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14 新たなる波紋

 そして次の事件が起こりました。

 今度はあの可愛いエミリオに関してのお話なのです。


 例によって家族会議の開催です。

 国民からも慕われ、家族からも愛される私の可愛い弟。

 その彼に、あろうことか敵国である帝国から入り婿として寄越せというお話があったのです。


 いえ、通達ではありません。

 それは一種の脅迫めいた内容でした。

 この縁組による血縁同盟を結ぶのでなくば、帝国に敵対するものと見做すと。


 見做すも何も、そのうちにはある日突然に帝国が我が国へ侵攻してきそうな気配が濃厚なのですが。


 よしんば同盟を結んだとしても、我が国より遙かに勝る兵員を擁する帝国からは属国扱いとなり、帝国は我が国をハイドへの侵攻の足掛かりとし、そうなれば我が国の兵士までも駆り出されることでしょう。

 その矛先は、ともすれば兄弟国であるサイラスにまで及びかねません。


 そして、なお悪い事に我が国の貴族院に席を置く貴族などにも、それに賛同する有力な者がいます。

 かねてから、あの帝国に通じているという噂のあった者達です。

 それがまた大きな派閥を率いていますので困ったものです。


 そして『エミリオ排斥派』と呼ばれる貴族達もいます。

 連中は上の兄達を担ぐ一派で、邪魔なエミリオをこの機に排除しようという魂胆のようです。


 御父様の話では、中にはエミリオ暗殺を目論む者もいかねない状況という事なのです。

 それもあって、幼い身の上ながらエルシュタインの者が護衛についていたようです。

 護衛が女性であるならば、そう角も立たないからという事だったのでしょうか。


 エミリオには、今も多くの騎士から尊敬を受ける元騎士団長のルーバ子爵がついてはいるのですが、既に彼も老いた隠居の身。

 そこで諜報担当のミハエル兄様がこのような事を言い出しました。


「このような帝国の蛮行に古き伝統を持った我が国が屈するなどあってはなりません。

 このような話には絶対に乗る訳にはいきません。

 そういう事なので、エミリオのために護衛の強化を行いたいです」


「ふむ、してどのように?」

「ええ、王家からの指名依頼により、冒険者による護衛をつけます」


「その者達は信用できるものかのう」


 御父様が危惧するのも無理はないのです。

 冒険者といえば、無頼の輩も少なくないので。

 所詮はお金で雇われる人達であるのですから、お金で敵方に転んだっておかしくない。


 うちは違いますが、王家内でさえも互いに信用せずに憎み合い殺し合う国も少なくないです。

 件の、御隣の帝国の皇子達も、派閥を含みかなり派手にやり合っていると聞き及びます。

 誠に困ったものです。


 いえ、敵が身内同士で殺し合ってくれているのなら、それも今の情勢ならば決して悪くはない話なのですが。


「彼らをおいて他に信用出来る冒険者などおりません。

 今、世界で唯一のSランクパーティであるチーム・アーモンです。

 彼らは、このアルバに籍を置く者達で、この国においては長年に渡る信用もあります」


「ほう、あの者達か」


「いかがでしょう、父上。

 彼らならば信用出来ます」


 このミハエル兄様を担ぎ上げている者達こそが、そのエミリオを疎んでいる者達の一つではあるのですが、ミハエル兄様御自身は可愛いエミリオを溺愛しています。


 日頃のミハエル兄様の仕事内容が縁の下の力持ちのような、またアレなものばかりなので、彼もあの子の天真爛漫な天使の笑顔には大いに癒されているようです。


 彼の場合、その溺愛は私達妹達にもしっかりと向いているのですが。

 はっきり言ってシスコンと呼ばれる範疇に入るのではないでしょうか。


 彼は国のために尽くし、また家族のためにこうやって活動するために自分の結婚を後回しにしていますから、親子ほど歳の離れている弟のエミリオの事が余計に可愛いのでしょう。


 サイラスで国王に就任したばかりのミハエル兄様と同じ歳である従兄弟のルイス兄様などは、エミリオと同じ歳の長女を始め、二十五歳にしてもう三児の父親なのですし。


「よかろう。

 諜報部トップたるお前がそこまで言うのであるならば、彼らに任せて間違いあるまい」


 しばらく沈思黙考していた父も了承しました。


「はい、ではさっそく手配を」


 こうして事態は新たな展開を見せ始めました。

 もしかしたらシドが国へ帰っていたのも、何か帝国絡みの対応の協議であったのかもしれません。


 現ハイド国王は、我が国同様にそれなりの歳であり、近年中に代替わりを余儀なくされています。

 シドも近いうちに国王としてあらねばならぬため、そういう重要な協議には絶対に参加せねばなりません。


 王権を守るというのは大変な事です。

 王国はそれによって権威を保ち、国を維持しているのですから。

 そのために、王が病気になった時などは王権を守るため王を殺してしまうような事さえあると聞きます。

 帝国なんかだとそうなのかもしれませんね。

 うちは違いますけど。


 先代の王であられた御爺様は、御歳を召しておりますが未だご健在で、何故か諸国を旅しておられます。

 もっぱら国内漫遊だそうですが。


 サイラスの前国王も御健在ですし、今頃は国王業務を息子に任せたので羽根を伸ばしておられるのではないのでしょうか。

 あそこはまた、のんびりとした常夏の気候のせいもあって、現役国王でものんびりしておられるようなのですが。


 なんというか王政の他に共和制という考え方もあるにはあるのですが、特に現在この大陸にはゲルス共和国という非常に悪しき実例がありますので、王家及び貴族院による国家運営が今のところベストではないかというのが実勢です。


 もしうちの国がもしあんな国だったらと思うと、貴族王族は言うに及ばず国民達や周辺の国までもが、さぞかし辟易する事でしょう。


 あの完全な独裁国家がロス大陸の真反対側にあって本当に良かったことです。

 ベルンシュタイン帝国も嫌ですが、あんな物が隣国にあったとしたら、誰もが皆心底困ってしまいます。


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