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17 予想していなかった展開

 そんなこんなで、私が『新科目』の御勉強に勤しんでいた頃、アルバの王宮には密かに暗雲が忍び寄っていたようです。


 もっとも、私は対毒殺術や護身用の体術などの『生き残り科目』をエリスさんからヒイヒイ言いながら学んでいた最中でしたので、あまり気にしていなかったのです。


 何しろ、私は御母様譲りの魔法は大の得意だったのですが、腕っぷしの方はからっきしでありましたので。

 というか、人生でそのような物が入用になる事を想定して生きてきませんでした。


 一応、王都学園の授業で剣技などを学んだり、御母様から習ったりはしていたのですが、それもそう大したものではありませんでした。

 精鋭たるアルバトロス王国騎士団の護衛に護られていましたし、そういう荒事は性格的にはあまり向かなかったのです。


 御母様もそう思ってか、魔法の方面を伸ばすように教育してくれていたのですが、この前の無様過ぎる一件がありましたので、最近は御母様からも剣の稽古をつけられてしまっております。


 まあ所詮は付け焼刃なので剣の腕前に上積みはそうないのですが、それでも今までよりはそれなりにマシっていうところでしょうか。


 なんというかもう、これ以上はないへっぴり腰です。

 接近戦で人間相手に斬り合いなんて真っ平御免ですから、もしも何かあった時には、なんとか魔法で頑張る所存であります。


 今度、ハイドの王宮にも魔法を封じる仕掛けなどがないか確認しておかなければなりません。

 うちの場合は初代国王の子供達がやらかしていたので、王宮では魔法を阻害するように仕掛けが施されたという話ですが。


 教わる方が駄目駄目なので、より多くの教師がいた方がいいという事で、剣の稽古に関してはエリスさんやチーム・アーモンの面々、そして元王国騎士団長であるルーバ侍従長などからも教わりました。


 流石に『王国騎士団にての稽古』はなしでしたが。

 それでも魔法有りでのルールなら、私でも結構騎士団相手に頑張れそうな気もするのですが、あそこにはそういう温い修行はないと思いますので御遠慮させていただきます。


 それに、なんというかあそこは体力作りの段階で既に尋常な訓練ではありませんので、女性王国騎士というものが我が国には一人も存在しないほどなのです。

 少なくとも私にとって姫騎士への道などという栄えある物は、限りなく遠い空の彼方の向こう側にある出来事のようです。


 女性の身の上で、あそこで騎士として務まりそうなのが、うちの御母様とかエリスさんとか、もうそういう方面の特殊な、あれこれと鍛え抜いたような方々だけですので。

 そういう方達も、大概は他の分野で超一流なので女騎士にはならないような方ばっかりです。


「ミレーヌ」


 振り向いた私の眼には、変わらぬ美貌の持ち主であるミハエル兄様がいました。


「御兄様!」


 小さな子供の頃ならば、そのまま駆け寄っていき大好きな兄様に向かって、ぽふんとダイブするところなのでありますが、さすがに今はそんな真似など出来ません。

 それをやっていいのはハミルの歳まででしょう。

 そんな真似は、さすがにうちのゆるゆる王家といえども、シルの歳でさえもう厳しいくらいなので。


「どうかなさいまして?

 兄様の言い付け通りに修練その他頑張っていましてよ」


「ああ、それは良い事だね。

 実はな、あまり良くない情報が上がって来た。

 帝国がお前達を狙っている」


「お前達?」

「ああ、エミリオとお前だ」


「あれ? 前回とは違って今回狙われていたのはエミリオだけなのでは?」


「いや、元々帝国はお前を第二皇子に嫁がせたいと言う意向を持っていた。

 まだ諦めていないらしくてな。

 やはり強引にお前を攫ってしまおうと考える計略もあるらしい。

 へたをすると、エミリオに対する要求はカムフラージュのためだけのブラフに過ぎんのかもしれん」


 私も思わず沈黙してしまいました。

 だって、今の私は……。


「えーと、そうなると帝国がアルバトロスのみならずハイドにまで喧嘩を売ってしまう事になるのでは?」


「お前がハイドへ嫁ぐ予定なのだから、もう嫌も応もないさ。

 そういう事だから、今のうちに強引にでもお前をという考えもあるのだろう。

 あの猪国家の事だからな」


 あっちゃあ。

 それで御兄様は私のような荒事にはまったく向かない駄目妹なんかにも、このようなサバイバル的な修行をさせていたのだと?


「非常にありがたくない情報です」


「まあな。

 だが、あの連中にその意見は通用すまい。

 また何があるかよくわからないので、お前も心しておくように。

 警護の方は厳重にしておくし、ハイドにも連絡はしておくが、何よりお前自身が用心しておくようにな」


 う、この前の一件で思いっきり味噌をつけてしまいましたので、身内の間でも私の信用がかなり失墜していますね。

 恨みますわよ、キルミス。


「はい、わかりました。

 とりあえず、今更腕っぷしを上げてもそう役に立ちそうにありませんので、魔法の腕をもう少し上げておこうかと思います。

 御母様もその話は当然知っているのですよね」


 お兄様は微かに笑って返事に代えました。

 仕方がないので、これから御母様のところへ修行にいってくるとしますか。


 大昔の記録によると、初代国王ヤマト様の故郷には「魔法少女」なる者が大勢いたそうなのですが、きっと彼女達もこのように悲壮な決意で魔法の修練に勤しんでいたのでしょうね。


 私も頑張って王国最強の魔法少女を目指さなくては!


本日、おっさんリメイク冒険日記コミックス7巻発売となります。

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