154-3 先陣のインビテーション
いきなり巨大な空中庭園が出現して空の管制に混乱がないように、航空管制などの関係者は先に空中庭園へ招待しておいた。
今回は日米並びに英国の空にだけ行く事になっている。
ニューヨーク・ロンドン・名古屋の上空だ。
本来ならば、日本は首都東京へ行くべきなんだろうが、個人的には東京なんていう街は気取っていて好かんので、なるべく行きたくない。
今は東京なんて行かなくても、地方の主要都市やインターネットで、すべてが何もかも事足りる。
地方住みである独り者のおっさんが、仕事で行くのでもなければ東京などへ行く必要なんかまったくないのだ。
俺は他の都道府県へ遊びに行くのなら大阪と心に決めている。
大阪は楽しい街なので、名古屋人が遊びに行くのなら、あちらの街の方が気質に合っている。
東京なんていう街は、わざわざ遊びに行った事など生まれてこの方、只の一度もない。
人生で東京なんてところに行った事があるのは、海外旅行のための飛行機の乗り継ぎとかの、基本的に止むを得ない用事がある場合だけだ。
最近は子供を連れていったり、総理に用があったりしてちょくちょく出かけているのだが。
転移魔法が使えないのなら、それでも行かない自信がある。
東京タワーなどは五十三歳にして初めて上ったもんだ。
別に俺は日本へ外交をしに行くわけではないので東京などには用がない。
ニューヨーク・ロンドンへ行くのは取引先の各ハンボルト家がそこにあるからで、名古屋(正確には三河地方)は俺の家があるからだ。
関東方面に行かないのは『横田空域』の問題もある。
それに静岡以北の空は、おかしな米軍管制の特別管理区域なので『調整するのが面倒臭い』という、単なる俺の我儘なのだ。
長野の山奥なんかは米軍機が訓練で低空を飛び回っていなかったか?
そのあたりの話については、ハンボルトに一言だけ言っておけば鶴の一声で片付くのだが、その一言を頼むのさえ面倒という、これまた俺の我儘だ。
だって別に東京の空に御邪魔しなくたって、日本では自分のホームグラウンドである名古屋方面に出ればいいのだ。
この地方の人間の例に漏れず、うちの親戚も地元に集中しているので、今度空中庭園で懐かしい従兄弟会でもやるか。
「この間、空に浮かんでたアレ。あそこで従兄弟会をやらん?」などと誘ってやってもいいしなあ。
もうずっと世捨て人をしていたから親戚にも長い事会っていない。
すっかり御呼びもかからなくなった。
これだから日頃の付き合いがない奴は困る。
もはや葬式の連絡さえも無い。
皆、元気にやっているだろうか。
仲良くしていた年寄り連中はもう旅立ってしまったかもしれない。
親戚も世代交代しただろうから、もう俺が先方から集まりに呼ばれる事も二度とあるまい。
日頃は中々会わない関係だしな。
親に連れられて遊びに行っていた子供の頃とは違うのだ。
あと、やたらと怪しげな国・信用ならない国へは行かない事にしている。
怪しくなくても面倒そうな国には行かない。
英語以外の言語のところも気乗りがしない。
ミミズが這ったような横文字は一生かかっても読めそうにないし。
異世界でも読み書きは苦労しているくらいなのだから。
今のところ地球で俺が行くのは日米欧くらいだろうか。
アジア全般・オーストラリアを除くオセアニア・ロシア・中東・アフリカその他どこも行く気はない。
米国も妙なところは行きたくないので、行くのならニューヨークくらいか。
あそこも治安は最悪なので普通なら絶対に行きたくないが、今の俺ならばニューヨークくらい指一本魔法一発で、一瞬にして制圧できるので特に治安は気にしない。
あんなところを制圧したって、俺にとって何の意味もないのでやらないが。
ああ、大好きだったラスベガスを忘れていたが、あれももう今更だから行く気はない。
あれも今となっては、ただただ懐かしいだけの思い出の場所だ。
欧州もあまり変な国へは行きたくない。
どうしても英国以外で欧州に行くとしたら北欧・フランス・ベルギーあたりか。
おフランス様も、治安が悪いわ汚いわでイマイチなのだが。
ドイツは普通の国、いやむしろ先進的な国家だと思うのだが、個人的には物凄く気に入らないので絶対に行かない。
俺が欧米で絶対に訪問したくない国を一つだけ挙げるといったら、あのドイツだ。
別にナチスがどうとか、移民が多くて治安が良くないとかそういう話ではなくて、あのカッチリしていて大変融通の利かないドイツ人気質が、玉虫色で曖昧な性格の日本人と決定的に合わないだけだ。
他にも理由はあるのだが、俺にはあの連中と付き合うのは無理だろう。
特に仕事関係では合わないのが致命傷だ。
彼らは世界で日本人と一番仕事面で相性が悪いと言われているし、実際にそういう話はよく聞く。
同じ勤勉な民族だからといって、あいつらと同じ扱いにされるのは日本人にとって死ぬほど迷惑なのだ。
きっと向こうもそう思っているだろう事には自信がある。
直接、彼らと一緒に仕事した事はないので俺自身が経験上で知っている訳ではないが、一度仕事関係でドイツの会社に辟易した事がある。
あの時は「ふざけるな、この腐れドイツめ!」とか思ったものだ。
イタリアも、あの底抜けな気質がちょっとなあ。
日本人には絶対についていけない。
特に俺のような田舎の年寄りには。
他に南欧で行くのなら、スぺインあたりだろうか。
あの辺りなら、まだこのおっさんでもついていけそうだ。
この超偏屈な年寄りであるグランバースト公爵がついていけない国には異世界のビジネスは届かない。
俺はもう厳密には地球人ではないのだ。
関係ない国がとやかく言ってきたところで、俺にはまったく関係がない。
日本国にも何も関係ない。
我が国日本は、地球における俺のホームグラウンドであるというだけだ。
こういう事が日本で出来るのも、今の真面な総理がいる間だけだ。
おかしな野党に政権が変わったり、今の与党でもおかしな政治家に総理が変わったりしたら、残念だがその時点で日本とグランバースト公爵家の関係は終了になるかもしれない。
その場合は資源などの供給も止まるだろう。
そいつらは俺との約束をきちんと守ってくれないだろうからな。
あんな馬鹿どもは政治家でもなんでもない。
その時は英国ハンボルトと米国ハンボルトとだけ付き合おう。
それでも、うちとしては十分に見合う取引量になる。
という訳で、本日の御客様は国土交通省の管制官並びに航空自衛隊管制、ニューヨーク近辺の空港管制並びに米国のアメリカ連邦航空局、あとは英国ロンドン周りの航空管制の関係のみだ。
軍関係の管制関係者には御遠慮いただいた。
航空自衛隊だけは来ているのは、彼らが別に軍人ではない只の日本の公務員だという事と、愛知県の真上の空域である県営名古屋飛行場の管制が彼らの管轄だからだ。
ちょうど、あそこの管轄の空に出る予定なのだ。
各国の政治家が一緒に来たがったらしいが、ハンボルトの当主が楽しそうな声で、きっぱりとシャットアウトしてくれたらしい。
彼は、俺がそういう事を激しく嫌うのを知ってくれているのだ。
まあ無用なトラブルを自ら背負い込みたいというのなら、特に俺も止めはせんがな。
彼らが来てくれたなら、ダンジョンのどこの階層に置いてこようか。
アドロスにドラゴンがいなくなったのが残念だ。
ゴン太達を臨時で古巣に行かせてもいいのだがな。
他にもドラゴンのいるダンジョンはある。
御用命があれば、いつでも紹介するぜ。
豆鉄砲の自動小銃でも片手で振り回しながらの演技で、アメリカ人の大好きなB級映画の主人公を演じさせてやろう。
もっとも今のアメリカの大統領は俺の事があまり好きではないようだ。
彼はハンボルトの御当主から笑顔で『敢えて誘われた』のだが、仕事の繁忙さを理由に最初から来たくない意思をきっぱりと表明している。
あの人は、うちの事情でちょっと困らせてしまった事もあったようだし。
別に俺のせいではないのだがね。
あれは強引な真似をしたジョゼが悪いのだから。




