33 古代文明? の遺産
この重力エレベーターなる物。
それが一体どういう原理で、またどういう感じに動いているものなのか、私などには皆目見当もつきませんが、ただ今それに乗って絶賛未知の領域へと上昇中の私達一行でありました。
このような高さの構造物など世界のどこにも存在していません。
何か知りませんが、物凄い代物である事だけは理解できます。
その巨大な伝説のオブジェは、地上すれすれに浮かんでピタっと制止しており、そこから形のない魔法の昇降装置により高さ七百メートル以上はある頂きまで一直線に私達を運んでくれています。
一応、エレベーターの範囲がどこまでか表すために床が光っており、壁にもシールドが張られていて乗っている人間が落ちない仕掛けになっています。
何しろメンバーがメンバーだけに、ビビっているような奴は約一名しかいません。
あ、もちろんそれは私の事ではありませんよ。
私は風魔法が得意なのでスイスイと空を飛べますので。
子供の頃は「雲雀のメリーヌ」と呼ばれていたものです。
当然その命名者は御母様ですけれど。
もちろん空の飛び方は彼女から習いました。
「ひ、姫様。さすがに高いですね。
ここから落ちたら一巻の終わりです~」
「安心おし。
万が一装置が故障して空中へ投げ出されでもした時は一緒に抱えて飛んであげるから。
この中で他に飛べないのはエリスさんくらいだけど、あの人は違うスキルでなんとか出来そうだしね」
あの人ならきっと無敵の盾の力で落下の衝撃を相殺出来てしまいそうだし、たとえ落ちてしまったとしても盾スキルをこのフォートレスの岩肌に左右交互に食い込ませる感じにして、鍛練代わりに山登りくらい楽しんでしまいそうな方です。
強者とは、きっとこういう人の事を言うのでしょうね。
「ああ……自分の能無しぶりが辛いですわ」
そんな事をこの面子の中で言われたってね。
「安心しなさい、アレーデ。
こう言ってはなんですが、日常業務全般においては、この面子ならあなたが最強よ。
だから私と一緒に行くんじゃない。
今から始まる未知の生活において、この中では誰よりもあなたの事を一番頼りにしているわよ。
何しろ、他の使用人を連れていくわけにはいかないんですからね」
「は、はい。
こちらこそ頼りにしていますよ、姫様。
それにしても、まさか私なんかがこのような伝説の代物に乗り込む羽目になろうとは」
だが乗客の中には、こんな事を言っている方もいます。
「あら、アレーデったら軟弱ね。
このエレベーターには『加速装置』などという物もついているのよ。
試してみる?
なんていうか、上昇速度を上げたいとかのためでなく、もっぱら乗客の御楽しみのためだけに設置されている装置ね。
基本的な操作マニュアルによると、十倍くらいまでスピードを上げられるみたいだけど」
操作マニュアルに操縦法は書かれていなくても、そういう御楽しみのためだけの解説書は残っているんですね。
いかにも我が国らしい丼さ加減です。
「お、王妃様、御戯れを。
それは御帰りになられる際に御一人で御試しください」
「もちろん、そのつもりよー!」
やれやれ、我が母君と来た日には、このような胡乱な事態さえ思いっきり楽しんでおられる。
あの子供のような笑顔が堪りませんね。
我が母ながら頼もしいとしか言いようがないです。
後は、私が一日も早く地上へ戻れるように取り計らっていただければ、なお良しです。
そっちの方面に関しては、いつもの頼れるゴリ押しでなんとか便宜を図ってほしいと切に願っております。
とりあえずは、この勇壮で滅多に見る事の叶わない景色を楽しむ以外に今はする事がありませんので、それなりに堪能しておきました。
珍しくビビリな状態のアレーデを、まるで舞踏会で女性をエスコートする紳士のように侍らせて。
生憎と向こうは、まるで登山中の命綱であるかのように、へっぴり腰で私の腕にしがみついているのですが。
ああ、こんな事ならエミリオを連れてきてあげればよかったかしらね。
あの子なら、きっと物凄く喜んでくれたろうに。
どうせ御母様が連れて帰るのでしょうから。
まあ御母様も、さすがにそのような事をやっていていい状態でないのは理解しているので自粛したのでしょうが。
でも、眼をキラキラさせて「御姉様、見てみて。あんなに遠くまで景色が見えるよ~」とか言ってはしゃぐ、あの可愛い物の姿を拝んでみたかったのは事実です。
このなんともしようもない厳しすぎる現実に対して、素晴らしい癒しを添えてくれたでしょうに。
あ、ついでにアルスとサンレディを連れてくるとよかったかもしれません。
彼らの事ですから大興奮して、皆の精神メーターも一緒に振り切らせてくれたかも。




