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21 冒険者の朝食

 その夜は明け方まで二人交代で見張り番をしながらサンディの死体と一夜を共にしていたが、他に賊の仲間はいなかったようで無事にそのまま夜明けを迎える事が出来た。


 レッグは今回の仕事の事務責任者として冒険者ギルドに残っていたし、アーモンは残党を警戒して応援の冒険者を指揮しながら市中の動きに対応していた。

 サマンサはエリスと共にエミリオ殿下の寝室に詰めていた。


 実家が医薬関係を中心とした薬物医薬品などの専門家であるウイルストン家の人間のレッグがいなかったのは痛い。

 最初に特殊香のアイテムを潰せて本当によかったのだ。

 薬物などの専門家であるレッグでなければ、散布された後の対応が間に合わなかっただろう。


「ふう、こんな緊迫した夜も久し振りかな。

 最近は少し仕事も温かったしなあ」


「おはようございます」


 常闇のカーテンも白みかけた頃、交代で寝ていたサンボーイも起き上がってきた。


「おはよう。一緒に飯でもどうだい?」

「いただきます」


 そして提供されるSランク冒険者飯。

 砂糖は貴重であるため、砂糖を加えて焼いていないにも関わらず、極度に硬化された不思議な製法の焼き締めパン。

 そして細く裂かれた、よく塩の利いた干し肉に、水魔法で作られたばかりの冷たい水。


 後は乾燥させた野菜、それは本来ならスープの具にされるべきものだが、ここは勝手に料理なんかしていい場所ではないため、『干し野菜そのまま』というアレな代物だった。


 もっとも、ダンジョン仕事では休憩や野営中に魔物を呼び寄せないように調理をする事は禁じられているので、大概干し野菜はそのままで齧るのだが。


 それを見て顔を顰めるサンボーイ。

 まだ若いので、心の内をすぐに出してしまうようだった。

 サイラス人は比較的そういうところがあるのだが、逆に言って裏表があまりないという点に関しては非常に好感が持てる。


 その様子を見てアルスが訊ねた。


「サイラスの騎士団は、いつもの訓練や行軍なんかではどんな物を食べているんだい」


「それはもう、香辛料たっぷりのスープや麺、焼き立てのパンなんかですよー。

 あらかじめパン生地を捏ねておくのは見習いの役目です。

 携行食なんて滅多に食べませんよ。

 演習のスケジュールもゆったりしていますしね。

 あと南方の国なので果実なんかも豊富に育ちますから、そういう物も現地で手に入りますし。


 採集なんかもありです。

 そっちの方も、みんないい腕をしていますよ。

 農業国ですから、肉も野菜もたっぷりです」


「そうか。

 気候が良くて、その上何かにつけ大らかなサイラス王国だからなあ」


「肉は塩漬けの干し肉ですけど、こんなに固くないし、演習の際は野菜や果物はなるべく長持ちする生の物を使っています。

 獲物がいれば狩りをしたりもしますしね」


「ま、今日はこれしかないんだ。

 これで勘弁してくれ。

 あ、パンはいきなり齧らないでくれ。

 水に浸したりして、しゃぶるようにしないと歯を折るぞ」


 それを聞いて、試しにおそるおそる軽く齧ってみるが歯が立ちそうにない。

 顔を顰めて、諦めて水と一緒にしゃぶるサンボーイ。


「僕、冒険者を目指さなくて本当に良かったなあ」


「はっはっは。

 まあどんな職業にだって、良いところもあれば悪いところもあるさ」


 そして、まだあれこれと経験の足りないサンボーイが、Sランク冒険者の話に熱中していた。

 特にSランクとしての功績に繋がったドラゴン退治の話には夢中だった。


「あら、なかなか素敵な御話だ事。

 私も是非聞かせていただきたいわねえ。

 まあ、それは後日に譲るとして、そちらのワイルドな淑女の紹介をしていただけないかしら。

 もしかして、その方死んでいらっしゃる?」


「あ、王妃様。

 おはようございます。

 すみません。

 この人がジョアンナさんに化けていたんですけど、自害されちゃいました」


「そう、残念ね」


「ああ、王妃様。

 彼はよくやってくれましたよ。

 どうやら、夜中にエミリオ殿下を攫っていこうとしていたようですね。

 それも彼のおかげで未遂に終わりましたし、賊の仲間は捕らえて冒険者ギルドへ預けておきました」


「そう、御苦労様。

 よかったわ、何事もなくて。

 それでは、サイラス正騎士団員サンボーイ。

 あなたに最初の任務を与えます。

 残りの期間中も、しっかりと任務の続きを全うするように。

 あ、正体は絶対にバレないようにしてね」


「はいっ」


 王妃様からの約束が無事に果たされそうなので喜面一色のサンボーイと裏腹にアルスは首を竦めた。


(僕達の雰囲気だけで、サンボーイの正体がバレている事も察知していたか。

 まあ男同士の会話丸出しだったけど)


「ところで、本物のジョアンナさんはどこに?」


「ああ、なんでもエミリオ殿下の秘密の御部屋の中だそうですが」

「あそこか……」


 何故か苦笑する王妃様。

 そして、その後でなんとも言えぬような渋い顔をしている。


「あれ? なんかあるのですか」


「いえね、あそこはあの子だけの遊び場なの。

 特別な魔導キーがないと入れないから、あの子の招待がなければ絶対に入れないはずなんだけどねえ」


 アルスとサンボーイは思わず顔を見合わせた。

 そんな物が解除出来る敵がいるとなると、この王宮でさえセキュリティは危うくなってしまう。

 警備関係者としては噴飯物の事態なのであった。


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