50 新たな日々
こうして私達の命懸けの冒険物語は終わりました。
そして私とシドは正式に婚約を発表し、私が成人を迎えた時期に結婚式を行う事が決まりました。
あれ以降は私にもエミリオにも特に不穏な出来事は一切なくなりました。
それも、とりあえずはという話なのですが。
まだアルスがエミリオのところにいてくれるので、エミリオは彼の話にもう夢中です。
今までのチーム・アーモンの冒険の事、ドラゴンスレイヤーとなりSランクになった事、それから空中庭園の物語も。
相変わらず楽しい学園生活は続きますが、私もシドと正式に婚約して、やがて王妃になる事が公式に決定いたしましたので、そちらの方の教育も始まりました。
うちは少々緩めの王家であったので、それが一番大変なようです。
さすがに、うちの御母様のように強心臓で豪放な真似は出来ませんので。
魔法だけならなんとか及第ですが、御母様は純サイラス産で南国育ちのせいか、心臓の毛の生育も半端ではないようなので。
サイラスといえば、サンレディは母国サイラスへと帰還し、向こうの王国騎士団へ無事に正式入団出来たようです。
その件に関して御母様を追及したところ、彼はあそこの見習いだったそうで、他の人には内緒という事になっています。
さすがに彼の正体がバレたらマズイです。
エミリオは、やはり彼が男だと知っていましたが、あの子は賢い子だし『御友達』を絶対に裏切ったりはしませんので。
私達が空中庭園で冒険をしていた時も、彼らはずっと王宮に残っていましたので、また随分と仲良くなったようです。
サンレディ(サンボーイ)は兄弟国の王国騎士になったので、きっとまたエミリオが会える機会もある事でしょう。
彼の頭上に鎮座ましましていたバンダナキャップを見た時に、その正体を見抜くべきでした。
あれから周辺諸国も交えて帝国の暗躍について会議なども催されましたが、結局帝国の空中庭園への手出しに関してはうやむやになってしまいました。
帝国の伯爵であるバランは居たのですが、他にも居ただろうと思われる人間も見かけませんでしたし、彼が一冒険者でもあるためグレー判定となったようです。
それも魔界の鎧が絡んでいなかったら、まだよかったのですが。
あの爆発で、はたして魔界の鎧が滅んだのかどうかもわかりません。
かつては倒す事が出来ないからこそ、あそこに封じたのでしょうから。
ただ一つ明らかな事は、あの場所で眠って(あるいは起きたままで)いた王太子アスラッドが、その不毛な使命から解放された事だけは確かなのでした。
生きたまま、永遠に魔を封じるためだけにそこにある。
王族としての使命、王太子たる者の務めのために。
シドも同じ王太子として、感慨深そうにその話を聞いていました。
私も、とうとうアスラッド王子のいらした場所は拝む事は出来ませんでした。
その区画は厳重に閉鎖されており、魔導キーがなければ中へ入る事は出来ませんでしたし、王族でなければ開けてはならない規則になっています。
今回は魔導キーがアレーデ用に調整されていたために、私が魔導キーを弄る事は出来ませんでしたので、そこを開けられる人間がいませんでした。
また、本来ならば用もないのに開けていい場所でもありませんし。
でも何者かが魔導キーを用いて、魔界の鎧を装着したアスラッド王子に干渉した事は確かなのです。
魔界の鎧は、あの爆発で宿主を失って滅んだものか、はたまたどこかの闇の中へと消えたものか。
それに関しては諸国も神経質なまでに気にしているようですが、証拠となる物はすべて大爆発の中で塵と化しました。
よくも悪くも大変でしたが、これで私の一方的に恋焦がれるだけだった恋物語の日々、そして陰謀に巻き込まれ大冒険をしてしまった物語はお終いです。
しかし、これからは愛するシドと二人で愛を紡ぐ日々を待つ、待ち遠しい日々が始まるのです。
これから花嫁修業(王妃教育)を頑張らないと。
結婚してハイドで暮らす時は、アレーデも一緒に向こうへ行ってくれる事になっていますから大変心強いです。
シドもまだ当分は留学を続ける予定です。
しかし、そのうちには彼も本国へ帰らなくてはなりません。
今度は王となるための本格的な教育を受けるために。
たとえ、それぞれの立場のために離れ離れになってしまったとしても、私達の心は一つです。
だって私達の恋は見事に成就し、愛の果実を結んだのですから。
多くの障害がありましたが、それすらも私達の恋を結ぶための物語の肥料でしかありませんでした。
そのために尽力してくれた、すべての人達に絶大なる感謝を。
これにて私メリーヌの恋物語は終わりを迎えました。
またいつか、皆様に御会い出来ましたなら幸いです。
ご愛読ありがとうございました。
前回は途中で終わってしまったので完結出来てよかったです。
2017年の初頭から書き出していた話でしたので、6年以上がかりで書き上げた公算になります。
もっと突っ込んだ内容にする予定でしたが、足早で少し端折った感じになってしまいました。
その割に本一冊分くらいの分量になってしまいましたが。
またそのうちに新しいエピソードを書きたいと思います。




