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35 シェルター?

 それから、その通路はアレーデの操作により、なんと走り出していきます。

 通路の構造は何か人工物で作られたトンネルのようになっているようです。

 あるいはチューブといった方がいいのでしょうか。


「うわっ」

「これは自動で私達を居住区へ連れていってくれますので」


「ほお」

「これはまた」


 その唐突な出来事に慌てているのは私だけだったようです。

 うわあ、これは恥ずかしいですわ。

 本来なら、私がこれを管理している一族の人間なのですから。


 そして到着した先は屋根付きの小広場のようなところでした。

 屋根と言っても、これまた非常に重厚そうな、やたらと頑丈そうなものでありました。

 なんといいいますか、真上に施された盾と言うか装甲版のような趣でありますが。


 私はその建物を見て、しばし沈黙を保ちました。

 思わず目を瞠り、その場に立ち尽くしてしまいました。


「こ、これは」


 しばらくの後に振り絞った言葉はそれだけです。


「へえ、よいではないですか。

 防備は大変固そうです」


 さすが王国の盾と呼ばれる一族の人間だけあって、そういう事には関心が高い御様子であられるエリスさんの意見です。


「まあ、なかなか頑丈そうには見えるね。

 いいんじゃないかな」


 エンデさんのAランク冒険者的な御意見も出されたようです。


「王族を守るのに適した構造ではありますね」


 期間限定で、ここの総責任者に任命されたらしい我が友が、そのような事を言っております。


 それはいかにも分厚そうな金属製の、なんといったらよいのか、まるで戦争から非戦闘員が避難するための退避壕のような趣を全身から放射している何かでした。


 平坦な土台の上に設えられた小山のような感じの地形があり、その岩肌に金属壁が露出して、同じく金属製の扉が鎮座ましましています。

 おそらく岩肌は防壁の役割りを果たしていて、その下に金属製の構造物が存在するのでしょう。

 そのような雰囲気の形状です。


 その内部への侵入を試みる全ての外敵を頑固一徹に拒むかのような、今まで私が見た事もないほど堅固に出来ていそうな大型で長方形をした扉は、まるで伝説の巨人戦士がもつ鋼の大盾であるかのよう。


 外壁にも幾何学的な長方形の形に凹凸が付けられて、『折り曲げ強度』を増すかのように形作られた壁。

 一体どこの何者が、この天高く空中を漂う大要塞にある建造物を折り曲げに来ると想定されたものなのか。

 私のような浅学な若輩者には見当もつきません。


 確か金属壁の場合は、この形状は破城槌によるアタックにも大変有効なのではなかったでしょうか。

 ここまでして、只の鉄ではなさそうな特殊金属か何かで、このような構造物を建造する資力のある国はそうないと思われるため、そうそう見かけるような物ではないと想定できます。

 技術的な問題を除いても、まず有り得ないでしょう。


「……こういう場所だから、御母様がここを私の退避場所に選んだのですね」


「へえ、伊達にフライング・フォートレスなんて呼ばれていないね。

 いや気に入ったよ」


「まあ、空の上なら敵の攻撃もまず受けないしね」


 先祖代々伝えられたこの空中大要塞である施設が、私の護衛の方々には大変好評だったようで何よりです。


 いやあ、当分の間この大要塞の中で暮らすのかあ。

 シドと完全に離れて暮らす苦痛と相まって、しばらく憂鬱な気分に苛まされそうです。

 今まで、いかに自分の生活が恵まれていたか、今更のように実感できます。


 でも、このように頑強な退避場所を自分の家で備えているだけ素晴らしいとご先祖様に対して感謝しなければならないのでしょうね。

 さすがに帝国からの絶え間ない襲撃を受けまくるような日々は嫌です。


「では皆様、中へどうぞ」


「重そうな扉ね。

 私達に開けられますでしょうか」


 だがエンデさんは腕まくりをして前に出ます。


「どれ、試してみますか」

「あ、私も挑戦してみたいですね」


 何か鍛練をするかのように火がついてしまった方々がいるようで、私は少し顔を顰めましたが、それをアレーデが手で制しながらスティック形状である魔導キーを前に差し出し、何かのボタンを押しました。


 すると音もなく滑らかに扉が外側へと開きました。

 つまり、外から扉へかかる力に抵抗するような構造になっているわけです。


 逆に引っ張り力には弱いわけですが、まあそういう事を行いやすいとっかかりになるような物は特になさそうです。

 真ん中で開く構造になっている扉の開口部に当たる端部分には何の凹凸も設けられていません。


 これを素手で開けようと思ったなら、まずこの金属面に指を突き刺してそこを手掛かりに引っ張るしかないわけですが、そんな芸当が出来そうなのはドワーフの戦士くらいしか思い当たりません。

 彼らは鍛冶と御酒にしか興味がないでしょうから、こんな物には攻めてこないでしょうけれど。

 そもそも、あのオリハルコンさえ加工してしまう彼らなら、この程度の物は鍛冶の材料にしてしまいかねません。


「へえ、魔導式の扉か」


「えー、つまらないなあ。

 手でも開けられないのですか」


「凄く力のある人なら、それも出来なくはないのかもしれませんが、魔導の機構が壊れるかもしれないので止めてください。

 それだと敵が入り放題の状態になるじゃありませんか。

 ドワーフじゃないのだから、私にはこんな金属扉を直せませんよ。

 魔導のギミックもあるのですし。

 それにきっと警報装置が作動して、我々が侵入者と見做されて排除されますから」


「そうか、そいつはつまらないね」

「つまりません」


 そんな碌でもないタイプの不平は扉の外へ置き去りにして、アレーデは先頭を切って建物の内部へと入っていきます。


 中は案外と普通でした。

 外側の厳めしさとは裏腹の、壁材などの柔らかさを表現している質感に色合い、そしてホッとさせてくれる色合いなど。

 まるで最高の高級宿屋であるかのような佇まいを見せる古代施設。


「なんとまあ。

 これが千年前に作られた施設なのですか⁉

 信じられない。

 まるで昨日今日作られたかのような新しさです」


「へえ、まるで大規模な魔導設備だねえ。

 ああ、こいつは魔導王国アルバトロス製なんだった」


「そりゃあまあ、錬金魔王と異名を取った御方が製作し、元々は愛する奥さんのために作った物ですからね。

 状態保存の魔法もかかっているようですし、照明の魔導具も設置されているというか、壁材そのものにそういう加工があるようです。

 特に要塞化された部分なんかは、後からだいぶ魔改造されたようなのですが」


 かなりの反響を呼んでいる我が王国の空中庭園なのでありますが、個人的にこの内部設備に関しては御先祖様に対して大いに感謝の念を捧げたいと思います。

 何しろ、中へ入る前に外観を見ただけの時は『苛酷な要塞暮らし』を覚悟していましたからね。


 ああ、シド。

 そして家族のみんな。

 大国の王女ともあろう者が、こんな無様な事になってしまいましたが、私はここでしっかりと頑張りますよ。


 とりあえず、早く娑婆(ちじょう)へ帰れる日が来る事を祈って!


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