13 敢闘賞
そしてシャルロットは突然ポツリと切り出した。
「みんな、もう帰ろうか」
「え、いいの。
だって、やっと手掛かりというか足掛かりというか見つけたんでしょう?」
「そうだぜ、一体どうしちまったんだよ。
お前らしくないぜ、シャルロット」
だがシャルロットは首を振った。
「だって、こんなに新しい足跡があるのに姿を見せてはもらえないんだもの。
彼らは自分からしか姿を現さない。
残念ながら、私には姿すら見せてもらえないという事よ。
とっても寂しいけどね。
でも、もういいんだ。
そこまでやれたんだもの。
二人とも本当にありがとう」
エンデとフリップは顔を見合わせたが、シャルロットの憑き物が落ちたかのような様子を見て、うんうんと頷いた。
「じゃあさ、シャルロット。
今度はどうする?」
「せっかくなんだ、俺も付き合うぜ」
「ありがとう、二人とも。
って、あれ。
これは何だ?」
「え? そんな物、さっきまでなかったよね。
あら……これってあんた宛てよ、フリップ」
それを読んで微妙な顔をするエンデ。
そこには、『大きなつづら』が置かれていて、その上に一通の差出人の名前もない手紙が置かれていたのだ。
それにはシンプルに『フリップへ』とだけ書かれていた。
「はい、これ。
この手紙、どうやら貴方宛てみたいよ」
「へっ? 俺え?」
「みたいね。
まあ、とりあえず開けてみなさいよ」
だが、それを受取りながらも珍妙な顔をするフリップ。
無理もない。
ここは街から遠く離れた森と草原しかない場所なのだ。
馬車も立ち入れず、馬か徒歩でしかやってこれないだろうに。
一体全体どこの誰が、しかも彼宛てに。
その上、こんな大きな荷物と一緒に。
首を捻りながらも、その手紙の内容を読んで思わず噴いたフリップ。
そして、その場で他のメンバーにも読んでもらった。
『やあ、親愛なるフリップ。
洞窟では残念だったな。
だが両親の仇は討たれていたのだから元気を出すように。
だいぶ頑張ったようだが、君もまだまだだね。
だが敢闘賞として賞品を差し上げよう。
それを使って村を再興するといい。
そして、そこにいる親愛なるエルシーの娘にもよろしく。
いつか会おうと伝えてくれ。
勇敢なる冒険者の青年へ、プリティドッグ一同から愛を込めて』
「は、は、はあ? はあ~⁉」
なんじゃそら、そりゃあなんなんだと目を見開いたまま固まるフリップ。
「ねえ、エルシーって、あなたの御父さんの名前でいいのかな」
「え、ええ。
ま、まさかと思うけど」
「これは間違いなく、昔彼と一緒に暮らしていたというプリティドッグからのプレゼントねー。
あ、それには何が入っているのかな」
三人は首を捻りつつ、その蓋を開けてから驚いた。
「こ、こいつは!」
その中身を見た衝撃に言葉を失うフリップ。
「あらまあ」
エンデも呆れる。
「あはははは。
ねえフリップ。
私達ってさ、彼らにずっと後をつけられていて、見張られて楽しまれていたみたいね」
「これはまた、なんとも珍妙な話だ。
うーん」
「そういう事になるみたい……ね」
さすがのシャルロットも言葉を失った。
そこには耀きに満ちた、素晴らしい財宝の数々があったのだ。
村どころか、大きな街さえ立て直せるほどの。
「なあ、村を作るのに、こんなに要らないからさ。
三人で分ける?」
だがシャルロットとエンデは、デュエットで即座に首を振った。
「そんな事をしたら、プリティドッグにがっかりされちゃうわよ」
「そうそう、この先に何があるかわからないんだし、全部村のために使いなさいよ」
「わかった。
そうするよ、ありがとう。
でも君達とは、これでお別れになってしまうのかい」
その質問には二人とも難しい顔をしたが、仕方なく頷いた。
「ごめんね。
本当は村の再建を手伝ってあげたいんだけどさ。
私達、ちょっと訳ありでさ」
「ああ、わかっている。
君達はあまりにも美しく、隠し切れないような気品がある。
訳は聞かない。
でも御礼くらいは言わせてくれよ」
「ううん。
こっちこそ、ここまでやれたのはあなたの御蔭よ。
本当にありがとう。
それを収納で運ぶのも手伝うし、村が正式にスタートするまでは手伝うわ」
「ああ、嬉しいよ。
しかし、可愛い君達と一緒に冒険出来なくなるのは寂しいけどな」
紛れもない本音で心からそう言ってくれる盟友の青年に対して、二人も天使のような笑みでその言葉に応えるのだった。
そしてプレゼントの財宝をシャルロットが収納し、その場を離れていく三人組。
その後姿を数百匹ものプリティドッグの群れが見送っていた。
まるで、その若い冒険者達にエールを送るかのように。
ふと、誰かに見られているかのように感じたシャルロットが振り向いたが、そこにはただ草原の爽やかな風が吹いていただけだった。




