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25 久々の御茶会

 本日、わたくしミレーヌは浮かれていました。

 久しぶりにシドと御茶会の約束が出来ましたので。


 いえ、ここのところの王宮への複数の侵入事件に関しては厳重に聞かされていたのですが、なればこそ余計にシドが恋しいのです。

 余計な真似をした連中の御蔭で、学園に居る時以外にシドとなかなか会えなくて閉口しました。

 おまけに、そういう公の場所に居る時は他の人も一緒ですので、二人で居る時のように親密には出来ませんもの。


 シドに会いたい、その腕に優しく抱かれたい。

 そして……。


 ですが、そんな想いに耽る私に対して不粋な輩がこのような横槍を入れてきます。


「姫様ー。

 随分と浮かれていらっしゃるようですけど、この警備厳重な王宮にだって賊があの手この手で入り込んできているんですから、浮かれている場合じゃないんですけどねー」


 そういう野暮な事を言ってくるのは、本来ならエミリオの侍女の筈なのに王宮にいる間はエミリオとワンセットで、あれこれと何故か私の護衛というか、そういう事までもやってくれているサンレディです。


 でも思うのですが、この子は絶対に男の子。

 たぶん『レディ』じゃない御方。


 皆が何かサンレディに対して、何かこう違和感を拭えないと首を捻るのは、たぶん歩き方に端を発する身のこなしからだと思います。

 やはり男と女は骨格が違うのです。


 なんというか、女性は子供を産む関係から骨盤の形が男とは決定的に違いますので、男が女の歩き方を真似ても、どうしても違和感が出ます。


 それに確かに女の子の声なのですが、これはおそらく『声変わりが遅い』声なのだろうと踏んでいます。

 この人って、アレーデと同じくらいの歳(つまり成人)のくせに声変わりがまだっぽいのですよね。

 顔も普通の男の子と違って物凄く可愛いし、体付きも中性的なのです。


 だからこの任務のために選ばれて、御母様に連れてこられたんでしょうね。

 おそらく彼の正体はサイラス王国騎士団の関係者か、またはエミルハーデ公爵家騎士団ないしは信頼出来る重臣の子弟あたりではないでしょうか。


 またアルスに近いような性格をしているのに加え、歳もアルスと違って限りなくエミリオに近いですしね。


 もしかすると、エミリオも彼が男の子だと気付いているかもしれません。

 だって、いつもくっついていますからね。

 あの子は案外と鋭いところがありますから。


 でも御母様が連れてきた人なので、それを人前で絶対に言っちゃいけないんだという事くらいは私達姉弟にもわかります。


 もう、御母様ったら。

 皆にバレても知りませんからね。

 本当に強引なんだから。


 私がなんとなく彼の事を意味ありげにチラチラと見ているので、アレーデも薄々その事に気付いているようです。


 それでも自然体で素知らぬ顔をしていられるのは、さすがはアレーデという他はありません。

 何しろ、女の子の御着替えの時にもあの子は堂々と一緒にいますので。

 またそうしていないと、この任務をこなせない訳ではあるのですが。


 ひょっとすると彼は、声変わりがまだで体付きも男性的ではないため、本人も女性をさほど意識していない可能性すらあります。

 いわゆる思春期前という奴ですね。

 まあ、ゆるゆるサイラス人なのですし。


 きっと御母様に言われて、あれこれと内部から監視しているのでしょう。

 ジョアンナさんに化けていた賊は彼が発見したようですから、優秀な人間である事に間違いはないようです。

 だからこそ今回ここへ連れてこられたのでしょうから。


 でも万が一彼の正体がバレてしまった時は、物凄い大騒動になるのでしょうね。

 御母様の事ですから、そうなった時は超強引に力押しにするのに決まっていますし、それでも収まらないようならば、『いつもの如くに』南の叔父様へ丸投げにするつもりなのに違いありません。


 ああ、この王宮であの人ほど不憫な方を知りません。

 なまじ、うちの御母様の幼馴染であったばっかりに、先代宰相様の時代からあの御母様の面倒を見させられていますので。


 面倒を見ると言うよりも、ほぼ完全に尻拭いというか、後始末係というか。

 まあ、その功績の御蔭で彼は見かけほど軽んじられる事も一切ない訳なのですが。


 あれで南の叔父様もなかなか体捌きというか、剣の腕前なんかも素晴らしいのです。

 それも全部、元は御母様によって強引に鍛え上げられたものらしいのですがね。


 勉強家なので机に座っておられる時間が長いため、見かけはやや太った感じなのでありますが、それもまた立派な事です。

 まあ彼は切れ者でありますので、本人も他者から侮られているくらいで丁度いいくらいに思っておられるのでしょう。

 それが本心は滅多に見せない公爵という者の在り方なのですから。


 そして私の御気に入りであるハイド大使館にて御茶会が開かれる事になりました。

 むろん、骨を折ってくれたのはアレーデでありますし、ミハエル兄様にも段取りに関しては補助していただけました。


 そして同時にミハエル兄様から、このような忠告をいただきました。


「ミレーヌ。

 わかっているとは思うが、馬車での道中が一番危険だ。

 サマンサやエリスも一緒だし王国騎士団も護衛につくが、やはり最後に物を言うのは自分自身の力だからな。

 心しておきなさい」


 ミハエル兄様は帝国を甘く見ていません。

 何をしてくるかわからないですし、油断も隙もあったものではない相手である事は確かなので。


 王太子であるカルロス兄様は包み込むような包容力で、慈愛に満ちた目で私達幼い妹弟を見守ってくれていますが、ミハエル兄様は時に剃刀のように鋭い目で私達を諭します。


 そして、大概の場合はミハエル兄様の言う事が正しいのです。


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