16-5 好物発見
俺は遠慮なく、御菓子や料理を味見しまくっていった。
一度にたくさんは食べない。
ファルはさっきの御菓子を袋に入れてもらって、ずっとそればっかりを食っている。
メシの方はなかなかのもんだと思う。
こいつは日本人が食っても悪くないものだ。
ラスベガスにある高級ホテルのバフェイくらいの感じか。
しかも蟹っぽい奴を見つけて、思わず目が釘付けになる。
早速アイテムボックスにいくらか蟹をガメた。
同じ種類が四皿もあったので、一皿分を皿ごとコピーしてからまた戻しておいた。
しかし、やっぱり形が違うのもたくさん欲しいなと思って、他の皿のもコピーしておく。
ついでに、その辺の美味しそうな奴を選んでコピーしておいた。
こいつは料理人さん達への土産だな。
新しい刺激のキーワードを厨房へ届けよう。
やっぱり外国なので、違う風味の物もあるからね。
日本のビュッフェだのバイキングだのではないので、「料理の御持ち帰りは御遠慮ください」とは言われていないし。
これは良い物が手に入った。
今回の旅は大成功だった。
帰ったらみんなで蟹パーティかな。
この国では蟹漁をしているのかな。
是非とも蟹味噌豆腐を作らせねば。
ここの蟹は刺身で食えるのだろうか。
いっそ帝国を制圧して国家丸ごと込みで蟹をいただくか。
いや蟹くらい他の国にもあったりして。
これはうちの第二王子の管轄だな。
そうだよ。
完全に忘れていたけど、今回はミハエル殿下と報酬の約束をしていないじゃないか。
たっぷりと恩を売っておいて、出来れば現物の蟹を手に入れさせよう。
俺の工作待ちリストに、蟹漁船と護衛の艦隊が速やかに加わった。
それらを操るゴーレムのランクアップも必要だ。
特に水中活動に特化したような奴をな。
俺はもう幻の蟹の大群に囲まれてしまっていて、うっとりと妄想にトリップしていたので話しかけられている事に全く気が付いていなかった。
回りから不気味な物を見るような顔で見られていたのにまったく気付かずに、自分の世界に浸っていた。
ファルは俺のそんな顔は見慣れているので、気にせずに御菓子を食うのに専念している。
タヌキ大使様に突かれて、ハッと我に帰った俺の前に美少女が立っていた。
ジェシカに雰囲気の似通ったタイプの少女だ。
鑑定すると、マリーナ十六歳。
帝都ベルン・ロス大神殿の大神官とある。
うーん、神殿なんていうものは、どこも発想は似たようなもんなのか。
神殿の上の奴等は清貧とは対極にある。
民衆から金を巻き上げるために、こんな美少女達を大神官に祭り上げているのだ。
無論、彼女達の実力は本物なのだが。
実力が無かった場合、お偉いさんのベッドに侍らせられていなきゃいいんだけどね。
さすがに俺とて外国でいちいちそこまでは知ったこっちゃないのだが。
どこの芸能界の性上納なんだよ。
「私に何か御用なので?」
俺は空惚けて聞いてみた。
だが、こいつはロス神殿の大神官なのだ。
もちろんファルが目当てなのに決まっている。
「あ、あの、そちらは神聖エリオン様で間違いないでしょうか?」
「いや?
これはうちの子でファル。
御母さんから預かっているの」
また空惚けてみた。
まあ内容的には特に間違っていないのだが。
すげなく扱われて美少女が半泣きである。
最近こういうのが楽しいな。
癖になりそうだ。
「泣かない!
ほら、これあげるから」
ファルが御気に入りのそれを差し出す。
マリーナが泣きながら礼を言って食べる。
「あ、本当に美味しい」
うん。
この子は正常な味覚をしているよ。
これは実に美味い。
涼やかに舌に染み込む甘さ。
こいつは、まさに上物だ。
まさか本物の和菓子職人が異世界転移したんじゃないだろうな。
もし本当にそのような御方がいたのなら拉致してでも連れ帰りたい。
それにしてもこの子、帝都の大神官なんていう高い身分でもこれを食わせてもらえてないのか。
やっぱり酷いな、この帝国。
この和三盆を使った御菓子の味は、日本人なら一口齧ればわかるはず。
和三盆を使った上等な御菓子は、東京の一番有名な展望タワーでも御土産に置くくらいなのだ。
帰ったら王家の連中にも食わせてみよう。
日本人である武の子孫なら味覚は素晴らしいんじゃないのかな。
この繊細な味がわかるはず。
「なあ、この菓子は誰が作った?」
「さあ、存じません。
ここのフロア責任者に御訊ねになられては。
それより神聖エ……あ」
俺はファルを連れて、さっさーとその場を離れた。
どうせまたこの子がファルを拝みだして面倒な事になるだけなので。
こんな敵地のど真ん中で、それはちょっとな。
俺はMAPで検索してここの責任者を探した。
そして、あっさりと見つけた。
俺が物凄い笑顔を浮かべながら近寄っていくので、胡乱な気配を察知したそいつは慌てて逃げようとしたのだが無理だった。
俺はファストの魔法と待機モードの魔導鎧による凄まじい速度でそいつに一瞬にして追いつくや、その首ねっこを捕まえて、さっきの御菓子のところへ連れて行き詰問する。
「この菓子は誰が作った。
大人しく吐け」
「そ、それは……」
口ごもる責任者。
だが俺の心は逸り、追求の手は決して緩めない。
「おい。
王国の貴族は礼儀も知らんのか!
乱暴はよせ」
なんだか出しゃばりな優男が来たな。
生憎と俺は貴族なんかじゃないんだぜ。
名誉貴族位を授かっただけの一介の平民というか、只の異世界人なんだからな。
シカトするが、そいつは何故か纏わりついてくる。
やけにしつこいな。
「なんだよ、別に取って食おうというわけじゃない。
誰が作ったのか知りたいだけだ。
うちの子が大層気に入ったので、他の種類も欲しくなってな。
こいつは、どこの店で売っているんだい?」
俺はそう言いながら、件の御菓子を突き付けた。
「い、いえ。
この一種類だけです」
「嘘を吐け。
俺はこれがなんであるか知っている。
こいつは俺の国独特の御菓子なんだからな。
絶対これが一種類のわけがないんだ。
俺はあれが食いたいんだ」
そう、干菓子が食いたいんだよなー。
いや各種餡物なんかもいいな。
日頃は滅多に食わないのに、こんな異世界では和菓子が懐かしくてたまらない。
特に、あの餡物の柔らかい外側の餅と来た日には。
俺も年齢的にはもう和菓子が似合うような歳なのだ。
元から嫌いじゃないしな。
「吐け!」
「おい、聞いているのか!」
更に優男が厳しい声音で追求してくる。
「五月蝿いな。
聞いてねえよ」
俺はブンブンと五月蠅い五月の蠅に向かって、きっぱりと言い返す。
こっちはそれどころではないのだ。
異世界で美味しい和菓子が食えるかどうかの瀬戸際なのである。
それが異世界島流しになった年寄りの日本人にとって、どれだけ重要な事か。
ラスベガスへ行く度に、旅の後半はもう胃袋が西洋飯には飽和して限界を迎え、現地では馬鹿高い値段のする和食しか受け付けなくなるような有様だったんだからな。
この異世界へやってきて、一体どれだけ経つと思っているんだ。
あれこれと日本の食い物を持ってこれていて、それをコピー出来る能力がなかったのなら、とっくに発狂するか循環器が破綻しているわ。
食いてえ。
どうしても他の種類の和菓子が食いてえ!
俺は更に手に力を込めて、責任者の首をギリギリと締め上げる。
「まだ首が胴体と繋がっているうちに吐いた方が身のためだぞ」
「い、言えないんです。
御願いです。
許してください」
責任者がもう泣き出さんばかりに哀願した。
「いや……たかが和菓子じゃないか。
ケチケチすんなよー」
なんなんだ。
この国じゃあ、たかが和菓子なんかが国家機密なのか?
よくわからん国だな。
だったらパーティ会場に置いておかなきゃいいのに~。
いや、それだったら俺達が食えなかっただろうから困るな。
ならいいさ。
勝手に探すまでだ。
さっそく、この御菓子を作った職人を検索した。
うーん、この近辺にはいないな。
わざわざ、こんなパーティに凄い菓子を出したくせに、その職人がいないとは。
こんな事はアルバトロス王国では考えられないな。
あのエリのようにパーティへ登場して、一躍脚光を浴びる事になるはずなのだ。
なんか変だな。
「おい、いいからちょっとこっちへ来い。
あまり大きな声では言えない話なのだから。
俺がちゃんと説明してやる。
あれは少々訳ありの菓子なのだ」
さっきの優男がそう言って手招きをする。
ほお?
俺はそいつの話を聞いてみることにした。
何かの手掛かりになればいいのだが。




