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14 出会いのダンジョン

 その後、そのアルバトロス王国内にある村は見事に再興の許可を貰い、多くの移住希望者を獲得した。


 長年荒れ果てた村なので自力で開墾する事は必要なのだが、その土地は自分が所有できる。

 しかも三年間の期間は年貢が取られない上に、いろいろな農器具なども領主からプレゼントされるし、領主が費用を負担して家まで建ててもらえる超好待遇だった。

 そのために大工まで募集されていた。

 エンデが王国に詳細を報告したところ、そのような扱いとなったのだ。


 フリップはBランク冒険者であるため、廃村復興の功績を称えられて見事に男爵となった。


 近隣の村の領主をしている、元はその村を管轄していた領主も同待遇である男爵位であり、その者との軋轢も懸念されたのだが、元は彼の領民であったフリップが十分な贈り物をして丁寧な挨拶にも伺ったので、それはなかった。


 むしろ領主としての不甲斐なさを、かつての村唯一の生き残りの子供であったフリップに対して謝罪してくれた。

 そして復興への支援も約束してくれたのだ。


 また相手の旧領主は王国からも言い含められて別件で大変優遇されたため、各方面から様々な恩恵を受けられたフリップは領主として順調なスタートを切れた。


 そしてある日、エンデとシャルロットは、ついに村を旅立つ事になった。


「ありがとう、二人とも。

 何か困った事があったら村を訪ねてくれよ。

 頑張って村も大きくしておくから」


「ふふ、あんたこそ何か困ったら冒険者ギルドを通して、あたし達を呼びなさいよ」


「じゃあフリップ、もう行くわね。

 村のみんなも元気でね」


 そして名残惜しそうに手を振って、見送りのフリップや村人達と別れる美少女二人。



 村から王都へ向かう最中、二人はなんとも言えない気分で言葉を交わしていた。

 シャルロットは少し残念そうに呟いた。


「ああ、仲間との別れは切ないなあ」


 彼女は、あの誠実な男フリップの事を結構気に入っていたのだ。

 あのまま冒険者として旅をしていたら、そのままカップルになってもいいくらいには。


「まあ、そうなんだけどさ。

 彼は念願だった生まれ故郷の村の立て直しをして見事に故郷へ錦を飾ったんだから、私達も喜んであげなくちゃ」


「そうだね。

 そうだよね。

 よし、私達も頑張らなくちゃ。

 じゃあ今度はどこへ行こうか」


「そうだなあ。

 久しぶりにアドロスへ行ってみない。

 王都ギルドのマーサさんに色々と報告がてらにさ」


「そうだね。

 ああ、久しぶりに師匠の顔も見たくなってきちゃったよ」


 そして、あのマクファーソンの懐かしい顔も。

 どうしているかな、今頃と。

 そう思っていたのだが、そんな事は吹き飛んでしまうような事態が彼女を待ち受けていたのだ。



 十日あまりの日程で王都へ帰りつつ、ギルドに先だってアドロスを訪問した二人。

 もちろんダンジョンでの探索が目的だった。


 その日は、どこかの貴族の子弟がダンジョンに放り込まれているらしい。

 そういう仕事は労力の割に報酬が美味しいのだけれど、あまりにも面倒なのでいつもパスしてきたのだ。


 そういう人達は上層にいると相場は決まっているのだが、今日は珍しく大人数で深めの二十階層まで降りてきたようだ。


「へえ、今日は何か物々しいんだねえ」

「ああ、結構身分の高い人が来ているんじゃないの」


 だが、そこで悲鳴が上がった。

 魔物の凄まじい咆哮も聞こえる。


「キメラだ、キメラが出たぞお。

 はぐれだあ」


「殿下、お下がりをっ!」


「いや、これくらいの魔物は自分で倒さないと父上にどやされてしまうわ。

 ええい、この猫めが。

 大人しくせんかっ」


「王太子殿下、無茶はおよしください。

 相手はAランクの魔物ですぞ。

 ここは、この騎士団長ルーバめに御任せを」


 二人はまた顔を見合わせた。


「へえ、王太子殿下ときたもんだ」

「あー、またあれだな」


「あれとは」


 そしてエンデは、うんうんと頷きながら語りだした。


「なんていうかさあ、スパルタ?

 息子はとにかく鍛えるみたいな。

 今の王様はなんていうか、筋肉や武力に物を言わせるタイプなんだけど、王太子様は文官タイプだというからねえ」


「へえ、青瓢箪なのかあ」


 最近は冒険者のような人間達とばかり一緒にいたので、あまりなよなよした男は好みじゃないなと思いつつも好奇心から王太子の顔を覗いてみたのだが。


 その瞬間、シャルロットは電気に打たれたような激しいショックを感じた。

 そして胸の鼓動は激しく波打ち、収まる事を知らない。

 頬は紅潮し、目は彼に吸い寄せられてしまった。

 これはもう完全無欠な一目惚れだった。


 元々はマクファーソンのような文官肌が好みであったのも影響しているのかもしれない。

 人は自分に無い物を持つ相手を相方として欲するのであろうか。

 まるで遺伝子を補い合うかのように。


 突然の嵐のような邂逅に彼女は石化したかのようで、まるで王宮か神殿に飾られた美しい彫像のようだった。


「ちょっと、あのロッテさん?

 ねえ、おーい」


 相棒の声も、まったく届いていないようだった。

 すぐ近くでAランクの魔物が暴れているというのに、この暢気なザマは一体なんなのか。


「はっ。

 ロッテ、あんたまさか彼に!」


 だが、彼女は直情径行をもってなる『はねっかえりシャルロット』なのである。

 予想外だった出来事に、エンデが思わず出遅れた瞬間に、復活した彼女はキメラに向かって一目散に突撃していった。


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