49 王都へ
「よお、お帰り」
「ただいま、アーモン」
「バランは?」
「あっさり引いたよ」
「そうか、そいつはいかにも計算高い奴らしい振る舞いだな。
御苦労だった、アルス」
皆が驚いて振り向く中、彼らはそこにいました。
地上にて仲間であるアルスの帰還を待っていたのです。
王国騎士団の皆様も御一緒です。
「チーム・アーモンの皆さん!」
「メリーヌ王女殿下、無事の御帰還おめでとうございます」
「ありがとう」
「いや、アルスの重力魔法で一緒に来たのはいいのですが、空中庭園がまだ帝国領上空にいましたし、あの状況では魔法が上手く使えそうにないのでね。
上へ行くのはアルスだけにさせたのです。
その方が彼も御荷物がなくて活動しやすい。
相手がバラン単独ならば、この状況でアルス相手では分が悪いのは知っていますから、おそらく引くだろうという見込みでしたので」
「空中庭園には他にも敵がいたようなのですが」
私の懸念に対して、そこからチームの参謀役であるレッグが言葉を引き継ぎました。
「そうでしょうね。
バラン一人で姫様の拉致と魔界の鎧へのちょっかいを同時にこなせるとは思えません。
へたをすると姫様の方が完全に陽動で、本命はあちらだったという事も考えられますが。
ただ、あれはその性質上、簡単に持ち出せるような物ではありませんのでねえ」
「そういえば、私を攫うのに失敗したにも関わらず、バランは『仕事をしくじっていない』なんて言っていましたから」
「なるほど。
いずれにせよ、おそらく姫様へのおかしな手出しはもう無くなるのではと考えています。
これだけの騒動を起こしたのですから、連中もしばらくは大人しくしているでしょう。
魔界の鎧を封印してあった空中庭園の消失は大変な事件であり、各国とも帝国への厳しい監視と追及があるでしょうからね」
「そうだといいのですが」
「我々も当分はアルバにおりますので御安心を。
このチーム・アーモンは今回を持って解散いたします。
私とアーモンはアルバ冒険者ギルドでギルマスとサブマスをやる事になっていますので、また何かあれば冒険者ギルドで承りますよ。
信用出来る人材の派遣も御任せを。
アルスも姫様の安全が確認出来るまではアルバに居させますから」
「そ、そういえば、元々アルスはエミリオの護衛で来てもらっていたんですよね」
「そちらの方も、おそらく当面は大人しくなるでしょう。
そして、これからはまた水面下での陰謀が巡らされる形になるのでしょう。
今回の件に関しての帝国の関与や、魔界の鎧の件については王国騎士団による捜査が進められると思います。
まあ一応は、一連の騒動の区切りはついたかなというところですか」
「そうだといいのですけれど」
「皆の者、御苦労だった。
感謝する」
「シド殿下も御無事で何より。
いかがでしたか、灼熱のバランの味は」
「ほろ苦い青春の味さ。
まったく世の中にはとんでもない化け物がいる。
私も、そのうちにはハイドの王になる身なのだから、もっともっと精進しなくては。
少なくとも愛する者を自らの手で護れるくらいには。
世の中にはアルスのような凄い男もいるのだから」
そこでアルスは横合いからタイミングよく会話に混ざってシドを持ち上げました。
「いやいや、シド殿下。
まだ御若いのに、なかなかの器量でしたよ。
愛する者のために命懸けで戦う男の中の男。
いやあ、いいですね。
男たる者はこうでなくっちゃ。
そこでいかがでしょう。
その精進のために、ちょっと僕と手合せいたしませんか?」
「この大馬鹿もん、今はそういう場合ではないだろう。
弁えんか!」
すかさずアーモンからの叱咤が飛びました。
ですが、それを笑いながら手で制してシドがアルスに敬意を示しました。
「ああ、そいつは本来ならば願ったり叶ったりなのだが、まあ今日は止めておこう。
私は王族だからと、ちやほやされて驕っていただけだったようだ。
はっきりと目が覚めたよ。
いい経験をした。
巧みな駆け引きで、あっさりとあのバランを引かせた君の卓越した交渉術はこの目で見た。
その後の我々を救ってくれた君の能力の素晴らしさも。
そして、あのバランの圧倒的な強さも。
今回の凄まじい経験も踏まえて、目標は君らSランク越えだな。
また修練を重ねて、その時に改めてあなたの胸を借りるとしよう」
「そうですかあ。
いやあ、残念だなあ。
本当に残念だあ」
相手が王族でも、露骨に失意を露わにするアルス。
いつシドに手合せの申し出をしようかと、ずっと機会を伺っていたものらしいので。
いかにも彼らしい振る舞いです。
そういう事を本音で言ってしまうところなんかも。
「まったく、お前という奴は」
「ははは、まあいいじゃないですか、アーモン。
彼の機会を逃さず強くあろうとする姿勢は高く評価します。
大体、アルスに強くなれと言ったのはあなた御自身ではないですか。
この子は、今もそれを忘れていないだけですよ。
彼にとっては、とても大事な大事な事です」
「む、それはまあ、そうなのだがな」
「まあ、いいじゃないのさ。
とりあえず、アルスにはもう一仕事してもらおうかね。
王女様方を王都へ送り届けないといけないから」
「そうだな。ではアルス、頼む」
「任せてー」
そしてアルスが収納から取り出した物は二台の馬車でした。
ただし、それらは馬の繋がれていない物なのです。
さすが如何に奔放な性格のアルスといえども、あの瓦礫に乗ったまま王族を連れての帰還はないようです。
「はい、皆さん。
これに乗ってください。
僕のスキルで運びますから」
全員が乗り込むと、御者台に座ったアルスがスキルを行使し、後ろの馬車も引き連れて浮かび上がりました。
王国騎士達が乗る馬も天馬のように天翔けます。
そして高らかにアルスが声を張り上げました。
「しゅっぱーつ。
行先は王都アルバ!」




