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16-1 疾風の王子様

 そういえば、アルバトロス王家で一人気になる人物がいる。

 それは第二王子様だ。

 彼の事は今まで一度も見た事がない。


 人からは「疾風のミハエル」とか呼ばれているらしい。

 なんだ、そりゃあ。


 第一王女様は見た事がある。

 隣国ハイドのフィアンセ、シド王太子殿下と御一緒だった。

 向こうから丁寧に挨拶してくれたし。


 凄い美男美女のカップルなんだが、厭ったいところが全くなく、殊にあのエミリオ殿下がシド殿下を慕っているという。

 なんでも、最終的に二人をくっつけたのはエミリオ殿下らしい。

 この二人を見ていると、あの砂漠を旅する王子様と王女様の歌を思い出すな。


 いかにも王族カップルという感じだ。

 超美男子の金髪少年王子と超美少女の銀髪王女。

 この超美形な組み合わせだというのに、嫌味な感じが欠片も無くて。

 このカップルを相手にリア充爆発しろとか言える奴がいたら、たいした度胸だ。


 大国、しかも隣国の利害関係が多々絡むだろう王族同士が、自由恋愛の熱愛の末に婚約なんて凄いなと思ったが、確かにこの世界でも珍しいケースらしい。

 まあ、この二人なら親同士で話がまとまってもおかしくはなかったのだが。


 メリーヌ殿下には、あのキルミスとか、エリ(正確には王女様方)に絡んでいたエドワードとかいう侯爵の子息(ばかむすこ)とか、もう禄なのが寄ってこなかったらしい。

 剰え、帝国のあの第二皇子(あかんたれ)の連れ合いにという話まで出ていたそうで。


 エミリオ殿下はそれを聞いて快く思っていなかったらしい。

 それで幼いながらも、大好きだった姉様と御気に入りであったシド王子の二人をくっつけたという事のようだ。


 メリーヌ殿下も年の離れた弟を溺愛していたらしい。

 わかるわかる、エミリオ殿下は可愛いもんな。


 エミリオ殿下は姉様の事も大好きだったけど、その姉様自体が、元々シド王太子殿下にもう夢中だった。

 まあ、そういう年頃だよね。

 恋に恋する御年頃だ。


 メリーヌ殿下も今はもう十五歳で成人されたけど、当時はまだ十三歳だった。

 うんうん、若いもんはいい、若いもんは。


 それで件の第二王子様なのだが、そのミハエル殿下はあの王太子である御兄さんとはタイプが違うようで、とにかく一所にじっとしてないらしい。

 俺はその王子様が、他の王族といるところを見た事がない。

 とにかくフットワークが軽すぎるとの評判だ。


 でもまあ、それ以外には特に悪い噂を聞かない人物だった。

 ここの王家自体が全般的にそうなのだが。

 一部のもう無くなってしまった公爵家を含まなければ。


 ただ、彼ミハエルについて訊ねた多くの人が、何故か苦笑いを浮かべるのが気になる。

 はたして、いかなる人物であるものやら。

 今日もそんな感慨を浮かべながら、のんびりと王宮へ来ていた。


 俺は確信していた。

 帝国は冬が来る前に必ずこの王国を攻めると。

 今日は国王陛下から、何か情報は無いか確認するためのものだった。

 すると国王陛下のところに見かけない人物が一人いた。


 おそらくは母親譲りであろう見事な金髪で、見かけだけはかなりの男前なのであるが。

 こんな所でリラックスした感じに普通の態度でいるところを見ると、多分この人物が……。


「ハーイ。

 君があの噂の爆炎なのかい?

 いや意外と若いんだねえ!

 それでね……」


 まくし立ててくる。

 豪い事まくし立てていらっしゃる。

 すると国王陛下が手で遮って彼を叱った。


「これ、自己紹介くらいせんか、ミハエル。

 すまんの、アル。

 何分にも、こういう奴なのでな」


「いや、御構いなく」

「これは失礼。私はミハエル、この国の第二王子さ。とにかくよろしくねー!」」」  」   」


 とドップラー効果を残しながら、疾風様はどたどたと走り去っていった。

 うーん、噂通り疾風な方だった。

 これは苦笑いもされますわ。


 見た目は実に高貴な感じの色男なんだよね~。

 そういう点に関しては、いかにも王子様っていう雰囲気だ。

 噂によると、この人も大変有能な人であるものらしい。


 でもなんていうのか、耳の尖っていない残念エルフっていう感じの人で。

 俺もやっぱり苦笑いしておいた。


 これはあれだな。

 王太子殿下はあんな具合で、まるでルイ十六世のように朴訥な感じだし、その次がこれじゃエミリオ殿下が人気になるのも頷ける。

 それで、あんなに悶着したんだな。

 でも上の兄は二人とも、エミリオ殿下の事を自分の子供みたいに可愛がっているらしい。


 まあ親子ほど歳が離れているし、見かけだけでなく、あの素直で天真爛漫な性格は可愛いし。

 またエミリオ殿下には彼らの地位を脅かすような政治的要素が欠片もない。

 家族全員から愛されている愛らしい末っ子だし。

 エミリオ排撃みたいな動きは周りの奴等が騒いでいただけか。


 しばらく、じっと彼を見送ってから、視線を陛下に戻して本題に入る。


「陛下、帝国の方の動きはどうです?」


 何が心配って、これから学芸会・クリスマス会があり、そして新年を祝ったら卒業式をやって、挙句の果ては作業工数の非常に多い小学校開校準備までが待っている。

 またそれに付属する仕事が大変だ。

 そんな繁忙な時に帝国なんかに来られちゃ堪らんので、先にその辺の話を訊きに来たというわけだ。


「今のところは特に無いが、帝国皇帝は危篤状態が続いており、皇太子も軟禁のままじゃ。

 いつ何があってもおかしくはない」


 この王国が帝国に放った密偵からの報告なのかな。

 俺も自主的に密偵みたいな真似をしてきた訳だが。


 国王陛下は、特に感慨もなく淡々と語った。

 もう、いつでも受けて立つ覚悟はあるんだろう。

 長年この国にとっては最大の関心事であったといってもいい案件なのだから。


「そうですか。

 またうちに、おかしなちょっかいをかけてこられては堪らんので。

 まあ、かけてくるのでしょうけれど」


 俺は王宮を辞してからケモミミ園へ戻り、早速遅滞なく作業を開始した。

 こういうところは、会社で工数一分四十四円とか教育されていた習慣が未だに抜けない。


 とりあえず、セキュリティの強化を図っておく事にした。

 新しく小学校の建物を用意したので、そちらの警報システムを設置する。

 窓をこじ開けたりドアを壊したりすると感知するシステムとか。

 隠密系の魔法を検知し、設定に従い魔法やスキルを打ち消すイレーザーの開発も行った。


 監視システムを区画化し、ブロック単位で見られるようにして。

 万が一、その一部が無効化されたらすぐにわかるようにしておいた。


 ケモミミ学園(セーフハウス・幼稚園・小学校を全部合わせてそう呼んでいる)全般に監視カメラを配置し、ゴーレム兵に監視させた。


 ゴーレムはコアを地道に改良し続けているので、この手の作業もこなすようになった。

 子供達には手首に魔法のGPSをつけておいた。

 魔導スマホと同じ仕組みだ。


 あと異常を色々と検知するギミックも仕掛けておき、何かあった時はGPS情報を元にゴーレム兵が転移で急行する。

 これは専用の兵を用意する。


 更に園の守りとして、各冒険者の下に二十名のゴーレム兵を配置した。

 こいつらを全員持ち運べるように、アイテムボックスも冒険者全員に貸与する。

 それに、こちらから必要な装備をいつでもそれに転送出来るようにしておいた。


 とりあえずは、こんなもんか。

 また思いついたら実施しよう。


 相手が相手だけに備えはどれだけあっても足りない。

 想定外は許されない。

 なんたって子供達の安全がかかっているんだからな。


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