154-28 参列者たち
やがて結婚式の参列者達が集まっていた。
この彼らからみて異世界であるニューヨーク上空へ。
この結婚式場は空間サイズ調整可能ルームとなっており、必要であれば中にいくらでも人間を入れられるのだが、本日はそこまでする必要はない。
当日に話が決まってしまって強引に人を集めているので、王国関係の参列者達の到着は非常にまばらだ。
むしろ帝国の人々の方が熱心に集まってくれている。
いくら当日にきた話といえ、これは大型の帝国宮中案件なのである。
まあアルバトロス出身の花嫁の方は平民だから、そう気にする事も無い訳なのであるが。
だが迂闊にサボっていい行事ではないので非常に参加率が高い。
自分が行けないなら代理を送りつけてでも出席実績を作るのだ。
御祝いの品などは、会場入り口でアルフォンス商会が手配してくれるようになっているので手ぶら参加OKで、着の身着でやってきても衣装などを用意してくれる。
国家の重鎮の結婚式にしては非常に珍しいケースの結婚式だ。
まるで温泉セット付きの日帰り温泉のような気楽さだった。
ドランの奴も、自分にとっても腹心の部下の結婚式という足場固めになる大事な行事なので、フランチェスカさんの転移魔法で参加者をかき集めている。
うちの方は、もっぱら『御義母様』が活躍中だ。
そして真っ先に連れて来られたのが例によってピエール男爵だった。
「これはまた。
今度は隣国の宰相様の結婚式ですか。
なんだかこう私の名前は、こういう行事の参加要員として王妃様のリストの一番上に書かれているのではないですかね。
私ってそんなに暇そうに見えるのでしょうか。
こう見えても結構あれこれと忙しいんですがね」
それは知っている。
この人って性格的に本当に仕事を頼みやすいんだよな。
自分で言うのもなんなのだが、俺みたいにちょっと厭ったいような相手が苦手な人とかは、皆が彼に頼み事をしにくる。
また彼も頼まれたら嫌とは言えないタイプで、しかも有能で人あしらいが非常に上手いのだ。
彼が相手を出来ない人物など王都アルバにはいないのではないかとさえ言われている。
それがどれだけ貴重な事なのか、彼本人はよくわかっていないのだが。
あの我が家のエバンス爺さんがまだ偏屈な現役当主だった頃でさえ、まだ若かったピエール男爵の頼みだけは二つ返事で聞いてくれて、ただの一度も断った事がなかったとさえ言われる伝説の男なのだった。
うーん、あの初めてアボランゼを訪ねた時にピエール男爵を連れていくべきだったな。
当時はその伝説を知らなくて。
ミハエルの野郎め、わざと黙っていやがったな。
きっと奴の密かな楽しみになっていたのに違いない。
まあ俺達の間ではたまにやる御遊びなのだが。
俺から頼んで駄目だった時には、「実はピエール男爵という凄い男がいてだな」とか囁く予定だったのに違いない。
俺が爺さんを連れて帰った時に、ミハエルが国王陛下とは少し違う妙な驚き方をしていやがったからなあ。
それにしても、一体どうやったらそのような事が可能なのか。
あの昔の頑固一徹だったエバンス爺さんがイチコロだなんて。
この俺にだってそのような事は絶対に無理だ。
もうそれは天性の無自覚なものなんだよな。
彼には『偏屈貴族殺し』の二つ名や称号がついていたって不思議ではない。
俺の事も当初から避けたりしなかった貴重な人材で、あのギルマス・アーモンですら嫌がる難儀な性格をした厄介な文官や、総合庁舎関係なんかでは随分と助けてもらったものだ。
蔭では、彼に頼めばこの頑固者の魔王である俺がノーと言わないとさえ言われている人なのだが、それは事実といっても過言ではないほどだ。
まあそれも一応限度はあるけどな。
たとえば、ベスマギルやエリクサーなんかの王国にて門外不出となっているような品はあげられない。
オリハルコンや超絶に物凄い回復アイテムくらいなら好きなだけあげてもいいけど。
そのような話が耳に入ろうものなら、ミハエルがまた目から火を吹くかもしれんが。
彼は一介の法衣男爵でありながら、非常に顔が広く、また仕事にも融通を利かせられる。
ある意味でエリーンあたりと非常に近い人材なのだ。
他の人もそれを知っているから、余計に仕事も集まるのだ。
その代わり、この人の頼みは誰にも断れない。
だから、それがまた仕事を頼まれる原因になるといった加減で無限ループなのだ。
御本人様としては、何故自分はいつもこのように忙しいのかと常に首を捻っているのだが。
それに俺がしょっちゅう彼に仕事を頼んでは、その見返りとしてビッグなあれこれをいつでも二つ返事で提供していたりするのが、また更に忙しさに輪をかけている。
まあその御蔭で貴族殺しの異名を持つような俺が、今は貴族連とそれなりのよい関係を保っていられるのだ。
彼も既に王宮関係者すべてから俺の関係者扱いにされているのだが、それを本人だけは知らない。
人呼んで『魔王のパシリ』、しかもその称号持ちなのだ。
そんな称号が付いているなんて本人は知らんがな。
エリと同じだ。
案外とみんな、自分の称号には気が付いていない事が多い。
「はっはっは、王家ナンバーワンであるシャルロット王妃様からの覚えが目出度くてよかったじゃないか」
「うーん、それはどうなのでしょう」
すでに王宮中で「ピエール男爵はあのアルバ王宮の真の主シャルロット様の一の子分。決して疎かに扱ってはならん方だ」とか言われていてもおかしくない。
他には、うちの王家の人達が揃い踏みだ。
アルバトロスの公爵連中までが集まって、ゴドワルド製品の趣のある渋い中世的デザインのカウンターが設えられたバーで、地球の高級酒を片手に持ち帝国貴族相手に談笑している。
なんというか、かつては敵であったため、あまり親交の無かった帝国の人士がたくさん集まってきたので、如才のないこの国の公爵連中が真っ先に寄ってきている!
最近は東のメルス大陸やハイドとの付き合いが盛んで、帝国方面が御留守になっていたからなあ。
この意気にという事なのだろう。
帝国の有力貴族なども東方との取引などに熱い視線を向ける人も少なくなく、特にその方面との交易に力を入れている東の公爵ローゼンバーグ様は、非常にもてもての御様子だ。
あの人も凄くやり手だからな。
そういうビジネス方面の権勢はアルバトロスの公爵の中では一番だろう。
南は貧乏くじとロス大陸の南方面との交易担当で、北は王家の守りと騎士団が主な管轄、西のうちは国の守りの要だ。
俺の場合は、自前の強力な商会持ちで地球とも交易しているから特別に商売が盛んなんだがな。
そういった貴族王族の様子なども地球のニュースサイトに流れ、今会場である空中庭園のいる空を見上げているニューヨーク市民達も、テレビやスマホなんかでそれを見ている。
この結婚式は地球全土から大注目されているのだが、肝心の花婿リヒターときた日には。
「いやあ、グランバースト公爵。
いやアルフォンスさん、これも偏に貴方からたくさん御世話をしていただいた御蔭です。
本当にありがとう~。
このような晴れの日を迎えられるとは。
いやはや、ぼかあ幸せだなあ」
う、その最後の台詞はやめてくれ。
それは俺が異世界五月病にかかっていた時に連発していた台詞じゃないか。
あの時は後でジョニーにビデオを見せられて、見事に机へ突っ伏したもんだ。




