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154-19 パレード

 そして今日もニューヨークのアトランティス祭りは続く。

 一応、この街はアメリカ東海岸にある都市で大西洋アトランティス・オーシャンに面しているのだから、あながち所縁がない祭りというわけでもない。


 むしろ我が空中庭園の方こそ、「どうして異世界でわざわざ地球のアトランティスなんかをテーマにした」と問われれば、どうにも返答に詰まるような代物なのであるが。


 このニューヨーク市内で毎年やられる有名な行事のパレードで使うような巨大ヘリウム風船が、本日は異世界仕様で街の空というかビル群の合間をゆるゆると闊歩している。

 急遽、これらを用意してくれたのはハンボルト家なのだが、奴らの辞書に不可能の文字はないのか?


 どいつもこいつも皆、異世界やアトランティスに所縁のキャラクターばかりだ。

 ドワーフにファルスにドラゴンに、あれこれとデフォルメされた可愛いキャラクターだ。

 まあ、こういう物は子供に受けるようなスタイルの物じゃないと意味がないので、これで正解なのだが。


 もしかしたら、もう異世界中毒になっているらしいジョゼかジョゼママあたりが、あらかじめ準備させていたのだろうか⁇

 いくらハンボルトでも、こんなにいきなりで、このように特殊な物を用意出来ないよな。

 最強の生産特化アイテムボックス持ちである俺じゃあるまいし。


 本日は日曜日で、大通りで行うパレードの許可はハンボルト経由で当局から貰ってあるので、ゴーレム隊が犇いて大掛かりにパレードしている。

 俺が作ったファンキーな感じのオープンカーで皆身を乗り出して、沿道の見物客などに投げキッスをしている。


 その数、およそ二百万人、いや二百万ゴーレム。

 物見高い、うちのゴーレム達が異世界からやってきて、ほぼ全員集まってしまっている。


 それに加えて人化した精霊達を呼んで一緒に歩かせているので、それはもう凄まじい数になってしまった。


 今、この街でテロなんかを起こそうとする奴がいたら面白い見物になってしまうだろう。

 ただただ、狩られるのみだ。

 そんな連中はプリティドッグにおちょくられて楽しまれてしまう危険さえあるのだから。


 俺は横にいた斎藤ちゃんに訊いてみた。


「お前らも本当に好き者だな」


「真理御母様を御作りになった初代国王・船橋武様は、それはもう野次馬根性が旺盛な方だったそうですからね。

 夜中に近所で火事でもあろうものなら、寝ている妹を叩き起こしてまで一緒にサンダル履きで走って見に行かれていたような方でしたから。

 そんな彼の記憶なども全て、何故か私らの魔核にインプットされていまして。

 そういうところだけ」


「何だい、そりゃあ」


 そんな事に一体どういう意味があるのか。

 まったく武の奴め。

 まあいいんだけれども。


 いや、実を言うと俺も野次馬根性なら旺盛だったし、それは俺の親父から引き継いだ血の遺産なんだしな。

 歳を経るごとに、そういう部分がどんどん死んだ親父のその当時の様子に似てくる。

 実に不思議なものだ。


 そういう物が、俺が魔核を作る時に情報的な意味でのゴーレム魔核に伝える遺伝子に、無意識に組み込まれてしまうものなのだろうか。

 何でだろう、おかしいな。


 まあ原形は、間接的とはいえ『コピー』という手段で丼に作ってしまったものだから、そういう物も俺より武成分の方が多いはずなのだが。


 派手な御祭り騒ぎの源泉としては、沿道の見物客よりも参加しているゴーレムの方が確実に多いのではないかと思う。


 年末のラスベガスの花火でストリップ大通りに凄まじい数の人間が溢れているが、あれで公式発表は三十万人だそうだからな。

 もっとも、三十万人だって物凄い数字なのだが。

 日本で俺の住んでいた街は三十万人以上いたが、あの街の住人総出に近い人数なのだから。


 名古屋の地下鉄で最も人出の多い栄駅の一日の利用客が五万人以上だったはずなのだが、あの人波の一週間分近くにも達する数だ。

 そして今日パレードに参加しているゴーレムは、その約七倍の数がいるのだ。

 それに加えて精霊類がいる。


 沿道で見ていても、いつ終わるものかわからない車列が、延々と終わりのない物語のように通り過ぎていく。


「まあ、この世界一のメガロポリスには相応しいイベントか」


「あれー、あれはルイスさん達だ」

「はあ? 誰だ、そいつは!?」


「親方達の新しい御友達ですね。

 おーい」


 見ると、親方やアニキと一緒に先頭を往くオープンカーに乗せられてしまっていて、なんだか微妙な顔付きで沿道の人達に手を振っている、アメリカ人のもう老人といっていい歳の男性が二人いた。


 こちらにいる斎藤ちゃんを見て何か苦笑しているようだし。

 何故、あの親方がニューヨークで爺さん達と御友達になっているのだ。

 どうせ、また何か酒絡みの碌でもない話であるのに違いない。

 親方達が実にいい笑顔だ。


 またあちこちに迷惑をかけているんじゃないだろうな。

 まあ、あの和やかな様子じゃあ死人とかは出ていないようなのだが。


「じゃあ、そろそろ始めようか」


 俺は空中庭園の管制室にいるエグゼグティブ・アドミニスターのアイリーンに命じて、空中庭園にアクロバット飛行を命じた。


 本日は、あの中に人はいない。

 みんなニューヨーク見物に降りてしまっているからな。

 まあ中に人間がいたとしたって、重力魔法制御によりGのコントロールや内部の重力は正常に保たれているので、内部における日常生活に支障はないのだが。


 あの巨大な物体が音と光の競演に包まれながら、巨大なUFO母艦さながらの図体でアクロバットを展開している姿は実に壮観だ。

 一応これも、航空局や地元の空港管制とは打ち合わせ済みだ。

 そのために事前に関係者を招待して根回しをやっておいたのだしな。


 突然急停止したり、ジグザグ飛行を高速で披露したりしている様は、わざとUFOっぽくやらせている。


 生憎な事に『本物のUFO』という奴は、大気圏内飛行中は静かに亜音速で直進しているだけなのだが。

 そもそも大気圏内飛行というものが、本来はそういうものなのだから。


 UFOも、形がはっきりしていない光の塊のような物や、光点がジグザグに飛んでいるような物は紛い物か見間違いの可能性が高い。

 本物のUFOは形が非常にはっきりしていて、一目で何らかの飛行機械であるとわかるのだ。


 ただ、あまりにもギラギラと高輝度に輝いているため、立体的にどういう形をしているのかが判別しにくい。

 俺が見たのは、やや長細い感じのスタイルで、ずんぐりとした緩い楕円形みたいな感じだったのだが、その年は世界中で『葉巻型』が目撃されていたので、たぶんそのタイプなんだと思う。

 全然葉巻っぽいスタイルには見えなかったがな。


 沿道や建物の中からスマホやタブレットであれを撮影している人の波が引きも切らない。

 昔はこれがデジカメで、その前はフィルム式のカメラだったわけだが。

 今の子達って、あのフィルムっていう奴の入れ方がわからないだろうな。


 不器用な俺はあれが苦手でね。

 またカメラごとに微妙に構造が違っていたりするし、毎回「これでよかったっけかな」とか言いながらフィルムを装填していた。


 なんつうかこうカチっとしていないんだよね。

 俺って拳銃に装着するマガジンみたいにカチンっと嵌まる感触が好きなのだ。

 だから携帯も昔の機械スイッチ式の奴が好きだ。


 バイクで旅行に行く時なんか、いちいち予備のフィルムを持ち歩くのが面倒だった。

 海外へ行く時も、空港のX線検査で感光してしまうタイプのフィルムもあったしなあ。


 だが、そこでニューヨークに銀の弾丸が舞った。


「パパー!」


「お、来たかレミ。

 ほら、楽しいショーが始まったぞ」


「あら丁度よかったわ」


 シルがエレーミアを連れてやってきた。

 今はみんなで街の見物をしていたらしい。


 本日はエドが護衛につき、そして無数のゴーレム達もいる。

 一応は体表面にバリヤーを展開させてあるので、いきなり銃で撃たれたって平気だ。

 この街の場合は、そうしておいた方が無難だ。

 不慮の事故は避けたい。


 真理さん達も厳重な護衛付きなので下に降りてきている。

 まあ真理さんにも魔法入りの腕輪を持たせてあるし、彼氏一人くらいなら守れるだろう。

 なんとCIAのジョージまで一緒にいたわ。

 なんであいつが一緒にいるんだよ。


 地球にはよく慣れ親しんでいるエリパパのポロが他の子供も連れて見物にきている。

 ここにはエリしかいないようだが。

 パスポートは日本政府が用意してくれた。

 アメリカにおける身元引受人は俺とハンボルト家だから、どこからも文句なんてこない。


「よお、ポロ。

 久しぶりだな。

 あれ、マリーがいないな」


「ああ、あの子ならエリーンさんと一緒にニューヨーク名物の食い倒れに行っていますよ。

 あの二人の邪魔はしないようにとは言っておいたのですが」


 マリーの奴め。

 パパ大好きっ子のくせにパパを置き去りにして、エリーンの鼻を頼りに自慢の舌を唸らせにいったか。

 あの子も成長したもんだ。


 まあ、どうせエリーンが食い倒れているだけだろうし、護衛のゴーレムもいるので問題はない。

 リヒターなんぞは只のオマケ扱いなのだろう。

 まあ、それでも奴にとってはエリーンと一緒にいられる楽しい休暇の過ごし方なのだ。


 今日はエリパパも、エリ達と親子水入らずで海外旅行か。

 リサさんは向こうに残って御針子の御仕事だそうだ。

 もちろんポールの奴はここにおらず、御仲間と一緒にこの街のどこぞを荒らしまわっているのだろう。


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