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12 仇

 そして三人は準備を整えて、その魔物の住処へと赴いた。

 馬車では目立つので馬で行き、近くまで行ってからそっと徒歩で近づく。

 その辺りは村というか、その名残のようなものがある。

 いや、かつて存在した村の残骸というべきか。


 そして、そのまま魔物は洞窟に居ついている。

 食料を取りに他の人里を襲ったり、狩りをしたりしないのだろうか。

 だが、そこで彼らが見たものは!


 その当該魔物の死体だった。

 討伐されて部位を抉り取られた見慣れない感じの巨体から察して、おそらくはAランクであったと思われる魔物の、只の干からびた残骸だった。


 始めは、その無残で無慈悲な光景にフリップも心が痺れてしまった。

 ただただ立ち尽くす彼と、それを静かに見守る事しか出来ない仲間達。

 だが、やがてフリップは震えながら声を絞り出した。


「こ、こんな事って。

 当の魔物(かたき)がとっくに死んでいただなんて。

 俺は『父ちゃんや母ちゃんや村の皆の仇を討ってやる』と叫んで家を飛び出していこうとして、おばさんに泣いて止められた。

 あの日から、きっといつか俺の手でと。

 それだけを思って毎日の厳しい修練にも耐えて、ついにはBランク冒険者にまでなり、それ以降も日々精進して生きてきたというのに。

 それが……こんな」


 他の二人の仲間も、とうとうその場に膝をついてしまって震えている男に向かって何と言ってやっていいものかわからずに頭を抱えていたが、随分と長い間沈黙していた彼が、やがてゆっくりと少し戦慄した感じに口を開いた。


「ははは。

 仇はとっくの昔に討たれちまっていた。

 きっと随分前の事なんだろうな。

 この干乾び様を見ろよ。

 俺が冒険者になって、毎日歯を食いしばって修練に励んでいた時には、おそらくもう。

 もしかしたら、あの後すぐに討伐されていたのかもしれない。

 不思議と他の村への被害が出なかったみたいだからな」


 男の肩は小刻みに震えていた。

 泣いているようだった。

 声も無く。


 すでに仇が討たれていた事を喜ぶべきなのか、それとも自分の不甲斐なさを悲しむべきなのか。

 おそらく彼自身にもわからないのだろう。

 だが、ここで人生の袋小路に嵌まってしまった感は否めない。


「ま、まあ、元気出しなよ。

 良かったじゃないの、仇の魔物は討たれていたんだし。

 もし生きていたんだとしても、きっと私達なら力を合わせて討てたわよ。

 腕利きのBランクとAランクが二人もいるんだから」


「そうそう、君はプリティドッグを探すために生まれてきた人なんだからさ」


「ロッテ!

 あんた、少しはデリカシーっていうものをだね」


 だが男は、自分の頭越しに言い合っている美少女二人から優しく慰めの手を置かれた肩を震わせると、泣いているのか笑っているのかよくわからないような声で言った。


「そうだな。

 あんたら二人は無茶ばっかりするからな。

 感知の帝王フリップ様が御手伝いしてやるよ。

 金は十分にあるからプリティドッグ探しに付き合ってもいいぜ。

 ここには誰もいない。

 もう俺の知っている人達はとっくの昔に誰もいないんだから。


 元々俺の自己満足の郷愁に過ぎなかったんだ。

 今はそれすらも無くなってしまった。

 こうなったら、どこで暮らそうと、もう何も変わりやしない」


「フリップ……」


「うん、一緒に行こう。

 こんなところに一人でいちゃあ駄目だ」


「ありがとう、二人とも」



 それから三人は冒険者の仕事をこなしつつ、プリティドッグの足跡を辿ってみた。

 しかし、それはまるで神話の世界の出来事を追うかの如くに困難を極めた。

 何か所も何か所も探してみたが、感知索敵だけなら確かにAランク相当であるはずのフリップにも、その影さえ踏む事は出来なかった。


 そしてある日の事だった。

 宿で食卓を囲みながら一杯入れつつ、エンデはテーブルの上に突っ伏した。


「ぷひゃあー。

 わかってはいたんだけど、これはキツイねー。

 どこにいるのさ、プリティドッグの奴ら。

 おーい」


「案外と、お前の後ろにいたりしてな」


 くるっと振り向いたエンデと宿の御姉さんの目が合って、相手がにっこりと笑ってくれたので慌てて前を向いた。


「馬鹿ね、フリップ。

 宿の御姉さんしかいないわよ」


「当り前だろ。

 なんでプリティドッグがこんな宿で働いているんだよ」


「ああん、プリティドッグ。

 どこにいるのー」


 だが、宿の御姉さんは彼らから見えない場所まで行くと【人化】を解いた。

 そこにいたのは紛れもないプリティドッグだった!


 二本足で立ち、「くふふふ」という感じに前足で口元を抑えている。

 そして御客に呼ばれたので、またしてもポンっと宿の御姉さんの姿に戻るとテーブルに向かっていった。


 実のところ、この宿自体がプリティドッグの一家によって経営されていたのだ。

 シャルロット達は、ついにそれを知る事はなかった。

 いくらフリップがAランククラスのシーフとはいえ、奴らを探知する事はどだい無理な話なのだから。


 そして、ついに一行は『伝説の森』へとやってきた。


「この森が、プリティドッグを大量に目撃したという報告が多数寄せられた場所なんだ。

 ここで見つけられなければ、もうこの界隈では探す当てもないぜ」


「うーん、本当に目ぼしい場所は探し尽くしたよね」


「いる。

 きっといるよ!

 という訳で、シーフの御兄さん頑張れ」


 どの道、探索となればフリップ頼みなのだ。

 あっさりと激励の側に回るシャルロット。


 だが見つからない。

 当り前だ。

 たとえ、すぐ後ろで御道化た格好をしていたとしても見つからないのがプリティドッグという連中なのだ。


 そして丸三日ほど捜索して、なんとか足型くらいは見つけたのだ。

 おそらくそれは、わざと残されたものだろう。

 だが、それを大切そうに壊さぬように、周りの土ごとそっと収納したシャルロット。

 いつか実家へ帰る機会でもあったら、父に見せてあげようと思って。


「ああ、プリティドッグがここにいた確かな証が、今この私の中に」


 そう言って自分の体を抱き締める少女。

 その様をじっと見つめている者がいたのにも気付かずに。


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