2 スーパーへ
結局、俺は開店時間になったらスーパーへ行く事を選択した。
それと、その三十分前の時間に開くはずの、その隣にあるドラッグストアへ行く算段をした。
医薬品を手に入れておきたいのだ。
もうコンビニでかなりの商品はゲットしたが、やはり食い物、特に生鮮食品の品揃えではスーパーには敵わない。
ホームセンターからの帰りに道すがら、自転車の量販店に寄って展示されている自転車を大量にコピーしておいた。
そして、なんといっても車だ。
4WDの不整地向きの車を大量に確保しておいた。
何故か知らないが、それが欲しいと強く感じるのだ。
これは俺の内なる者がそうしろと言っているので、決して無碍には出来ない。
それらの車の前を通りかかって、例の衝動がやってくる度に止まり、迷わずその車をコピーして確保しておく。
この手の車の愛好家はそれなりにいるもので、これも道すがらに、かなりの種類を手に入れられた。
ワンボックスカーやトラックなども各種入手した。
付近のバスターミナルに止まっていたバスも二台確保できた。
丁度居合わせたターミナル職員の人に聞いてみたら、今のところ運行を見合わせているようだった。
信号が停止しているため、道路の安全が確認出来ないものらしい。
車を動かさなくて正解だな。
この辺りは交通マナーが最悪だから、こんな時に迂闊に動かすと公共交通機関であるバスとて他の無茶運転をする車から体当たりを食らうぜ。
何しろ普通の状況ではないからな。
そして補充用の燃料が届くのかどうかもよくわからん。
俺は自家発電で動いているらしいATMを回って金を下ろしまくっておいた。
これも強い衝動を受けたのだ。
きっと何かの要件で金が要るのだろう。
四つの口座から、一日の引き出し限度額いっぱいの現金二百万円ほどを下ろした。
オンラインの通信が途切れていなくて助かった。
手持ちで持っていた六十万円と合わせて二百六十万円か。
多分明日にはATM内にある札の在庫が切れるか、あるいは電力が切れてもう金を下ろせなくなっているだろう。
果たして現金の補充が来るものかどうかもよくわからない。
幸いにして金には余裕がある。
お金があったって買える物が残っているかどうかすらよくわからないのだが、とりあえず何があるかわからないので今は現金を持っていたい。
まるで母親から聞いていた、金があっても物が買えない太平洋戦争中のような有様だ。
あれこれと片付けてきて、缶コーヒーを一本開けてから各部屋の荷物を収納していった。
なんと汚れまで収納出来てしまって、部屋の中が非常に綺麗になったな。
削れたり傷になっていたりしている部分は駄目だけど。
俺は何故か、ここの部屋を捨てなければならないような嫌な予感がしているのだ。
この手の予感はよく当たる。
いつでも身一つで出ていけるように準備しておいた。
そしてようやく九時を回った頃、ふうとばかりに息を吐いた途端にまた強い衝動がやってきて、今度は首が勝手にぐぐぐーっと曲がっていき窓の外を向いた。
こういう事は俺にはよくある事だった。
そうしたら、なんと眼下に見えるスーパーにもう人が大勢並び出している。
既に車もかなり並んでいた。
メインである第一駐車場が満車に近い。
十時開店だからと油断していたら、もうこの有様だ。
「し、しまった。
こんな日だから余裕を見て家を出ないといけなかったのに。
こいつは思いっきり出遅れた!」
俺は大慌てで部屋を飛び出していった。
全力で自転車を漕ぎ、ドラッグストアは諦めて、なんとかスーパーの二つある入り口の人の並びが少ない方へと潜り込めた。
ここは入り口のドアと中のドアの間にエアロックのような空間があるのだ。
そこで外から入り込むゴミや外気を遮断するためなんだろうな。
そこに居られたら、きっとなんとかなるだろう。
それから十五分が経った。
今はまだ九時二十分くらいなのだが、何故か店員がやってきて開錠してくれた。
いつもは時間ぴったりにしか店を開けてくれないのだが、今日はもう大変な騒ぎになる事が最初からわかっているので店長が諦めたものらしい。
うわ、危なかった!
先にドラッグストアの方へ行っていたら間に合わなかった。
皆、俺と同じ了見であるものか、ドラッグストアの方はさほど並んでいない。
例の衝動によって、体の奥から突き動かされるような感じで、俺はそれに押されるように店内へ突撃していった。
「買占めはしないでください。
買占めはしないでくださーい。
御願いします。
後から来る御客様もいらっしゃいますので」
店員達が大声で叫ぶ中、俺は中に入るとダッシュでパンコーナーの商品を高速で取り込んでコピーした。
買占めなんかしない。
全部コピーさせていただくだけだ。
そうしたって、どうせ全て売り切れる事が最初から決まっているので店も困らないし、他の客は俺が買わない分は助かるだろう。
そして次々と商品をコピーしていく。
必死に品物を詰め込んでいく買い物客の間を、買い物籠も持たずに走り回る。
こうすると、こんなに混んでいても案外と動きも早いものだ。
冬場なんてダウンジャケットを着ているだけでも買い物時に邪魔だし。
スーパーの商品は、もう棚ごとコピーしていく。
ドリンクコーナーへ真っ先に行き、次にパックの米や雑炊関係を高速コピーして、その右手の方面にあるレトルトやカレールウなんかを狙った。
そして、あると便利なシリアル関係もコピーしておいた。
そこから御惣菜コーナーへ向かい、おかずや弁当にツマミ類などのコーナーへ向かった。
まだ開店して間もない上に早期開場なので、それらは物凄く量が少ない。
あっという間に売り切れた。
仕方がないので、周辺で俺が手に入れ損なった商品を持っている人の買い物籠の中からコピーさせてもらった。
俺は缶詰コーナーの争奪戦の中でコピーを行ない、そのまま向かいにある即席ラーメン類を確保した。
ここでも棚から消えていた物に関しては、他の買い物客の籠の中からもコピーさせてもらった。
そして先に乾物を狙い、それから冷凍食品を押さえて、水を大量に使うので今回は人気の無い茹でるタイプの麺類と、それからウインナーやハムのコーナーへ向かう。
豆腐などの大豆製品に牛乳やヨーグルトにプリンその他も忘れずにコピーする。
ついでに特売のスイーツコーナーも全種類を獲得した。
本日は日替わりスイーツコーナーにショートケーキ類や高額なシュークリームなどもあって助かる。
今日はベルギーの有名チョコを使った二千円もする高級な御菓子も置いてある。
それらは、いつもは確実に売れ残る代物なのだが、今日だけはこいつもすぐに売り切れるはずだ。
そこから肉や魚、野菜などの生鮮食品をゆっくりと揃えた。
食い物ではないトイレットペーパーやインスタント食器類は取り損なったが、これも他の人のカートに載った買い物籠ごとコピーできたので、かなりの種類を確保出来た。
レジが大混雑しているので、長く列を作って並んでいる人の籠の中からもコピーし放題だ。
コピーの最中は商品が買い物籠の中から瞬間消えて軽くなっている筈なのだが、みんな案外と気付かないもんだ。
それどころじゃないし、そんな真似をされているとは露とも想像出来まい。
俺は、例の強い衝動が収まって満足するだけの収穫を得てスーパーを出ると、隣のドラッグストアへ向かった。
こちらも既に混雑していたが、まず各種トイレットペーパーなどの確保から始まり、飲料類や健康食品などや携行食糧などをゲットした。
それから医薬品全般、そしてシャンプーや毛染めに歯ブラシや各種ランプ球なども確保する。
もう棚ごと行う高速コピーがすっかり板についている。
コピーの意思を込めて目で見たら、その時点でコピー出来ている。
もう一人前の物体コピー万引き常習犯だ。
ドラッグストアの商品は食品類は少なめで値段も高めなので皆スーパーへ行くから、まだ残っている食品以外の商品も多くて助かる。
それから俺は車で出かけようとしたが、信号が動いていないので道路は大混乱だった。
さすがに車に乗るのは危ないので諦めて、また自転車で走り、近所にあるもう一軒のスーパーへ寄った。
こちらは近所の店と品揃えが違うのでまた色々とコピーして、こちらは惣菜も丁度並び出して争奪戦が始まった頃合いだったので良い物が手に入った。
コピーするだけでレジに寄らなくて済んだので助かる。
ここは近所の店よりも寿司がぐっと美味しいのだ。
帰る途中で作業服関係の店の前を通ったので、当然そこでも強い衝動が突き上げてきたので入店し、それらもたくさんコピーしていった。
こんな事態なのでこの手の物が必要とされるものか、そこも結構人で賑わっていた。
当然、軍手や作業靴などはフルコンプだ。
「そういや普通の服なんかも欲しいな。
俺ってあんまり服を持っていないし」
それは後で寄ってみるとして、その足で御目当ての大規模で一般的なホームセンターを目指す事にした。
車は大混雑というか、あちこちでぶつかって事故が起きている。
もう、みんな!
こういう時こそ落ち着いて走れよな。
こんな時には警察で事故証明を取るのだって大変なんだぜ。
諦めて自転車で行ったのだが、かなり走らないといけなかったので、到着した頃には買い物が一戦終わってしまった後だった。
そして残念な事にコンロ類は、もう一つ残らず無くなっていた。
市内全域でガスが出ないからなあ。
特に都市ガスを使っている家は困ってしまう。
「やっぱりスーパーとホームセンターの両立は無理だったか~」
スーパーにも安い通常のガスコンロとボンベはあって、なんとかそれもコピーで確保したのだが、ホームセンターに置いてある強力タイプのハイカロリー・コンロや、各用途別のコンロが欲しかったのだ。
もうそれらを持っていった人はどこにもいなくなっていて、客の買い物籠の中にも見当たらない。
そこの棚は空っぽだった。
だが、ありがたい事に小さくて割高な高級炭は少し残っており、炭のコンロはまだいろんな種類の在庫があった。
「まあ、普通のガスボンベで動くコンロは古い型が元からうちにもあったし、普通のコンロはスーパーでもなんとか手に入れた。
キャンプ用のコンパクトなCB缶用シングルバーナーは何故か残っていてコピー出来たし。
とりあえずはこれでいいかな」
あと、ありがたい事に武器になりそうな物、刃物類などはここでも大量にあった。
とにかく何かの役には立つだろうと、内なる衝動に押されるままに片っ端からコピーして回った。
それから近くにあったドラッグストアへ移動し、まだ残っている物をコピーして回る。
これも近所の店とは品揃えが違うので、これはこれで悪くない。
そこから少し戻ったところにある比較的大型のスーパーを覗いたら、惣菜が大量に並んでいて大戦果だった。
その他もたくさんの種類の食品なども手に入った。
ここは結構フルーツ類の種類が豊富なのだ。
そこにはテナントで百均の店もあったので、そこの商品もあれこれと入手できた。
そこと同じ区画にあるスポーツ用品店へ行ったら、そこは今やっと開店したばかりで、行楽シーズンに合わせてテントなどを含むキャンプ用品一式とビッグサイズのブタンガス・ボンベを使用したツインバーナーのコンロも並んでいてありがたかった。
商品はすぐに無くなったが、無事にコンロ類各種をコピー出来た。
さっきは強力なカセットコンロが買えなかったので、もう助かるなんていうものじゃない。
寝袋も各種の物が手に入ったし。
まだ商品が無くなっていなくて本当に良かった。
風の吹く屋外でも使えるガスコンロを渇望していたのだ。
きっと俺は今の家にいられなくなる。
そんな予感が犇々とするのだ。
何故なんだろうな。
だが、この感覚には絶対に従っておかねばならない。
それだけの謂れのある能力なのだ。
うっかりとこれに逆らうと、いつもそれで酷い目に遭うのだから。
ここは絶対に後悔はしたくないのだ。
それだけの状況なのであった。
とにかく色々と揃えていった。
それから国道一号線を高架の歩道を伝い大渋滞の国道を越えると、街にもう一軒ある大型ホームセンターに寄ってみた。
また、ここは他の店と趣が違うので、あれこれと入手しておいた。
ここは園芸コーナーが非常に充実しているので、そんな物までコピー三昧だった。
「腹が減ったな。
おや、もう十六時か。
夢中で走り回ってきた疲れが今頃になって。ふう」
もう若くないのによくやれたもんだ。
これくらいあれば、もう十分だろう。
そこから、もう少しばかり行ったところにある寿司屋へ行ったら営業してくれていた。
たいした事のない百円寿司だったが、こんな時にやってくれているだけありがたい。
「明日は開店できるかどうかわかりませんね。
どうも国道を始め、道路が完全に封鎖されているみたいなんですよ。
それに聞いていませんでしたか?
鉄道も完全に不通で、この市は完全に孤立しているんです。
交通も物流もガス水道電気などのインフラも完全に止まっています」
俺はその話を聞いて愕然としていた。
いやあ、おっさんリメイク本篇もかくやという凄まじい買い物っぷりでしたね。
元々はこういう感じの設定だったのです。
何故本篇をオートキャンプへ行く話にしたのか、もう今では自分でも思い出せませんねえ。
あの頃はキャンプ行きたいよなあとか朧気に思っていた気もしますし。
あれこれとパターンを考えていましたので、まあ最終的にああなったという事なのでは。
そんな「おっさんのリメイク冒険日記」コミカライズ11巻は2024年11月22日発売です。
https://syosetu.com/syuppan/view/bookid/6287/
毎度の事ですが、表紙に登場する真理のスカートの捲れようが際どいですね~。
本日18時より、『はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~』の外伝となる、「外伝 はずれスキル【第六天魔王】 異世界織田信長異聞」が掲載されております。
https://book1.adouzi.eu.org/n8617fw/
全五話となっております。
よろしければ、お茶請けにどうぞ。
もちろん第六天魔王様が大暴れしてござる。




