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39 敵侵入

 空中庭園の居住区というか地下施設は、かなり広い構造になっています。


 外にある上部の区画は昔の建物が立っていて、半ば遺跡のような趣があるのですが、それはわざとそういう感じに作られているものらしいです。

 そこには古風な城のような物も建てられていますが、それは稀人世界にあるデザインであった物のようです。

 その辺りを散策するのは、散歩というよりも探検と呼んだ方がよいのかもしれません。


 その一方で、地下施設は快適な宿屋、あるいはなんらかの集団で滞在する施設であるかのように作られていました。

 その館内の広い通路を全員で足早に警備管制室へと向かっていきました。


「ふう、ここは広いわね。

 うちの王宮並みの広さだわ」


「最初にあったような通路を動かす仕組みもあるようなのですが、使い方がよくわからない上にどこへ行ってしまうものか見当がつかないものですから歩くしかないですね。

 そもそも姫様だけ置いていくわけにはいかないですし。

 ここは皆で一緒にいた方が安全です」


「それもそうね」


 こんな時に一人だけ置いていかれては堪りません。

 また、こんな状況で二手に分かれてしまうのもなんですしね。


 今も激しく上では破壊音というか爆発音というか湧き上がっていて、空中庭園もわずかに揺れて、鈍く断続的に振動が伝わってきます。

 きっと外では激しい戦闘が行われているのでしょう。


 おそらく、この要塞は到達困難な飛行要塞という事もあって、敵に乗り込まれるという状況はメインシナリオではないのでしょう。


 一旦敵に取り付かれてしまった場合、さほど内部への侵入者に対する防御が優れている気がいたしません。

 あのシェルター部の分厚い金属外殻を突破された場合は内部での戦闘になる事が想定されます。


 どうやら私も覚悟を決めないといけないようです。

 たぶん、魔法限定の条件ならこの中では私が最強と思われますので。

 ただ、このような屋内では魔法の行使も限られてしまいますし、私には戦闘経験がありません。


 いっそ敵に踏み込まれた時には、御二方に足止めを御願いしておいて、私は戦闘時には足手纏いになりそうなアレーデを担いで飛んで逃げた方がいいかも。


 普通の魔法使いなら十五分で滞空時間が切れると言われるフライの魔法も、私は膨大な魔力と御母様譲りの能力で、ほぼ無限に飛んでしまえます。


 今、アルバトロスからどれだけ離れているかわかりませんが、私なら余裕でアルバまで帰還出来るでしょう。

 そういう事もあって、両親は私をここへ送ったのでしょうから。


 あるいは、最寄りの国のアルバトロス王国大使館へ駆け込むという荒業もあります。

 その場合の問題は、もし敵が追撃してきた場合には、そこまで行くまでの間に振り切れずに捕まってしまうだろうという事です。


 さすがにアレーデという斤量を抱いて飛行魔法の制御をしながら、強力な防御魔法や攻撃魔法を次々に繰り出すのは困難です。


 おまけに、おそらく相手は歴戦の手練れであるだろうに、こっちは只の素人の子供なのですから。

 そのような事に思いを巡らせている間に目的地へと着いたようです。


「皆様、ここがそうらしいです」


 魔導キーで鍵を解除された部屋の中へ入ると要塞内の内部図が階層別に表示されており、全体が薄緑色に淡く光っています。


「ほっ。まだ敵は侵入してきていないようですね。

 敵が侵入してくれば警報が鳴るはずなのですが、それも相手に無効化されてしまわないとも限りませんし。

 まあ、ここの表示は侵入箇所からは無効化出来ないと思いますので御安心を」


「敵が侵入してくると、そいつはどうなるんだい?」

「はい、その階層が全体的に赤っぽくなり、敵の侵入位置が赤く点滅します」


「ここの内部の警備システムはどうなっている?」


「ございますが、中に我々もいますので、外のような高セキュリティは望めません。

 相手がバランのような強者であるならば、せいぜい足止め程度にしか役に立たないかと。

 基本的に白兵戦か脱出かの二択になります。


 ただ高威力の魔法戦闘は強力過ぎて、内部での使用が難しいかもしれません。

 防御魔法及び、エルシュタイン家御二方の防御スキルが有用と思われます。

 ただ防御目的が主体であり、強力な戦闘を想定したメンバーではありませんからね。

 今回は特殊事情によりメンバー選定の縛りがきつかったものですから。

 また空中庭園で、ここまでの襲撃があるとは予想されていませんでした」


「ふーむ」


 エンデさんは一頻り唸ると、またもやツウシンキを取り出して連絡を始めました。


「へーい、ロッテちゃんやい」

「ちょっと! 今他の人もいるんだから、その呼び方は止めてちょうだいな」


「おっと。

 ねえ、どうしようか。

 敵に取り付かれて、現在防衛システムが絶賛敵と交戦中よ。

 今のところ、まだ敵さんに内部へは侵入されてはいないんだけど、それも時間の問題かも。

 ほぼ逃げの一手といった体制かな。


 相手の規模とか能力とかはまったく判明していないんだけど、高度を落としたとはいえ、かなり上空を飛行中のこいつに飛び乗ってこれるような奴だから結構手練れだと思うよ。

 大軍じゃないと思うが、単身で乗り込んできているとも思えないし。

 少なくとも一人はあの灼熱のバランである事が想定されるわ」


「あー、その件だけど、チーム・アーモンと王国騎士団を応援に送ったわ。

 予備の魔導キーで確認したけど、あと二時間で王都へ帰還出来る距離だと思うから、こちらからも向かっているから、それよりも早く合流出来ると思う」


「んじゃ、そいつらが着く前に連絡を入れてほしいのだけど。

 今、御外は無差別攻撃で敵さんを自動迎撃中だから、迂闊にここへ取り付くとヤバイわよ」


「わかった。

 じゃあ、そうさせる。

 また何か状況が変わったら連絡をちょうだい」


「はいなー」


 それからエンデさんは、ん-っと大きく伸びをすると、ボキボキっと両手の指を鳴らしました。


「ん-、指が鳴るねえ。

 こういうのも久しぶりだな。

 鈍ってる体を解すには丁度いいくらいか」


 何か凄い事を言っている人がいます。

 エリスさんも、一族の叔母様に倣って指をボキボキと言わせ始めました。


 なんて頼もしい方々なのでしょう。

 護衛される側としては大変心強いのですが、普通は指が鳴るではなくて腕が鳴るというのではないでしょうか。


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