154-10 大空中庭園召喚
「おはようございます」
「おはよう」
エリーンに呼ばれた俺達がホテルのダイニングに向かったところ、彼女は既に席を取っていた。
「遅いですよー。
ビュッフェは美味しそうですね」
外国資本のホテルだから、バイキングではなくてビュッフェと呼ばれるらしい。
このホテルは確かアメリカ系列だった気がするのだが、特にバフェイとは呼ばれていないな。
これで朝食一人前で軽く三千円を超えるのだ。
その分は豪華なのだが、まあ所詮は朝飯なのだ。
だが、このメンバーで朝飯を疎かにする習慣がある奴など一人もいないので、全員ごっそりと皿に料理を盛り付ける。
リヒターはいかにも貴族らしく優雅に、エリーンは優雅さも多少はない事もないが、大量に。
俺はもう本当に適当、まあいつもの事だ。
ラスベガスのバフェイ(ビュッフェ)なんて何度行ったかしれないが、綺麗に盛り付けた事などは一度たりとてない。
隣の席の日本人一家が、優雅かつ綺麗に盛り付けていたので仰天した事がある。
まるで有名イタリアン・シェフみたいに綺麗な盛り付けだった。
ああいうものはセンスなんで、真似るのはとうに諦めているのだ。
蟹とかをよく取るので、どうせ皿が殻だらけになってしまうし。
生憎と残念な事に今日は蟹が無かった。
種類が馬鹿みたいにあって量もアメリカンなラスベガスのバフェイだって、朝食料金で蟹は出ないがな。
何があるのかわからない異世界、この前の魔界の鎧が攻めてきた騒動の時もリヒターは「いざ鎌倉」とばかりに腹ごしらえをしっかりしていて、仕事に支障をきたす事はなかった。
その一方で、朝遅くまで寝こけていたドランの奴は殆ど朝飯を食っていなかったので、ドタバタする中で昼飯も抜きになってしまい心身共に大変だったらしい。
そういや、あいつも何かこうショボショボしていた感じだったな。
あれ以来「皇帝たるものは朝食を疎かにせざるべし」が皇帝家の掟に加えられたようだった。
今日は大立ち回りとなる予定なので、しっかりと腹一杯に食いまくって、それから部屋に戻り一服つけてから、おっとりとチェックアウトする。
それから同じ名駅エリアのツインタワービルの天辺を目指した。
もう面倒なので転移魔法で行く。
どうも馬鹿でかいビルの中の移動は面倒だ。
そして、そこはヘリポートになっていた。
ツインタワーの兄弟ビルの天辺が仲良くヘリポートになっているので、そこに出たのだ。
日本の、この手のヘリポートは法律で設置する事が定められているので作っただけで、実際にヘリポートとして使用するための申請手続きはされていない。
事故があった時の事を考えて、管理者がビビっているのだ。
もったいないなあ。
ヘリって人間だけじゃなくってビジネスも乗せてきてくれるのに。
日本人はマイナス面ばかり重視する悪い癖があるので、世界からどんどん遅れていく。
その辺りの話は俺も人の事が言えないのだが。
そういう部分は人一倍ある人間なのでな。
ここにあらかじめゴーレムに転移ポイントを作らせたというか、俺に似てか高いところが好きなゴーレム達が勝手に御邪魔していたので、自動的に転移ポイントは魔法PCへ献上されており直接転移する事が可能だった。
ここは大変目立つビルなので、周辺の外からなら目視転移も可能なのだが、距離は近くてもビルの中からだと逆に見えないから座標がきちんと定まらないという不思議。
「さあて、じゃあ呼んでみますか。
来い! 空中庭園Ⅱ」
異世界から異世界転移の魔法により突如として出現した不思議デザインをした謎の飛行物体。
チビたサイズのUFOなんかと違って、この巨大な構造物は嫌でも目に入るサイズだ。
しかも形がはっきりと見える代物なのでインパクトはあるだろう。
思ったよりも人が騒いでいるのが、この名古屋では一番高いくらいの高さであるタワーの天辺からは、一望に見渡す事ができた。
「あっちゃあ。
あそこの奴、余所見運転をして事故っているじゃあないか。
ああ、そこも」
まあ、突然こんな物が空を占領したら、運転中でも思わずガン見しちまうかね。
「これが現れる事への布告は出していなかったのですか?」
宰相のリヒターが不思議そうに訊いてくる。
これが帝国だの王国だのであるならば、この手の事は布告をして各所に連絡しておけば、そう問題にはならないものなのだ。
「いやあ、日本政府や愛知県からマスコミを通じて連絡をしてもらって、ニュースなんかも流してもらっておいたんだがなあ。
『空中庭園、来たる』ってよ。
多分、あれだな。
みんな空中庭園なるものが一体何なのかよく理解できていなかったとみえる。
祭事用の大型広場みたいな空間で、何かのイベントでもやるかと思っていたのかもな。
あるいは、その言葉通りに、どこかの大型ビルの屋上で行われるイベントだとか思われたものか。
デモ映像を流しておけばよかったか」
こいつはしまった。
どうも俺は異世界の風習に慣れ過ぎて、こういう物が現代社会では常識として通用しないのだという事を失念していたようだ。
かなりドアップにして低い場所に出現させているので物凄い迫力だ。
このタワーの天辺から見れば、それも頷ける。
もう巨大UFO襲来以外の何物でもない。
ここは二つの空港が近いため、この巨大な空中建造物であまり高度を取ると、離陸中の航空機の空路に接触してしまうので、このくらいの高さに高度を設定してみたのだが、さすがに迫力があり過ぎるよな。
一応、これの周りの気流なんかは魔法で制御して周りに影響を与えないようにはしてあるのだが。
さっそくマスコミのヘリが複数飛んできている。
小牧の県営名古屋飛行場からやって来るから、名駅なんかは目と鼻の先だよな。
連中が空中庭園の周りを飛んでいると、まるで蠅が集っているようにしか見えないのだが。
この前の魔界の鎧騒動を思い出すな。
気流を制御してやってあるからいいものの、普通ならヘリなんぞ堕ちているのじゃないか。
あいつらには連絡がいっているから、時間に合わせてヘリも待ち構えていたのだろう。
お前ら、何が来るのかわかっているのなら、ちゃんと世間に説明しておいてくれよな。
まあ取材拒否というか、うちから特に呼んじゃいないわけなのだが。
仕方がないので俺はマイクを取った。
この音声は空中庭園から流れるようになっている。
魔法で周りに均一の音量で音声が流れるようになっているので、すぐ近くの場所が凄まじいボリュームになる事はない。
「えー、名古屋の皆さん、こんにちは。
これは怪しい物ではありません。
もちろんUFOではありません。
宇宙からではなく異世界からやってきた物で、日本人が建造した建築物です。
少々突飛なデザインですが、アトランティスをテーマに作られた空飛ぶ宮殿、空中庭園Ⅱエレーミア離宮と言います。
異世界の公爵家に嫁いだ王国の姫君の名を受けた物で、ちゃんと地球の英国名門大学の教授が設計してくれた由緒あるものなのです。
昨日マスコミを通じて連絡をしておいたと思うのですが。
あのう、車を運転する時は、ちゃんと前を見てくださいね」
こんな雑な説明でわかってくれたかねえ。
俺は相変わらず説明が下手だ。
事故った車には再生のスキルを放ち、あと運転手にはエリア回復魔法を飛ばしておいた。
車の街・愛知県は本当に車の運転マナーが悪い。
全国有数というか、多分ナンバーワンでダントツに悪い。
伊達に例年交通事故死ワーストワンを誇っているわけではない。
名古屋の道路は広いが、車線変更のためのウインカーは殆ど出さない奴も多い。
チカっと光らせて終わりくらいの人も多いし、何故かウインカーを出さないのを笑顔で自慢する若い奴らも多いのだ。
そういう阿吽の空気を読めない奴は真面に走れない道路だ。
他府県から来た奴は、百メーター道路とかが結構怖いらしい。
あそこは全体的にかなり飛ばしている上に、サーキット代わりに若い奴らがバンバンとスピードを出しまくって、やたらめったらと車線変更をして間を縫うように運転しているからな。
殆ど高速道路並みの流れだったりするし、マナー的には確実にそれを大幅に下回る。
名古屋高速も全国随一といっていいレベルでマナーが悪い。
六十キロ制限のところを、速度超過気味の一般高速並みのスピードで走っており、事故も大変多い。
フェラーリがトラックに後ろから突っ込んで、何故かトラックの運転手の方が死亡したという悲惨な事例まであった。
三河の方はトヨタショック以来かなり大人しくなったような気もするが、それでもマナー全般は県内でも三河地区が最悪だ。
相変わらず酔っ払い運転は無茶苦茶に多いし。
もっと正確に言うと、西三河の中の豊田岡崎方面がそうなのだ。
三河ナンバーの悪評を全国に鳴り響かせているのは、あそこいらの人間だ。
当然、愛知県の交通事故死全国ナンバーワンは、この地区が牽引している。
皮肉な事に、あの辺りの極悪都市だけは豊田岡崎の独立した市区ナンバーになってしまい、他の遙かにマシな市区だけが悪名高い三河ナンバーとして残されてしまったという不条理。
豊田岡崎方面でも古い車だと、まだ三河ナンバーが混在しているけれど。
やっぱり豊田岡崎みたいに大きな自動車工場のある街は駄目だな。
伊達に日本のデテロイトなどと呼ばれていない。
治安の悪さでもデトロイトに近いのではないか。
同じ三河でも刈谷とか、あっちの方面へ行くと凄くマナーがいいんだけど。
普通にマナーの良い街として安心して走れる。
三河地区は豊田岡崎から距離が離れるほどマナーがいい。
やたら飛ばしていてマナーも頗る付きで悪い代わりに、名古屋市内の中心部って何故か横断歩道などは歩行者のために比較的よく車が止まってくれるのだが。
尾張ナンバーの地域などは横断歩道に人がいても、そのまま突っ込んでくるから性質が悪い。
うちのお袋が自転車で横断歩道を渡っていたら「御願い、どいて~」と叫びながら女の人の運転する車が減速もせずに突っ込んできたと、「そんな事を言われてもねえ」なんて困惑しながら話してくれた事もある。
俺も三河地区で似たような経験をした時にナンバーを見ると、まず例外なく尾張小牧ナンバーだったな。
うちの近辺で歩行者・自転車がいても無理やり遮って強引に車道へ出ようとする危ない人でなしは、皆尾張小牧ナンバーだ。
いつも応援ありがとうございます。本日で連載4年目になります。
危なかった時も幾度かありましたが、なんとか一日も欠かさずに毎日更新でやってこれました。
これも皆様の応援のお蔭であります。
始まった頃は何気に書いていただけで、書籍化など夢にも思いませんでしたが、それも無事に完結いたしました。
コミカライズの方はまだ続くと思います。
WEBの方も次章155章にて終了となりますが、丸3年以上の足かけ4年、1200話超えという目標の着地点はなんとか達成できるようです。
よろしければ、もう少しだけお付き合いくださいませ。




