19 不思議なサンレディ
もう、すっかり仲良くなったあの二人。
大人っぽい性格をした同年代のアレーデとは正反対に子供っぽさ全開のサンレディは、まだ幼いエミリオのハートをがっちりと掴んでしまったようです。
まあ、子供の相手にはそれくらいの性格の方で丁度いいのかもしれませんが。
逆に本来なら性格が彼女の御仲間に一番近いだろうアルスは、何故か彼女と少し距離を置いているようですが。
エミリオ本人は新しい『御友達』にもう夢中なようです。
「ふふ。アルス、うちの子にふられちゃったわね」
「あっはっは。
いや、こうやって少し距離を取って観察していられるのは有意義ですから、まあ丁度いい感じですけどね」
「え、あなたも?」
彼は軽く頷くと、こう言いました。
「何か気にかかるんだけどな。
それが何なのか、よくわからない。
サイラスの人とも一緒に仕事をした事はあるし、ああいう性格もそう苦にするような事は何もないはずなのに、何故か気にかかる。
なんだろうなあ。
他のチームメンバーも同じ意見なんですけど」
それには驚いてしまいました。
この経験豊富で優秀なSランクの人達が、うちのアレーデと同じような事を言うなんて。
「ああ、ミレーヌ様。
私も何かが気になるのですがね。
うーむ、一体何なのでしょう。
彼女は別に悪しき者のようには見えないのがまた、ね」
はあ、エリスさんまで同じ事を。
私はそういう事をちっとも感じられないのですが、もしかして私だけが鈍いの⁉
いや、アレーデはこの歳で素晴らしい切れ者の侍女ですし、エリスさんはあの王家護衛のスペシャリストである王国の盾の一員、残りの皆様は全員がSランク冒険者なのですから、そこは仕方がないですよね。
私なんか一介の王女、若干十三歳の小娘に過ぎないのですから。
うーん。
シドならば、あるいはミハエル兄様ならなんと言うのでしょうか。
それになんといっても、あの方はエミリオの母親でもある切れ者の御母様が御連れになったのですしね。
しかも彼女の故国であるサイラスからわざわざ呼び寄せたのでありますから、絶対に信用出来る人間のはずなのです。
あのサイラスの御爺様が寄越した人物の筈なのですから。
そうでなければ、あのミハエル兄様がこの王宮へ入れる訳がありません。
はてさて。
とはいえ、きっと他の頭脳明晰にして精良たる方達も同じ考えなのでしょう。
だから余計によくわからないのだと思います。
敵ではなさそうなのに、一目見て違和感を覚える謎の存在ですか。
ああ、胡乱です。
ですが、そのような皆の不可思議感は棚に置きっぱなしという感じで、あの二人は楽しく遊んでいます。
本日はサイラスで流行中である椰子の実ラグビーなる遊びに興じているようです。
ちなみに、隣に立っているアルスは素知らぬ顔をしているのですが、その遊びを見て微妙にそわそわしているのがなんとはなしに感じられます。
この辺が、まだ他のメンバーに比べて若さの残る彼の可愛らしいところですね。
彼がこの手の新しい楽し気な御遊びには目が無いのだとはレッグ様からの情報です。
彼は少々訳ありな人なので、幼い頃に同じ年頃の御友達とあまり遊べなかったそうで。
また少年時代は旅暮らしをしていたために、その後も同年代の御友達もいなかったと。
そういえば今も親のような世代の冒険者とばかりチームを組んでいるみたいですし。
そして、なんとサンレディ本人から御誘いがきてしまいました。
「よお、そこのSランク。
一緒に遊ぼうよ。
好きなんだろ、こういう遊びがさ。
見てればわかるよー」
「アルスー、早くおいでよー」
「はいはい、今行くからね」
やれやれと言いたげな風に両手を広げて私にウインクして、渋々といった感じに混ざりに行く彼であったのですが、本音は嬉々として向かっていったのが足取りから窺われます。
アルス君、君もまだまだだね。
私みたいな、自分の歳よりも半分程度しか生きていないような小娘に心を見透かされているようじゃね!
しかし、どう見ても彼女サンレディは怪しい感じがいたしません。
他の皆も彼女の、性格の裏表はおろか、世間の常識や侍女としての立ち居振る舞いすら微塵もない様にすぐ慣れてしまいました。
何しろ、あの少し口煩いところのあるアリエス夫人も何故か何も言いませんし、時折覗きに来る御母様も彼女の様子を見て唇の端をそっと持ち上げるだけなので。
文字通り太陽のような女の子です。
最近、この王国で吹きすさぶ闇のような事件もすべて吹き飛ばしてくれるような。
もしかしたら私達の心に落とした蔭に配慮して、御母様やサイラスのエルシー御爺様が寄越してくれた人なのかもしれません。
おっと、アルスがサンレディと激しくぶつかってしまいました。
でも、なんだか様子が変です。
特にサンレディの方が。
何か少し慌てて体を抱えるような感じで。
アルスは頭をかいていますし。
二人とも、ちょっと挙動不審ですね。
「どうしたのー、二人とも。
ねえ続き続きー」
エミリオが叫んでいましたが、何故かアルスは手を振って戻ってきました。
「あれ、どうしたのです? もう遊ばないのですか」
これはまた胡乱な。
いつものこの人なら、こんな楽しい遊びを途中で放りだすなんて絶対に有り得ない筈なのですが。
「いやあ、なんでもないよ。
御遊びに大人二人が混じると、どうしても激しくなるからね。
よかったらミレーヌ王女も御一緒にいかがですか?」
「ああ、いや。
こういうスポーツ的な遊びが出来るほど鍛えていませんので遠慮いたします。
エミリオが弾けちゃっていますから激しくなりそうですしね。
こういう遊びはシルやハミルに任せたいわ。
あの子達は今、御勉強の時間だから呼べないけど」
「はは、そうかもね~。
いや結構楽しかったよー」
うーん、特に不審な点はないようですね。
このまま何事もなければよいのですが。




