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154-17 これを騎兵隊と呼ぶのは本場の騎兵隊の国では少し抵抗があります。というか、むしろ何か失礼にあたるのでは。

 そして夜中にニューヨークの街並みを背景にし、足音を一つに揃えて進む巨漢の軍勢。

 金曜の晩という事もあって、この世界一賑やかな街には人も溢れて、華やかで姦しい喧騒に満ちていた。


 だが彼ら世界一の繁華街を埋める人々は、その凶悪な面相だがやたらと陽気な武装集団と出会うと、慌てて「信じられない物を見た」とでもいうような顔をして左右に道を開けていくのだった。

 この破天荒なアメリカといえども、ついぞ見かける事のない異様な迫力を放っていたからだ。


 それを目にした誰しもが『十戒』というモーゼが大海を割る映画を思い出すのではないかと思う程、あまりにも見事な道の開け方であった。


 ザッザッザッという大きな足音を立てているのは、ドワーフ謹製の魔物革製のブーツが力強く歩道の上を奏でている音であった。

 彼らはその凶暴なまでの図体にして音もなく獲物に忍び寄る事も出来るのだが、こういう時には景気をつけるために、わざとこのように音を立てながら行進するのだ。


 また、その速度が異様に速い。

 有無を言わせぬ勢いで押しまくってくる。


 マーフィの案内に従い、これからマフィアのボスの屋敷へ行くのだ。

 いや攻め入るために行くのだった。

 まるで赤穂浪士の討ち入りだ。


 そして道行く人々を後ずさらせながら、彼らはものの五分後には目的地の大きな三階建てと思われる少し古めかしい感じの舘に着いていた。


 老人達の歩く速度が遅いため、今は米俵のように肩に担がれていた。

 知らない人が見たら、かよわい彼らが拉致されているようにしか見えない。

 主にドワーフが醸し出す凶悪な『戦いのオーラ』のせいである。


 その悲惨な態勢から、ようやく地面に降ろされた二人の老人は呻いた。

 目を白黒させながらも、なんとかここまでの情景を反芻出来ているようだった。

 だが、とてもじゃないがモーゼ気分ではなかった事だろう。


 そして、ここはマフィアのホームベースなのだ。

 日本のヤクザあたりとは武装力が桁違いだ。


「ここだ。

 くそ、マリア、ハンナ」


「よし、それでは派手に行くとしようかの」


 そして彼ハンニバル大王は軽く呪文を口にした。

 そう、彼らドワーフが信奉する鍛冶神『フレア』の名を。


 その重厚で丈夫そうな金属製の扉が、周りの頑丈そうな石壁と共に爆散して夜の静寂を破り、一瞬夜の街に凄まじい閃光を放った。


 もちろん出力は極力絞られている。

 突入口を開くのと、戦いのゴングを鳴らすために放っただけなのだ。

 うっかりと中に撃ち込んでしまって人質に何かあっても困るのだし。


 元々あの程度の柔な扉などは、戦斧を振るったドワーフの前では障害物になどなりえないのだから。

 素手でぶち壊しても十分だろう。


「うわあ、なんて騒ぎだ。

 こいつは、すぐに警察が来ちまいそうだな」


「警察? 確かそやつらは半ば敵方に回った連中なのだったな。

 敵ならば討てばよかろう」


「あのね、相手は警察なんだぞ。

 そうはいかんだろうに。

 あ、いやもしかして、あんたがたの国では」


 その問いに対して力強い笑顔で返事に代える親方。

 そもそも、あの国ではマフィアどものような変節漢などが国民ではいられないのだし。


 やがて侵入者を排除せんと、館の奥から武装したマフィアの子分どもがわんさと出てきたが、そこに佇んだ異様な一団を見て微妙に顔を曇らせる。

 それは、まるで大金のかかったファンタジー映画の撮影風景のようだったからだ。

 マフィアの本拠地へ殴り込んでくるにしては異様な出で立ちであった。


「むう、お前らは一体何者だ」


 困惑に満ちた問いに対する応えはこうだった。


 間髪容れずにその場から助走もつけず、すっと腰を屈めただけで高く飛び上がり、遥か上空からそのリーダーらしき男を目掛けて飛び掛かった。

 四肢を広げた状態で、いかにも襲いかかるぞという具合に手足を曲げたポーズで跳びかかる様は蛙の如し。


 だが凶悪な御面相で、その節くれだった指を鉤爪状に曲げて襲い来る巨漢に、さすがのマフィアの構成員も恐怖した。

 もちろん、先頭を切ったのは親方自身だ。

 こんな楽しい事を他人に、いや息子にだって譲って堪るかという了見なのである。


 あっという間に先頭にいた二人を肉弾攻撃で大地に叩き伏せた。

 只の力任せのフライングボディアタックである。

 それを親方の図体と重量で食らう方は堪ったものではないのだが。


「くそ、撃て、撃て」


 響き渡る、銃口から解き放たれる軽めの銃声からして、おそらく使っているのはサブマシンガンか。

 そんなチャチな弾丸の至近直撃など、親方は素の肉体で弾き返していた。

 目に当たった物さえも、吹き上がるオーラに跳ね返されていた。


 その雄姿は、まるで特撮アメコミヒーローの如し。

 あれは少々ヤバイ容姿でも正義の味方として許される傾向にあるので、この親方もなんとかセーフだろう。


 久々に耳にするその音響の羅列に思わず怯み、銃を体の前に持ち上げ体を丸めて顔を庇うルイス。

 その銃口は敵に向いておらず、銃は盾の代用品としての役割に過ぎなかった。

 無我夢中で怒涛の展開の中を強気でやってきたものの、もう戦争の勇士であった頃の自分ではない。

 それは何十年も昔の若者の頃の話であったのだし、今はあまりにも年を取り過ぎた。


 だがその前に立って大盾を構える、ルイス達を守るように並んだドワーフ達。

 その盾もチャチな拳銃用の弾などはあっさりと弾き返す堅牢さだ。

 こいつは戦車砲でも破壊する事は無理だろう。


 何しろあの園長先生からたっぷりとせしめた、魔法金属オリハルコンで作られた無敵の盾なのだから。

 何しろ地球ではグラム4億円という初期価格設定の魔法金属製なのだ。

 この盾が一体幾らする物か見当もつかない。

 今では金相場が異様に高騰しているため、それに価格連動しているオリハルコン相場もグラム10億円を超えているのではないだろうか。


 それをインテリアとして無造作に壁へ飾る事が可能なのは、いかに富裕なアメリカとはいえ、あのジョゼとベルーナのおうちくらいのものであろうか。

 

 そして、その超貴重で超々高価なオリハルコン製の盾を次々と奴ら目掛けて投げつけるドワーフ達。

 相変わらず、やる事が無茶苦茶だった。


 その超頑丈な重量物をドワーフパワーで投げつけられた直撃に薙ぎ払われて、無情に倒れていくマフィアの子分ども。

 あっという間に全員が行動不能に追い込まれた。

 体中の骨がボキボキにへし折れている事だろう。


 超高価であるにも関わらず粗雑過ぎる扱いを受けた、その程度の狼藉では細かい傷一つ付いていない無敵の盾を拾い上げると、ドワーフ達も鬨の声を上げた。


 ドワーフ全員が先を争って館になだれ込み、上階にある奥の部屋へ向かって怒涛の進軍速度で階段を駆け上って進みながら、魔物を追い立てる時に放つかの如くに雄叫びを上げていく。


 巨漢の群れが両の壁にぶち当たりながら先を争って登っていくので、割れたり皹が出来たり穴が空いたりの悲惨な有様であった壁が無様に悲鳴を上げている。

 階段が崩れ落ちないのが奇跡のような有様であった。

 もし崩れて全員が落ちたとしても、その崩れた上り口へとまた全員が飛び上がるだけの話なのだが。


 彼らと戦闘していたマフィアの子分連中は、その盾の重量とそれに込められた圧倒的な人外のパワーの前にあっさりと無力化(病院送りに)されていき、武器を押収されて強靭な魔物革製の革紐で縛り上げられて山積みにされていく。


 元々、彼らドワーフの肉体は極限まで鍛え上げられており、少々の槍なども通さない。

 ドワーフは精霊の成れの果ての精霊族であり、人間ではないのだ。


 彼らが着込んでいるチョッキなども、別に防弾チョッキでもないくせに、魔物大陸の高ランクの魔物製なので対物ライフル弾程度では中身もろともビクともしない。


 そもそも彼らの体を常時覆っている魔法のオーラは、少々のダメージなど受け付けないし、戦闘の際にはそれが更に無限大に強化される。

 その上でバリヤーやシールドのような防御魔法などもあるのだ。

 防御力過多の、ほぼ無敵の軍勢だった。


 深海素潜りでの漁を可能にするほど不可解で無茶苦茶な精霊族の生体機能の前では、化学兵器さえも無効であろう。

 そんな物などマフィアは持ち合わせていないだろうが。

 しかも本日は精霊族ではなく、完全に精霊賊と化している。


 この屋敷に残された者達で戦闘可能な者は、もはやボスとその護衛だけであった。

 ボス部屋の中の気配を感じとったが、扉を蹴破るとか体当たりをするなどはせずに、一人のドワーフが国王突入のために必殺のモーニングスターで扉を一撃の下に粉々に破壊した。


 それは、まるで戦いの開始を告げる銅鑼を叩くかのような所作であった。

 それを見て嬉しそうに迫力ある笑いを張り付けながら、『ボス部屋(転移式ダンジョンにあるものではない奴)』へと攻め入る親方。

 最早その手には何一つ武器さえ持っていない。

 これから大魔獣を狩るわけではないのだ。


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