42 両手に花だけど、残念ながらチェンジ
「さて、両手に花で楽しくパーティといきましょうかね、おじさん」
一度剣を交えたバランを突き放してから、再度態勢を立て直して仕切り直すエンデ。
「ふ、薹の立った女と小便臭い小娘か。
パーティの面子としては最悪の組み合わせだな」
「なんだと、こらァ。
この糞親父、もう一遍言ってみろお」
「ふう、最悪のパーティですね。
おじさん、女からもてないでしょ」
「美人の妻はいた」
「ああ、ああ、そうですか。
さあかかってこい、この愛妻野郎」
「何、お前ら如きなど、かかるまでもないわ。
そらチェンジだ」
「何⁉」
「どういう意味?」
だが次の瞬間に彼女らの足元から灼熱の光が吹き上がった。
「ぐがああっ」
彼女達が持つ無敵の盾スキルは、その灼熱のまるで焦点兵器のように内部から超高熱で焼き上げる超高温のプラズマのような熱の塊を防いではくれたが、床は無残に溶け落ちて二人はしたたる金属塊と共に下の階層に落ちた。
それと同時に、まだ下の階層の床に着いておらず踏ん張れない彼女達を、背後から更に生まれた劫火の巻き起こす風が吹き飛ばした。
「ぐべっ」
「うぐ」
二人は勢いよく地下シェルターの金属壁に叩き付けられ、追撃してきたその絶大な劫火の塊は彼女達を包み込み、そのまま厚い金属の外壁を溶かし、その後も吹きすさんだ劫火の嵐はその外へと続く岩盤の外装をも溶かし尽くした。
そして凄まじい勢いで空中庭園の外へと放り出された彼女達を襲ったものは。
「ちょ、ちょっとたんま」
「うわっ、これはない!」
そう、空中庭園の下部の岩肌にズラリと並ぶ『対空砲火』の群れであった。
それはもうビッシリと並んだそれが一斉に火を噴いた。
もう空中庭園の自爆コードが作動し、彼らとて母体である大要塞と一緒に運命を全うするタイムリミットが迫っていたのだが、それでも彼らは最期まで勤勉なのであった。
依然としてセキュリティ高の状態にあるため、完全な無差別攻撃であった。
各種魔法が二人に向けて盛大に撃ち込まれてきていた。
さすがはあの錬金魔王の作だけの事はあり、味方に対してもまったく容赦なし。
「うわああああ」
「あたしらは味方よーーーー!」
さすがに無敵の盾を備えていてもこれはキツイ。
ここにアレーデがいれば、すぐにセキュリティレベルを落としてくれて攻撃は止むのであるが、そうはいかなかった。
同じくアレーデがいたなら、どこかの非常口を開閉してくれただろうから中へ入れたのだが。
大慌てで一旦、空中要塞から離れた二人なのであった。
攻撃を受けない距離を取ったまま、空中庭園をピタリと追尾していく。
「マズイなあ。
姫様から離れちゃったのは失敗でした」
「でもエリス、あたしら二人がかりで対応したから、こうしてまだ全員が生きていられるんだけど」
「ええ、あそこまで強烈なスキルだったとは。
あんな炎で内から焼かれたら一溜りもありませんよ。
彼は噂通り破天荒なほどの強者でしたね。
先祖伝来のスキルに大感謝です」
「炎っつうか、あんなの純粋な熱の塊じゃないの。
灼熱とはよく言ったもんよ。
炎というよりも光の塊みたいだったわよ。
おっと、ツウシンツウシン」
今まで抱えていたエリスを自分に捉まらせ、空中でツウシンキを取り出した。
さすがに空中で抱えるには、やや大きめのサイズであったのだが、なんとか片手で持ちながら操作する。
「おーい、スカポンタン」
「あ、王妃様、王妃様ー。
ツウシン、入りました~」
「あっちゃあ、人にツウシンキの番をさせていたのかあ。
でもスカポンタンって言っただけで、あいつの事だって通じちゃうのね」
しばらく向こうでドタバタしている気配があって、王妃様が出たようだ。
「どこ行ってたのよ。
こっちは危うく死ぬとこだったっていうのに」
「いや、ちょっと御花摘み」
「ふう、いやいいけどね。
案の定、帝国のバランが来たわ。
そして自爆装置が作動したみたいだから空中庭園が爆発します。
でもって、あたし達は外へおっぽり出され、飛行しながら空中庭園を追尾中。
おまけに、外にいるあたしらが件の空中庭園のセキュリティから攻撃されている為体だわ。
あんたの娘は侍女と一緒に空中庭園内部で逃亡中よ。
拉致対象である娘ちゃんは殺されないと思うけど、侍女の方は処刑寸前で風前の灯。
乞う応援、大至急!」
「あっちゃあ、そいつはまた最悪の状況になったわね。
あれ、もしかしてあっちの方が本命だった?
うちの娘にしつこくしておけば、あれを呼ぶんじゃないかとか思って」
「さあ、それはわかんないけど、娘ちゃんも狙われているわね。
全部バランの仕業ならまだしも、他に魔界の鎧へ手を出した仲間がいると面倒だなあ。
セキュリティが高になっているから中へ戻れなかったし、他の入り口からも入れない。
困ったねえ」
「う、予備の魔導キーは手元においたままだし、アレーデが気を利かせてくれるのを待つしかないわね。
というか、その自爆モードの状態でキーの指令をちゃんと受け付けるのかしら。
さすがに、その状態では何がどうなっているものかわからないわ。
こうなったら現地へ向かった王国騎士団とチーム・アーモンに任せるしかないわね」
「よろしくー」
些かゲンナリしつつも、通信を切ってから監視のために空中庭園を追尾するしかない二人なのであった。




