37 スリーピング・ビューティ? イン空中庭園
「あいたたたた、頭いた」
「姫様、成人前のくせに飲み過ぎるからですよ」
「だってえ、みんな凄く弾けているんだもの。
つい……」
ふう、やってしまいました。
あのウワバミ連中相手に飲み比べだなんて、齢十三歳の王女がやっていいような事ではありませんね。
あの人達なら、ドワーフを相手にしても宴会をやれそうです。
アレーデは成人していますし、飲み慣れているので平気の平左です。
私は今、自分のベッドの上で唸っています。
こんなところだけはシドに見られたくはありません。
しかし、この超快適なベッドが千年前の製品とは。
布団もシーツも、まるで干したばかりのような心地良さを伝えてきます。
我が国は、もしかしてこの千年の間に退化しているのではという危惧さえ抱いてしまいますね。
なにしろ、この国で伝説の稀人世界を知る人間と言えば、多分あの初代国王様以外には存在しないのですから。
それほどまでに感じ入る寝心地なのを、これを御用意してくれてあった御先祖様に感謝しつつも、とりあえず私は唸っている事しか出来ません。
「あの方々は?」
「空中庭園の探検に行っていますよ。
まあ襲撃に備えて、ここの各種施設と地理の確認も兼ねて」
「あのう、私の護衛の御仕事は?」
「パトロールも兼ねて、あれこれと把握しにいっています。
ここは比較的安全ですよ。
早朝に出発いたしましたので、敵も空中庭園への進入は出来なかったと思いますが、もし賊がいるとしたら、ここの施設の外になりますので。
あの二人はシステムに登録されていますので安全ですがね。
まあ、早い段階で色々と把握しておきたいのでしょう。
ここの安全確保はプロに任せておきましょう」
「はあ、そうしておきますか」
というか、とりあえず私は寝ているしか出来ませんがね。
あ、もしかして、安全確認が出来る前に私がやたらと外をうろうろしないように飲み潰されてしまったとか。
うーん、あの人達ならば、それくらいの事は平気でやりかねません。
◆◇◆◇◆
「へえ、こんな風になっているのですね」
「ああ、なんか変な方向へ行っているね。
まあアルバトロス王国のやる事だから」
本来ならば、そここそが空中庭園と呼ばれるようなスペースなのであった。
日本でいえば、高層ビルの屋上などに在って木々や花壇などがあり、ベンチなどが置かれているあれである。
だが、そこはなんというか、また異様な場所であった。
庭園と呼ぶには少々抵抗があるような場所であったのだ。
一応は庭園部分もあり、木が植えられて花壇やベンチなども置かれ、茶会をしたり休憩したり出来そうな素晴らしい建物も置かれてあった。
そういう雅な場所も存在したのであるが、それで終いとなるような温い空間ではなかったのだ。
平坦な場所に、あちこちにポッドというかトーチカというか、そういう物ではないかと推察されるような銀色をした何かの構造物が、せりだしたというのが正しいような感じに屹立していた。
おそらくは、久しぶりにこの空中庭園を利用するゲストがやってきたために、防衛機能が目覚めて警戒態勢を取っているのではと傍目には映る。
それらは見る者に対して、そこまでの違和感を与えるほど周囲の景観や施設と合っていない。
縦と奥行きがニメートルほどで幅が五メートルの立方体、そういう感じの物体があちこちに立っていた。
それらも床からは独立して存在するのではないかと思われる節がある。
床から生えているという感じではなく、固定されておらず回転したりずれたりするのかもしれない。
要は向きや位置などを変えられるようになっており、侵入者に対して強力な防衛機能を有するというか。
地球でいえば、昔の戦艦や巡洋艦などに備えられていた機銃や副砲などを連想するような雰囲気だ。
先日は重力式の魔導エレベーターを降りてから、自走式通路にて直接居住区へと向かってしまったので全容はよくわからなかったのだが、中心部から外苑までズラリと防衛機構が並んでいる。
おそらくは対空防御も兼ねていて、下側の円錐部分にも似たような機構が備わっているのだろう。
何しろ全周囲が天空となる位置に存在するフライングフォートレスと呼ばれるような代物なのだから。
元はその殆どを雅やかな空間が占めていたかもしれないのだが、今や一部を除いてこうなってしまっている。
そしてエンデは、それらに『監視』されている事に気が付いていた。
アレーデは登録されていると言っていたので、御蔭で攻撃を受けていないのだろうと推察していた。
「こいつは、かなり剣呑な仕掛けになっていそうだね」
「ええ、これは初代国王様が御健在のうちにフォートレスと呼ばれるようになっていたそうですから、当時からこうだったのでしょう。
元々は遊行用の用途であったものが、後世に残すにあたっては防衛用としての任務を与えられたのではないでしょうか」
「下の岩くれ部分にも何か仕掛けがありそうだね」
「たぶんそうなのでしょうね。
一般的な敵に対しては、これらの防衛装置が働くとみていいようです。
ただ問題は」
「灼熱のバラン。
あいつは要注意だな。
チーム・アーモンも気にしているしね」
「王国の盾エルシュタイン一族にとって腕の見せ所ですね、御姉様」
「ま、そういう事さね、御嬢ちゃん」
そう言って豪快に笑い声をあげる、王国の盾ウーマンズなのであった。




