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38 干渉

 そして事件は唐突に起きました。

 ある日突然に空中庭園が激しく揺れたのです。

 サロンにて御茶を飲んでいたら、椅子が倒れテーブルも激しく動きました。

 私の御気に入りのカップが二回三回と飛び跳ねて、床に落ちて中身ごと無残に砕け散りました。


 何かいきなり下へ落ちるような感覚に、真面に立っていられません。


「きゃっ、何!」


「わかりません。

 姫様、早く伏せて」


 同じく自主的に姿勢を低くして、こちらへ寄り添ってくれていた二人のエルシュタインの女性は顔を顰め、アレーデに問いました。


 私達は彼女らの防御シールドで護られています。

 こちらへ倒れかかって来た椅子が防御シールドに弾かれて、くるりっと回って倒れていきます。


「おいおい、管理者殿。

 これは一体何事だ」


「わ、わかりません。

 ここに残されていた一部のマニュアルも拝見いたしましたが、詳しい事はわかりませんでした。

 本来この空中庭園は細かい機動を私が付け焼き刃でコントロール出来るような簡単な物ではありませんので。

 この大要塞は位置を特定されぬように、同じ軌道は取らない事になっているはずなのですが。

 リターンを望めば、王宮前広場へ自動で戻る事になっています。

 これは何が原因なのか」


 それを聞いてエンデさんは考え込む様子であったのですが、収納から小柄な椅子ほどもあるサイズをしたツウシンキの魔導具を取り出して御母様に連絡しています。


「おーい、スカポンタン。いるかな~」


「いるけど、その懐かしい呼び方は止めてちょうだいな。

 もう、いきなりどうしたの?」


「なんか、この浮遊島が勝手な動きをしているみたいなんだけど。

 無茶苦茶に揺れて、今も激しく揺れている。

 激しく奈落まで落ちているっていう感じじゃないと思うんだけど、最初は下へ落ちていくような感覚だった。

 何が起きたのか、よくわからないの。

 これは何故」


「むう、なんですって⁉」


 どうやら、御母様には心当たりがあるような雰囲気です。


「どした?」


「いえ、それはおそらく何者かが空中庭園のコントロールに干渉しているのでしょう。

 昔の文献に、そういう事象が載っていました」


「つまり?」


「現在、管理者権限を持つのはアレーデの魔導キー。

 しかし、何者かが別の魔導キーで干渉しているのかもしれない。

 その場合は異なる命令がぶつかり合って、そういう感じの事象が起こるはず。

 でも安心してちょうだい。

 他の管理者権限のない魔導キーで、その空中庭園をどうこうする事は出来ないはずだから。

 たぶん、緊急停止命令というか任意の場所への着陸命令を出した奴がいるっていう事よ」


「え、そんな事が出来んの⁉」

「魔導キーと、それを使う充分な知識さえあればね」


「それは他にあるの?」


「王家の予備が一つと、我が国の公爵家はそれぞれ持っているけど、それも国王の許可がないと各公爵家の本邸にある保管庫から出せない特殊な仕様になってるわ。

 まあ、大昔にどこかでスペアが作られてしまっていないとは断言できないけど、あれはそう簡単に作れるような代物じゃないのよ」


「でも実際に使われているじゃん」


「うーん、そうなんだけどね。

 万が一、違法なスペアキーがあったとしても今まで使われた事は一度もないわ。

 この空中庭園自体が滅多に使われないものですもの。

 もし、そんな物があって使用されていたなら、王都でアラームが鳴って異常を知らせてくれるわ。

 アラームは今確認させる」


「ちー、一体誰が。

 それにしても、ここなら難攻不落かと思っていたのに、まさかそんなシステムになっていたとは」


「わからない。

 それで、どう。

 空中庭園は落ちそう?」


「うーん、なんとも。

 あ、揺れは落ち着いたかな」


「あー、魔導キーのログ表示を見ると、一時的にかなり高度が下がっていたみたいですね。

 体感以上に高度が下がっていたようです。

 でも高度は正常に戻りつつあります」


「だとよ」


「そう。

 どうしようか。

 一度王都まで戻ってくる?

 もしも干渉があったとすると、直に敵の襲撃がある事が予想されるわ」


「だってさ」


「わかりました。

 それでは、今からホーミングの指令を」


 でも、アレーデはすべてを言い切る事が出来ませんでした。

 今度は頭上で激しい大小の爆発音が連続して起き、またもや激しく揺れたからです。


「敵の攻撃? いや、これは防衛装置による迎撃なのか?」

「さては先程高度を下げた時、敵に乗り移られましたか」


「うわ、敵が来ちゃいます!?

 えーと、セキュリティのレベルを高にしてっと。

 皆様、今よりこのシェルター区画の中から外へは絶対に出ないでください。

 迎撃を強化いたしましたので、我々まで防衛装置からの攻撃を受ける恐れがあります」


「やれやれ。

 敵は中へ入ってきちゃいそうかね」


「わかりません。

 敵の正体もわかりませんし。

 しかし、ここの頑丈な居住区へ簡単には入り込めないはずなのですが。

 内部の警報装置は、警備の管制室がありますのでそこで見られます」


「じゃ、今からそっちへ行こうか」

「は、はい」


 これは豪い事になったものです。

 まさか、ここへ乗り込んでこれるような敵がいたとは。


 まあ、どこが攻めてきたかなんて子供でもわかりますけどね。

 そして、おそらくこのような芸当をやってのける事が出来る人物となると!

 ついに我々が恐れていた「あの方」がやってきてしまったのでしょうか⁉


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