16 御茶会へ
そして、そのうちの一匹が、また女の子座りで座り込んでしまったシャルロットに、少々ニヤけた笑顔を浮かべながら近づいてきた。
しかも御丁寧な事に、若き日の父エルシー、現エミルハーデ公爵の姿(三頭身)で。
「ふふ、これがあのエルシーの娘か。
いや面影があるねえ。
可愛いエル……ああ、懐かしいなあ。
だが、いつしか少年も大人になってしまう。
それでも、またいつか彼と会えたらいいな」
「あなた、御父様の……」
彼は言葉なく、だが心の底からの笑みを浮かべてそれに答えた。
そして次の瞬間に、彼らは不意に跡形もなく皆が去った。
まるで最初からそこにはいなかったかのように。
もしかしたら、旧知の人間の娘の行く末を見届けたかったのだろうか。
そして彼らが去るのと同時に、冒険者シャルロットが演じる長きに渡った笑劇場も閉幕の時がやってきたのだ。
これからは王宮を舞台にした恋物語が始まる時間なのであった。
そして王太子ベルナールは、おもむろに彼女の前で少ししゃがみ加減で右手を折って前に出し、定番の淑女への礼をしながら誘いの文句を並べた。
「さて、エミルハーデの御嬢様。
よろしければ、この私と一緒に御茶会でもいかがでしょうか。
ああ、それからエルシュタインの娘よ。
済まないが、彼女の護衛兼侍女を御願いしてもよろしいかな。
侍女の一人も付けていないのでは、彼女の公女としての立場がない」
「はい、王太子殿下。
王国の盾エルシュタイン一族の名において承りました。
ささっ、姫様。
御茶会ですよ。
いざ王宮へと参りましょうぞ」
そう言ってシャルロットの横に立ち、まるで貴族の女性をエスコートする侍女であるかのような格好だ。
服装は二人とも冒険者装束のままなのだが。
そしてエンデは阿吽の呼吸でシャルロットを立ち上がらせた。
「もう、エンデったら!」
だがエンデは笑って取り合わない。
そして、ふと気が付いたようにエンデは傍らの王太子殿下に尋ねた。
「あのう、王太子殿下。
つかぬ事を御伺いいたしますが……」
「なんだい?」
「エルシュタインで思い出したのでありますが、王太子殿下がこのように危険なダンジョンにおられるというのに、我が一族の者が護衛としてついておらぬように思いますが。
はて……」
彼女が首を捻るのも無理はない。
王族、しかも王太子がこのように危険な場所にいるというのに、本家たるエルシュタイン子爵家の男子が護衛についていないなど通常では考えられない。
「あー、それか……」
顔を僅かに顰め、若干言いにくそうにしながらも彼は大人しく白状した。
「その、父がな。
お前は少し軟弱だから、そのような盾を連れて歩いていては鍛錬にならぬだろうと、まあそういう訳でね……いや誠に面目ない……」
「うわあ」
思わず国王陛下のスパルタにドン引きしたエンデだった。
それで後継ぎの王太子を失ってしまったら、一体どうするつもりなのかと。
つい先ほども凶悪なAランクはぐれ魔物の襲撃を受けたばかりなのだから。
もっとも、そいつは更に凶悪なAランク冒険者のアタックで一撃の下に葬りさられてしまっていたのだが。
「はあ、それでは帰りましょうか」
ポツリっと言ったシャルロットに賛同するかのように、皆地上に向けて行軍を開始したのだった。
帰り道は、生き生きとして先頭で露払いを務めるシャルロットの姿に、騎士団長ルーバも是非この方を王太子妃に御迎えしたいものだなと密かに思うのであった。
国王からも王太子からも信頼の厚い若き王国騎士団長の支持の元、シャルロット王太子妃誕生は時間の問題であった。
もちろん、そのサポート役には当然『南の公爵』も付けられていた。
ほんの二年ほど前まで同じサイラスの王宮に住み、かつての楽しき日々を共にした想い人の、婚約・結婚の御手伝いのために。
もっとも、彼も今では結婚しているからここにいるのであったが。
ただ、アルバトロス王国騎士団長ルーバ子爵も、彼女が『はねっ返りシャルロット』を称号とするほどのアレな人物であるのだと知るのは、もっと後の事であったのだ。
そして、彼女がやがてアルバトロス王国の王妃になっていくまでの抱腹絶倒のストーリーは、もちろんプリティドッグ達によって具に観察され、彼らの『犬生の糧』とされていったのであった。
本日で外伝は終了です。
久し振りの「おっさんリメイク」いかがでしたでしょうか。
お読みいただき、大変ありがとうございました。




