスが昔を思い出すかのように腕組みしながら答えてくれる。


「そうだね~、もし来るとしたならバランの奴だねえ。

 あいつは僕とも因縁があるし。

 阿漕なだけのリックと違って、あれはヤバイよお。

『灼熱のバラン』の異名を持つ特殊な能力持ちだ。

 剣技や他の魔法なんかも超一流だし、何よりも経験の差が大きい。

 あいつが潜ってきた修羅場の深さは、同じSランクである僕にだって想像はつかない。

 その辺りの話は噂にしか聞いた事はないが、帝国から命じられた汚れ仕事をやりまくってきたんだろうから。

 とにかく真面にやりあわない方がいいとだけ言っておこう」


「そんなに凄い奴なのか?」


「ああ。

 僕だって、昔の案件で敵味方に分かれた時はマジで殺し合う寸前だったけど、あっちが交渉で引いてくれたからね。

 その時は奴が黙って引き下がるほど僕の方が圧倒的に有利な状況だったからいいんだけど、さすがにあのおじさんと対等の状況でやりあうのは御免だね。


 特に僕は重大な仕事中の彼をかなり強引に追い払った経緯があるせいで深く印象に残っただろうから、結構激しく恨まれていそうだし。

 彼、仕事に失敗がない事を自負していたから。

 あの時彼は凄い捨て台詞を残して退散していったっけ」


「あっはっは。やるじゃないか、お前」


「まあね。

 僕だって半端なく強いから彼に勝てない事はないと思うけれど、最後に僕の方も五体満足で終われるものかどうか、まったく自信はないな。

 斃せたとしても共倒れになる危険さえあるんだ。

 あのおじさんだけはマジでヤバイから。

 たとえ君とて、奴とやりあって無事でいられるかどうかは保証出来ない。

 何か必殺の手があるんなら、今からしっかりと用意しておくことだね。


 帝国もあいつが請け負うのなら、一冒険者が勝手にここを狙ったとか言って最悪は言い抜けるだろうし。

 ここには神聖エリオンたるファルちゃんがいるから、真面に帝国の紋章をつけた帝国兵は寄越さないでしょ。

 敵グループの中に瞬神がいるから、敵方の諜報連中はアドロス中をうろうろすると思うけど」


「そうか。

 とにかく最悪でも子供達は守らないと。

 リックの襲撃に備えて防衛の整備が進んだのはよかったな。

 その辺の事も更に進めておこう。


 エド、子供達の避難訓練を実施したい。

 今度は精霊の森も対象だ。

 あと、俺はバラン対策に入る。

 それは時間がかかる奴なんで、園の行事関係はちょっとパスさせてもらう。


 そっちは葵ちゃんがサポを宜しく。

 山本さんもフォローしてあげて。

 これは日本人でないと厳しい仕事なんだ」


 むろん、葵ちゃんは御気楽な様子だ。

 日本人の助手も手に入ったしな。


「任せといて~。

 でも戦争か。

 戦争は嫌だな~」


 山本さんは、またそれに輪をかけて暢気な事を言っていた。


「あの国って結構ヤバイ国だったんですね。

 大丈夫でしょうか。

 あ、出来る範囲で御手伝いしますよ。

 学芸会とクリスマスですよね。

 独身なんで、最近の幼稚園の行事の話はよくわかりませんけどねえ。

 その辺の御話はインターネット頼みです。

 あと、御節なんかの準備も進めておきますから。

 料理関係全般はお任せください」


「あはは、いや頼もしいね。

 まあ、なんとかなるでしょう。

 向こうはクーデターなんかやって自分から弱体化してくれているし。

 人材は王国に分がある。


 とにかく、ここへ攻めてこられちゃ敵わない。

 真面に普通の戦争をやったら、数で勝る帝国の方がアルバトロス王国単体よりも強いのは火を見るよりも明らかだ。

 なるべく敵味方が乱れ戦うような本格的な戦争になる前に潰すわ。

 でも最悪の最悪はこの王国が負ける事も想定はしておいてくれ。

 その時はケモミミ園をあげて他の国へ逃げ出すぞ。


 ただそうなったら難民となり、あちこちを転々としなきゃあならんかもしれない。

 みんな揃って地獄行きみたいなものだから、なるべくそうさせないようには頑張るけどな」


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[一言] 新生エリオン新しく生まれるエリオンってなんだよ。神聖エリオンだろ。
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