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16-9 ぶらり公爵

 貰った御菓子をささっと食べ終えた子供達に、もう遅いので歯を磨いて寝るように申し付け、一応山本さんを主な住人に案内していく。

 ファルがもう山本さんにぺったりだ。


 まずはエド、それにアルス、そして真理と葵ちゃんからだ。

 山本さんに地球のネットに繋がっているPCとタブレットを渡し、後の事は葵ちゃんに頼んでおいた。


 山本さんも可愛い女の子が御世話係なので嬉しそうだ。

 葵ちゃんの方も新しい日本人と会えて楽しそうにしている。

 なんせ、とりあえずこの世界において生存が確認されている日本人の人口が五十パーセント増しなんだからな。

 精霊共が御菓子の匂いがプンプンする山本さんを激しくロックオンしているのが気になるが。


 ファルに、くいーっと魔力を注いでやってから帝国へと戻る。

 それから大使に御願いして、例の公爵についての情報をもらう事にした。


「そうですな。

 ベッケンハイム公爵というのは、元々はこの国の皇帝になる予定だった御方です」


 いきなり爆弾情報が出てきた。

 それであんなに専横な振舞いを?


 皇帝になれなかった不満が鬱積しているのか?

 またこのあたりの事情もバイトン公爵と被るなあ。

 王族ないし王にとっての近親者の立場で居がちな、あるいは公爵という地位にはありがちな事なんだろうか。


 引き続き、大使の話を聞く。


「ベッケンハイム公爵の母親は先代皇帝の正妻、すなわち本来はあの方が皇太子であり、やがて皇帝位につく予定だったのです。

 今の皇帝陛下は母親が側室、しかもあまり身分の高い家の出ではありませんでした。

 それは、この貴族優先主義の帝国では問題となります。


 ただベッケンハイム公爵は大変素行が悪く、とても皇太子と呼ぶのに相応しい方ではありませんでした。

 そんなこんなで、終いには皇位継承権も失い、公爵家に養子に出されたという訳でして。


 これは大変に珍しい例なのですが、当時は現皇帝の他に継承権を持つ男子が他にいませんでした。

 まあ現皇帝も、あまり褒められた素行ではなかったのですが、あの方は立ち回りが上手かったですからね」


 まさかの失脚皇子様であったとは。

 こ、これは俺の称号が皇子様殺しにグレードアップするフラグなのか?

 まあ今回は、さすがに本当に殺すわけにはいかんのだけれども。


 それにしても、どうしたもんかな?

 公爵殺しにしても他国だと勝手がよくわからん。

 まあぶらぶらしていたら、俺の事だからそのうちにトラブるかな。


 とりあえず、件の公爵の顔が拝みたい。

 マーカーをつけておかないと話にならない。

 公爵用のマーカーに使うウインドウは別に作っておく。

 こういうのって名前を付けてお気に入りにしておけるから便利なんだよね。


「大使、その公爵はどこに?」


「普段は離宮におられるようです。

 まあそれも大きな御屋敷と言った方がいいような、その程度の物なのですが。

 そして呼ばれてもいないのに、あちこちの貴族の催しに乱入しては悲鳴をあげさせていますよ。

 外国の要人に無礼を働くのも日常茶飯事ですし」


 大使が顔を顰めているという事は、彼もやられた事があるんだな。

 まあ国の関係的に真っ先にやられますわね。


 だが話を聞くにつけ、少々やりすぎても何の問題もないどころか、この国でも俺の名声が高まってしまいそうな勢いだった。

 要はそいつから俺に対して喧嘩を売らせればいいと。


 充電名目でファルたんを連れ歩く必要がありそうだ。

 今回は聖歌の大安売りもいいかもしれん。


 今夜はもう引き上げる事にした。

 大使には、明日のベッケンハイム公爵の動向をチェックしてもらう事にした。


 アルバの王宮に向かったのだが、残念な事に肝心のミハエル殿下はいなかった。

 しまった。

 あんな風に常時あちこちを走り回っているような人だから、あの人こそマーカーをつけておかなくちゃいけなかったのに。


 今度、俺の腕輪を装着させておこう。

 そいつは王族仕様にきちんと装飾して。

 なんか高性能の腕輪が、だんだんと犬の首輪的な扱いになってきたな。

 とりあえず、うちに帰ってビールと袋入り裂き烏賊で一杯やって寝る。



 翌日は、朝御飯の戦場を潜り抜けてから、ちょっと一仕事と洒落込んだ。


 今公式には、俺はここにいない事になっているので恒例の朝の門前掃除は止めて、ある物の作成をする事にしたのだ。

 葵ちゃんと山本さんも一緒にね。

 それは「チーかま」だ。

 

 なんて事はない。

 昨日晩酌していて、なんとなく食いたくなっただけなのだ。


 チーズはもう色々と作ってあった。

 かまぼこの原料になる魚はある。

 この国は北方へ行くと海があるのだ。


 そこにも魔物も出るので漁業は盛んじゃないが、少しは漁業がやられている。

 だが満足出来る品が無かったので、百体ほどのゴーレムに海産物の採集を命じてあったのだ。

 

 山本さんはその戦果を見て無茶苦茶に大喜びだった。

 実家のうどん屋さんは色々と食材も拘っていて、なんと手作りの蒲鉾とかも作っていたそうだ。

 うどん屋をやめて蒲鉾屋になってもいいくらいの出来だったらしい。

 異世界で美味しい御節料理が食えそうな予感に、俺も胸が震える。


 御手伝いしてくれる女の子も一人いてくれるしな。

 俺一人だと御節を作るなんて絶望的だ。

 俺に務まるのは、せいぜい味見役くらいのもんだろう。


 アイテムボックスの腕輪と、開発に役立ちそうな魔道具をいくらか進呈して、後はプロに丸投げする事にした。

 試食を楽しみにして、子供達もミミが鈴なりだ。

 山本さんも楽しそうにしている。


 将来この中から、うどん屋さんや蒲鉾屋さんを目指す者が出てくるのかもしれない。

 少なくとも、この世界のうどんは専門家の手によりグレードアップする事間違いなしだ。

 このケモミミ園にとっても、その創設に深く関わったと言っても過言ではないうどんが。


 さらに和菓子という新しい世界の扉が開かれるのだ。

 うちの母親は和菓子の練り物が大好きだった。

 そうだからなのかは知らないが、俺も酒飲みのくせに和菓子を比較的好むのだ。

 親戚で何か催しがあれば、そういう物を貰ってくるしな。



 それから帝都へ戻って、軽く公爵の離宮とやらを拝みに行った。

 隠密して勝手に中も歩き回ったのだが、どうやら御留守のようだ。

 ファルを連れて大使館へ行き、公爵の行き先を尋ねる。


「本日は午後から帝都で芝居見物で、夕方からはまたどこかの不幸な貴族の催しに出かけるのでありましょう。

 またわかり次第に御連絡いたします。

 今はどこをほっつき歩いているものやら」


 やれやれ、まるでミハエル殿下みたいに神出鬼没なようだ。

 思わず帝国貴族に同情したくなる。

 みんな待っていろよ、そのうちにきっと退治してやるからな。


 何せ、ニールセン侯爵や第二皇子とつるんでいるんだから、どの道あれは排除しない訳にはいかないのだ。


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