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154-27 粗忽者の晴れ舞台

「いいか、フィア。

 今日は頼んだぞ」


「御任せください!

 今日はジェシカ先輩が来ないのですよね。

 絶対に、絶対に、今日の御式は今度こそ成功させてみせますので!

 大司祭さまあ。

 私、今日は本気で頑張りますよ~」


 うーむ、今度こそ、か。

 まるで結婚式を成功させるのが奇跡であるかのような言い草だ。

 このくらいの事は次期大神官であるならば、普通は成功するのが当たり前なのだが。


 ジェシカなどは来て間もない九歳の時から次期大神官候補として、見事に身分の高い人の結婚式を執り行っていたそうなのだが。


 俺はまた頭が痛くなってきた。

 少し早まったかしら。

 まあ、エリーン達もうちの身内みたいなものなので、少々の事は我慢してもらおうか。

 一応は応援も頼んであるのだしな。


 ちなみにジェシカは式に来ないのではなくて、結婚式に『友人枠』で、神官服ではなくて普通のドレスでの出席なのだ。

 あの子は、うちの家族のようなものだしな。


 結婚するまでは俺があの子の親権を預かっていたくらいで、俺にとっては娘も同然の扱いだったのだ。

 そもそも、この俺が音頭をとって婚姻会議まで開いて、それはもう苦労して嫁に出したんだからな。


 念のために本日はバルドスにもサポを御願いしてある。

 ジェニーちゃんと一緒に、結婚式には正式に招待されているのだ。


 まあ当の花嫁自体が凄腕で、今まで他の結婚式でフィアの尻拭いをしてくれていた事もあるエリーンなので、いざとなったら花嫁自身が力業でなんとかしてくれるだろう。

 それが一番頼もしいんだが。


 一体どんな結婚式なんだよ。


 結婚式は空中庭園でやるので、一応はあれこれとギミックは仕込んであるのだが、フィアの場合は空間丸ごとで粗相をしてくれるので油断はならない。


 フィアの奴もパワーアップしているので、へたをすると巨大な庭園結婚式場丸ごと妙な空間へ連れて行きかねん。

 この前の位相空間の時ではないのだが、油断していると織原の奴にも解除出来ないとかが平気であり得るからな。


 その場合でも三日もすれば出て来られるはずだが、そいつはちょっと勘弁してほしい。

 それだとリヒターの面目が丸潰れになってしまうので、参加者一同で頭を抱える羽目になってしまうからな。


 そして俺は加護を通して彼の者を呼び出した。


「おお、儂を呼びなすったかね、精霊魔王よ」

「呼んだともさ、精霊の大賢者アルク・ブラネス」


 こいつは精霊としては珍しく賢いというか思慮深いというか、ジェシカがいなくなった時に精霊軍団も入れ替えになるので、そのための人材というか精霊材なのであった。

 気ままでやりたい放題の精霊にしては珍しいタイプなので、レインに頼んで派遣してもらったのだ。


 俺も加護をもらっていたのだが、この大精霊の場合は「食欲(魔力欲)に負けました」というスタイルではなくて、「この儂が加護を与えておかぬわけにはいかない案件じゃのう」という感じで加護を与えてくれているのだ。


 そういう事は俺にも加護を通して理解出来るので、わざわざ精霊の森を通して指名して来てもらったのだ。


 種神官なる者というだけでも精霊の森としてはフィアに対して関心が高い訳なのであるが、そいつが希代の粗忽者で精霊魔王さえもきりきり舞いさせる相手となると、かの精霊の大賢者と呼ばれる彼にとっても捨て置けないものなのであるらしい。


 よくこんな人材、いや精霊材が回ってきたものだ。

 これも主神ロスの御導きなのか。


 何しろ、レインボーファルス侍従長などという御大層な肩書を持っているロイネスが、あのポンコツ具合だからな。

 どうにも精霊という奴らは、明後日の方向に行っているかポンコツなのか、そのどちらかである連中も多いのでなあ。


 ポンコツが揃うのは、フィアとあのジェニュインだけでもう十分だ。

 次期アルバ大神殿の統括精霊がポンコツであったなら堪ったものではない。

 できればミレイのような逸材が欲しいのだが、彼女を引き留める事は出来ないので。


 もちろん最初から彼女を引き留めるつもりなど毛頭ない。

 精霊の愛は無償で、そして愛した者に対して絶対に裏切らない信義を持つ。


 それは精霊の成れの果て、精霊族たるドワーフの信条である『折れず曲がらずエルドアン』の元ネタにもなっているものなのだ。


「今日は済まないが、フィアをしっかりとサポートしてやってくれ。

 しばらくの間は、あの子に付き合ってもらう事になるのだしね」


「ほっほっほ。

 あれもほんに面白い子じゃ。

 いや、人の子はいつも面白い」


 よかったよ、この世界の人類。

 この惑星のシステムの要とも言うべき精霊さんから、よく愛されていて。


「今後の事も踏まえて頼んでおいた連中は?」

「ああ、それなりの精霊を用意しておいたから安心するといい」


「助かるよ。

 あれも半端じゃなくアレな奴でな。

 今後フィアをサポする精霊は精鋭で揃えたいのさ」


 というわけで、本日は新しくフィア付きになる予定の精霊さんにも協力を要請する形となった。

 出来る事は全部やっておかないとな。


 あともちろん、エリーンの手を引く父親の役はこの俺だ。

 式場の準備の方はゴーレム隊が着々と進めていた。


 一応、アメリカのテレビ局なんかにも式の放映を頼んである。

 この空中庭園訪問のイベントに花を添える形になるので。


 今は結婚式の会場へハリウッドの女性大スターがリポーターとして入り、あれこれと中継してくれている。

 会場を華やがせる、ブラウンゴブリン・ドワーフ・エルフ達が力を合わせてくれたゴドワルフ製品などについても解説され、彼女達の目を奪った。


「今度の、三回目の結婚式にはここを使わせてもらおうかしらね」


 彼女は俺でも名前を知っているような有名女優さんで、そういや去年離婚したというニュースが流れていたような。

 ネットでチラっと記事を見ただけなんだけど、もう次の彼氏がいるらしい。


 ニューヨークの摩天楼上空に浮かぶ、大空の覇者たる空中庭園におけるアトランティックな結婚式。

 さっそくセレブな方々の耳目を集めつつあるようだ。


 後は式を無事に成功させるだけなんだがね!

 目下のところ、結婚式を執り行う大神官本人(ポンコツ)のせいで、それが一番の難関なのであった。


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