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16ー4 逸品

 馬車が着いたのは、なんと帝都の宮殿だった。


 おー。

 あまりにも何度も来過ぎていて今更感が半端ないな。

 正式に訪問するのは初めてなのだが。


 だがファルは初めての海外旅行に思いっきりはっちゃけていた。

 世話係として真理を連れてくるべきだったか。

 だが、それはあまりしたくなかった。

 なんとなくといえば、それまでだが。


 あの子はあまり、こういう事に関わらせるべきではないと本能が告げていた。

 彼女は大好きな子供の世話でもしていてくれりゃあいい。

 みんなの大切な御母さんが汚れ仕事をする必要なんかないのだ。

 そのために、この腹の中まで真っ黒な魔王園長様がいるんだからな。


 ファルの場合は帝国が敵対行動を取った時、全世界の精霊が具現化して帝国に攻め込むし、全てのロスを信奉する大陸国家が連合を組んで帝国を灰にする。

 それに何よりも、俺がその場で全てを灰にする権利を手に出来る。

 まあ実際のところ、本当に灰にするかどうかは、また別のお話となるのだが。


 帝国にもきっとバイトンのようなアホがいるはず!

 必要なら、そのアホさ加減をいつでも全世界実況生中継できる。


 俺は期待に胸を弾ませていた。

 公爵殺しの称号を帝国殺しにグレードアップ出来るかもしれない絶好の機会の到来に。

 ファルと二人して子供のようにわくわくしていた。


 そうこうするうちに、アルバトロス王国の鷹の紋章が描かれた大使館の馬車はフリーパスで皇宮の中へ進んでいった。

 ええのか? ええのんか?

 こんな危険人物を二人もあっさりと通してしまって。


 パレスの正門前に馬車は止まった。

 そこには、ちゃんと屋根付きの車寄せがあって感心した。

 御者はドアを開けてピシっとその場に立っている。

 うむ、御苦労。


 皇宮の宮中を案内人の後ろについて、ファルを抱えて爆炎のエンブレムを背負い、会場へと歩を進めていった。

 これを見て帝国の諜報の奴等が慌てているんじゃね?


 そして大広間。

 そこは見紛う事なき煌びやかな世界であった。

 体を壊して引き篭もっていたおっさんには、本来なら無縁な雲の上の世界だ。

 だが今の俺にとっては、さしてそう興味を引く事のない、まったく関係のない世界なのだった。


 何者にも一切構わず、全身から自信を魔力と共にオーラのように迸らせ、俺は会場を突き進んだ。

 俺の姿やエンブレムを見ただけで、さっと人垣が割れ、ちょっとだけモーゼ気分が味わえた。


 目指すはスイーツの海。

 この国は意外とそういう物のレベルが高い。

 すなわち、この国にもかつて稀人がいたのだろう。


 ファルの目が超真剣だ。

 お前……そんな目が出来たの?

 育ての親として驚愕に目を見開く。


 選んでいらっしゃる。

 御菓子を。

 一期一会の精神で。


 そして神聖エリオン様は仰った。


「おいちゃん! あれ!」


 それは隅っこのパッとしないコーナーの、見た目はたいした事のない、みすぼらしい感じの素朴そうな菓子だった。

 それを見た、いくばくかの帝国貴族の間に驚きの声が広がった。

 ん? なんでだ。


 ふむ。

 俺はファルをそっと降ろし、そいつを見ながら考えた。


 これは……。

 俺は一種の確信をもって、白くて細長くて不格好な花梨等っぽい感じの形をしたそいつを一つ手に取り半分に割って口に運ぶ。

 割った時にパッと飛び散る、白い砂糖らしき粉。


 その手付きをファルがじっと見ている。

 俺の顔が思わず綻び、残りをファルの口に放り込む。


「ピギャアアーーー」


 その凄まじい人間のものとは思えないような奇怪な叫びに、会場中の人が振り返った。

 ファルの姿を認めた警備の人間の顔が青ざめる。


 ほう。

 もうファルの正体が帝国でも知れ渡っているのか。

 まあ、あの結婚式でやらかしたからな。

 それは、さぞかし警備関係者の肝も冷える案件だろう。


「どうなさいました!」


 警備責任者達が慌てて駆けつけてくる。

 偉大なる神の子の下へ。

 そのパリっとした態度物腰を見るにつけ、どうやら高級貴族の出であるらしい。

 へたをすると帝国騎士団の奴らなのかもしれない。


 ほう、これは中々の人材のようだ。

 帝国も腐った連中ばかりではないという事か。


「美味しい~。

 この御菓子、とっても美味しいの。

 もっと食べる~」


「は、はあ……」


 警備員の気の抜けたような返事を聞いて、俺は思わず笑みを浮かべた。

 俺にはそいつの正体がわかっていたのだ。


「和三盆」


 この世界で、そいつを作った奴がいる。

 あるいは持ち込んで。

 またあるいは、俺のようにそれをコピーするか、自分のスキルで創り上げて。


 少なくとも日本と同等の品質の物を作りあげた菓子職人がいるのだ。

 こいつはおそらく和三盆の中でも最高級品だな。

 わかる。

 理屈でなくわかる。


 こんな物を作れるという事は、そいつはおそらく稀人、つまり日本人なのだろう。

 だが、帝国貴族の奴等の反応が気になる。

 あんなに驚くのは何故だ?


 理由はないが、オルストン家やパルミア家と同じ匂いがする。

 つまり、紛れもない厄介事の匂いだ。

 思わず口の端がキュッと釣り上がる。

 それこそが今回の俺の任務に相応しい案件なのだから。


 それを見た帝国高級貴族が更に青ざめる。

 こいつにマーカーをつけておいた。

 何か内輪の事情とかを知っていそうな奴だったので。


 マーカーについては、あれから改良した。

 なんと魔法PCの別ウインドウを立ち上げると、マーカーを無限につけられるのを発見したのだ。


 今までの苦労は一体なんだったというのか。

 これだから、おっさんという奴は困る。

 新しい物にはついていけない。


 うっかりとウインドウを消しちまうとマーカーが無くなるけど。

 ただし、履歴からウインドウを立ち上げ直すとまた復活する。


 和三盆の御菓子を一握りアイテムボックスに仕舞っておく。

 今回の御土産第一号だな。


 もうファルが貪り食って、頬を膨らませたハムスター状態になっている。

 出来ればそいつをレインボーファルス状態でやってほしいところだ。

 きっと可愛くて思わず悶死しそう。


 俺も少しずつ摘まませてもらっている。

 素晴らしい味だ。


 ファル、せっかくの高級菓子なんだから、もっと味わって食えよ。

 こいつをレミに食わせたら、どんな顔をするかな。


 ファルたんは目をキラキラさせて、次の獲物を探し求める。

 だが、すぐにプイっと横を向いた。


「どした?」


「あとのは、これに比べたらまずーい。

 いらなーい」


 しっかりと駄目出しが出た。

 グルメだな、うちの御嬢は。


 どうやら見ただけで味がわかるらしい。

 さすがは食い意地の張った謎生物。

 それとも何かの聖なる力なのか。


 そして、それを聞いた何人かの人間の顔色が失われた。

 それは紙よりも白い。

 なんなの、この連中。


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