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154-5 パーティの主役

「いや、いきなりここにいるはずのない飛竜が襲ってきたんでびっくりしましたよ。

 あれ、今日は何かの集まりがあったんですか」


 織原の奴もパーティの面子を見渡して首を捻った。

 参加者が見た事の無いような人ばかりで、地球の外国人風の人間と、普通の人間とは少し雰囲気が違う感じのする自衛隊の奴らばかりだからな。


「ああ、今度地球へこれを持っていくので、行き先の空域を担当する航空管制官に話をと思ってな。

 こういうものは実際に見て乗ってもらうのが一番さ。

 今日は、ただのおっさん同士の飲み会なのだ」


「なんだ、そうだったんですか。

 ここにしちゃあ珍しいですよね、そういうのは。

 今日は姉貴が異世界を見たいって言うから連れてきたんですよ。

 ここなら絶対に危ない事はないと思ったんだけど、やっぱり異世界は油断大敵だなあ」


「ははは、それは確かにな。

 この前も降って湧いたように、突然に災難が降りかかってきたからな。

 やあ、御姉さん。

 異世界へ、この空中庭園Ⅱエレーミア離宮へようこそ」


「あ、井上さん。

 御久しぶりです。

 どうも、織原紗香です。

 いつも弟が御世話になっていまして。


 凄いですね、これ。

 まるで空中に浮かぶ巨大な都市です。

 でも何かパーティの真っ最中だったのですね。

 私、普段着で来ちゃいました」


 彼女は少し困ったように、安物ではないが普通のワンピースの胸元を、たおやかな手付きで押さえた。

 そして突然の美女の訪問を見逃さずに、目聡く酔っ払いのおっさん達が集まってきた。


「おや、グランバースト公爵、そちらの美しい御嬢さんはどなたです」


「やあ、日本美人はやはりよいですな」

「ビューティフォーガール」


 いきなりおっさんに囲まれてしまった織原姉の紗香嬢。

 だが、おっとりしている割には物怖じしないというか落ち着いている。

 相手も紳士ばかりだしね。


 酔ってはいても、へべれけになっていたり、だらしのない格好をしていたりするような人は誰もいない。

 割とピシっとした職業の人達だからな。


「あらあら、そんな。いえいえ」


 さすがは、地方とはいえ名家の御嬢さんだ。

 英語もなかなかのものだった。

 あっという間に人気者だ。


 奥ゆかしい感じの、長くて綺麗な黒髪をした日本美人だから、特に英国男性には人気だろうな。

 連中はこういうタイプには弱いんじゃないか。


 そして背後に何か気配を感じたので振り向くと、何故かカミラが来ていた。


「あれ、カミラ。

 どうしたんだい」


「オリハラによばれたの。

 おねえさんのドレスをおねがいって」


「ああ、そう」


 そしてレストランに備えられた拡張空間の控室へ、子供達に囲まれて引っ張っていかれる彼女。

 そして綺麗な上におっとりとした雰囲気の彼女は子供達にも人気のようだ。

 幼稚園の先生になれば人気が出るタイプなんじゃないかな。


「あらあら。

 まあ、みんな御耳が可愛いわねえ。

 カミラちゃんは狼耳なのね~」


「そうだよ。

 おおかみは、さいこう~」


「さやかー」

「サヤカー」


 御姉さん、あっというまに異世界に馴染んだな。

 のほほんとした性格をしているから、魔物なんかにも懐かれそうだ。

 魔物テイマーとかに向いていそうな性格だな。

 少なくとも自力での戦闘は無理そうだ。


 織原もおっさん達から話しかけられている。


「オリハラ、美人の御姉さんじゃないか」

「君は英語が上手いね」


「さっき使っていたのが魔法という奴かね」

「君は魔物を無闇に退治したりしないんだね」


 織原は、概ね彼らから好感を持って迎えられているようだ。

 商売人の息子だけあって、元は人あしらいも苦手じゃない。


 異世界では散々な目に遭っていたので、ちょっとアレだったのだが、日本に帰ってすぐに彼女を作ったり自分で商売を始めたりと、なかなかアクティブな性格なのだ。


 ああいう酷い経験をして引き籠ってしまう奴もいるからな。

 この前は似たような酷い目に遭わされて『鎧に』引き籠っていた奴の相手をしていて超大変だった。


 ブランの奴は、まだ闇の国で哭いているのだろうか。

 この世界アスベータは決して彼の事を忘れてはいけない。

 俺だけは絶対に忘れたりはしない。


 あまりに強烈過ぎた体験だったので、忘れるなど、どだい無理な相談なのだが。

 この俺自身が、あれを産み出してしまったこの世界を呪ってしまいたくなるほどに陰惨な記憶を見せられてしまったのだからな。


「ああ、あれはそう強い魔物でもないですし、陸地の人間を襲ってきたりはしないタイプですから追い払えるならそれに越したことはないですよ。

 俺、生き物を殺すのはあんまり好きじゃないですし。

 第一、俺はとても強いですから弱い魔物を殺す必要はないです」


「ははは、日本人は優しいな」


「まあ戦う力があるなら、それに越した事はない。

 それに、無闇に生き物を殺すのは愚かな行為だ。

 それは永い永い地球の歴史が証明している。

 あれも地球ならば希少生物として保護されるのかもしれん生物なのだしねえ」


「まあ、あいつらも海を渡っている最中のドワーフなんかを襲ったりすれば、あっという間にツマミにされちゃいますがね」


「ほお。

 いるのかね、ドワーフが」


 楽しそうに訊いてくる彼ら。

 おそらく、その脳裡にあるのは、ファンタジー映画にでも登場するような髭もじゃで背の低い斧でも持った姿か、あるいは白雪姫にでも出てくる七人の小人か何かだと思うのだが。


「あはは、地球で言うところのドワーフとは違いますよ。

『小さき者』などと言いながら、体は物凄く大きいですしね。

 まさしく最強の戦士達です。

 自ら鍛えまくった最高の武具を纏い、最強の魔法を放つ。

 彼らに狩れない魔物なんて、この世界にはいないんじゃないですか」


 ちょっとその姿を想像できなかったらしくて、うーんと唸る彼ら。


 奴らを呼んで実物を見せてやれば納得の二文字なのだが、あの連中を酒の席に呼んだりしたら、せっかくの楽しい御酒の席が悲惨な結末を迎えてしまうといけないので、それだけは無しの方向で。

 本日は楽しい、只の懇親会なのだ。


 そして紗香嬢の御色直しが終わった。


「おお、ビューティフォー」

「似合っていますよ、サヤカ」


 彼女は純白のドレスを着ており、少し肩を出した感じで、胸の谷間まで少し披露している。

 彼女が凄く可愛いので、カミラ達がちょっと冒険してみたようだ。


 少し恥ずかしそうにしているのが、またいい。

 だがスタイルは悪くないのでよく似合う。

 この前の中年花嫁とは比べ物にならないので、カミラ達も非常に満足そうだ。


 あの時は六十名に(なんな)んとする裁縫チームの子供達全員が眉間に皺を寄せて苦悩していたからな。

 なかなか珍しい物を見たと思ったものだ。


 あっという間に紗香嬢は人気者となり、紅一点のパーティの花となった。

 酒処である、米の名産地北陸の人間だけあって、御酒も結構いけるようだ。


 Gパンの織原は子供達の御相手だ。

 その子供達も、もっぱら可愛いミミがおっさん達にも人気だった。

 さしもの魔法番長も、魔法のショータイムが終わればただの脇役だったな。

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