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154-23 こけら落としの儀

「号外、号外。

 あのエリーンさんがついに結婚!」


 そう言って、俺や仲間のいるあたりで嬉しそうな顔でビラを配りまくっている義妹を見ていると、まだまだ子供だなとか思ってしまう俺だった。

 いや女の子だからこそ、こういう話が好きなのだろう。


 この子が結婚する時には、俺自ら号外のビラを作って配るとするか。

『あのキッチンエリの大師エリ、ついに結婚!』とかな。

 もう今から作っておくとするかな。

 俺ってそういう物を作るのに時間がかかるんだよね。


 あのパルシア王国のすかしたロリコン野郎、ロレンスのところへも真っ先に配りにいってやろう。

 もっとも情勢次第では、そのエリの結婚相手が奴になってしまわないとも限らないのだが。

 だが、うちの子はまだ嫁にはやらんぞ!


 そういや、娘に関するあれこれをまだ父親のポロにまったく言っていなかったな。

 今度いつか、酒でも飲みながら話すか。

 あいつも結構子煩悩そうな男だし、そういった話を聞いたらなんて言うのかね。


 今のところ、娘の嫁入り先候補がアルバトロス王国の第二王子とパルシア王国公爵家の跡取りなのだが。

 アドロスの貧民街の子だったエリが、今ではそのような物凄い事になっている。


 いっそ父親の手で、例の幸せのグリモワールに決着をつけさせてやるのも一興なのだが、それだと予想の斜め上の結果が出てしまうかもしれない。

 まさかの『俺の第三夫人』とかいうオチじゃあないだろうな。


 そ、それはいくらなんでもちょっとな。

 あいつも「もし結婚するなら、アル御兄ちゃんみたいなタイプは手がかかり過ぎるからパス」とか言っているらしいし。


 まあ戯言はそのくらいにして、今はエリーンの結婚式を最優先事項で片付けなくてはな。


「よし、いい機会だ。

 こうなれば、もうアレをやってしまうか」


 そして俺はアスベータのドランの元まで飛んだ。


「なあ、ドラン」

「ん? なんだ」


 いきなり転移していっても相変わらず動じないな。

 もう今更だけど。


 そこには珍しく優雅に御茶を飲んでいる奴がいた。

 こいつは都合がよさそうだ。


「今晩は暇か?」


「ああ、晩餐会もないし仕事も珍しく落ち着いているのでなあ。

 もしかして、そっちのイベントへの招待か?」


「ん?

 いや、招待は招待なんだが、リヒターとエリーンの結婚式だ」


 ドランが御茶を思いっきり噴いた。

 ミハエルなら、いつものコントに過ぎないのだが、こいつの場合は珍しいかな。


 お、いつの間にかやってきていたプリティドッグのチビが、ちゃんとビデオを回してくれていた。

 俺とチビが満面の笑みで目線を交わし合った。

 こいつらは相変わらずわかっているな。


「なんだと!」


 そして笑いながらドランが溢した御茶を自ら拭いてくれているフランチェスカさんが訊いてくる。


「まあまあ、やっとお話が纏まったんですのね。

 もっとかかるかなと思っていたのですが」


「さあ、俺もデートの御膳立てをしてやっただけで、一体何がどうなったものやら。

 実は空中庭園には結婚式場もあるんだ。

 それで、そのこけら落としのイベントをどうしようかと思っていたのだが、また

思わぬ事になったもので」


「ふふ、身内で賄えそうで何よりでしたわね」


「そうそう。

 できれば、ニューヨークにいる今日中に決めてしまいたい。

 空中庭園は、明日には最終目的地であるロンドンへ行ってしまうのでなあ。

 現地はまだ午前中だよ。


 両世界を通じて世界一のメガロポリスであるニューヨークで、あの子を三国一の花嫁に。

 そうすれば、あの子を育ててくれた今は亡き神父様や、狩人の師匠だった女の人も草葉の陰で喜んでくれる事だろう。


 あいつは初めて会った時から俺とは凄く仲良くしてくれていて、今日までうちにいるんだ。

 うちから立派に嫁に出してやりたい。

 俺は、半分あの子の父親代わりのつもりでいるんだ」


 実はハンボルトにも声をかけておけば、あの家からも何か御祝いをしてくれるのではないかと考えているのだ。

 せっかくのニューヨークなんだしな。

 おっとジョゼにも招待状を出しておかないといかん。


「それには及ばないぜ、魔王」


 すぐ後ろには、俺の思考を読んだジョニーが立っていた。


「ああ、もしかして」


「ハンボルトの方にはもう伝えておいた。

 エリも今ケーキを作っているところだ。

 花嫁がもう焼き上がりを待ち構えているみたいだし」


「今から?」


 ウエディングケーキを式が始まる前に当の花嫁が食ってしまってどうする。

 相変わらずブレない奴だな。


 おっと、ウエディングドレスの支度はどうしようか。

 ああ、そうだった。

 あの子達にも御祝いさせてやらないとな。

 みんなが大好きなエリーンの結婚式なのだから。


「じゃあ、フランチェスカさん。

 リヒターの親族への連絡は御願いしますよ」


「それは任せてちょうだい。

 帝国からの参列と他の国へも連絡しておくわ。

 もう緊急だから『来てくれる人だけでいいから』という事で」


 一国の宰相の結婚式がそれでいいのかねと思ったのだが、そういや一国の皇帝が……。

 またベルンシュタイン帝国首脳に語り草が一つ増えた。

 ああ、あの時は俺も一緒に結婚式を挙げたんだったなあ。


 俺はケモミミ園へ向かって転移していったが、既に彼女達は目の色を変えていた。

 いつかはこの日がと、全部自分達で仕上げるつもりで狙っていたものらしい。


 実習で作り上げた数々の『エリーン専用』の機体、じゃあなくってウエディングドレスが揃っていた。


 何しろ、毎日子供達とじゃれあっていたようなエリーンだ。

 体形はすべて園児や小学生達に把握されていたし、あれだけ食っても体形が変わるような事がまったくないので。

 三つの頃から猟師として山河を駆け巡って鍛え上げた基礎代謝は伊達ではないのだろう。


「後は本人にどれがいいのか選ばせて微調整するだけか。

 まあ、ゆったりとしていて御飯が食べやすいようにしてあるのだし、そう問題はないか。

 でも歩く時なんかはピシっとしてないと」


『御飯を食べやすい』がエリーンにとって最大の要望なので、この異世界で流行りの神前というか和風の結婚式はなしだ。


 お色直し用に数着用意するのだ。

 そのためには最初に十着以上準備しておかねばならない。

 六十人以上に増えた裁縫グループがドタバタしまくっている。


 もうほぼ準備は整っているので、そのようにする必要はないのだが、単にドタバタしたい年頃なだけだ。


 今日はもう勝手にやらせておこう。

 この子達も大きくなった。

 小さな頃から御世話になったエリーンを立派に御祝いする事はちゃんと出来るだろう。

 その気持ちで送り出させてやりたい。


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