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153-14 ファルスの力

 俺は気を引き締めて見ていたが、そいつの周りをまるで蠅のように飛び回りながら、霧雨のように頼りなくエリクサーを吹き付けるヘリの群れがいた。


 正直、相手があまりにもでかすぎて、コバエか何かが(たか)っているようにしか見えない。

 真理が転移してきて、宙に浮いたまま開口一番に謝ってきた。


「ごめん、園長先生。

 結構足止めしたつもりだったのだけれど、こいつがでかくなりすぎて手に負えないわ。

 進路はここへ一直線だし、不思議と周囲への被害も少ないのよ」


「ああ、俺に恨みがあるから、余計に怨念を燃え上がらせているんだろう。

 俺のところへまっしぐらに向かってきているようだ。

 魔界の鎧の奴には今までストレート勝ちしてきた分、今回は分が悪い。


 真理、もし俺があいつに憑りつかれたら空中庭園Ⅱを呼んで、裏宝物庫に残されていた資料から俺が作っておいた例の時間凍結の間へ放り込んでくれ。

 その間くらいは体の制御を手放さずに耐えてみせよう」


「それはわかったけれど、それじゃあ園長先生が大変じゃないの。

 へたをすると、そのまま永遠に仲良く凍結よ」


 真理は心配そうな顔で俺の顔を覗き込み、その端正な顔の眉を寄せて曇らせる。


「そいつは仕方がない。

 家族や領民は守らないといかんからな。

 それに俺はこのアドロスの領主であり、またこの国の守りである西の公爵なのだから。

 その場合は、奴とは中で対決する事にするよ。

 奴のバックグラウンドは見させてもらった。

 その上での対決なのだから、手立ても何か思い付くかもしれん。


 あの凍結空間は、俺が停止時間の中からでもコントロール出来るようにしてあるのが、武の作った奴との違いだな。

 よくこんな物が作れたもんだ。

 元々生物は中へ入れない代物なのだが、武が宝物殿に残してくれてあった時間凍結のギミックが役に立ったし、主神ロスの契約者の称号を持った人間だけは、あの空間の中でも活動できる。


 なんというか、魔法PCを作成した時の神の時間の応用だな。

 あれもインナーアイが作成した物だけに結構非常識なもんだ。

 だが、さすがに作った俺以外は、あそこには入れん。

 いや入るだけなら入れるのだが中で動けないし、入ったが最後自力で外へは永久に出られんだろう。

 それに出られたとしても、あの鎧の奴も一緒に出てきてしまうからな」


「まったく、難儀な事になったものね。

 なるべく援護はするから。

 あ、エリクサーの在庫が二割を切ったわ。

 補充を御願い」


 俺が前に渡した分の二倍にあたる量のエリクサーを、真理やゴーレム部隊のアイテムボックスに放り込んだ。

 彼女はそれを見て肩を竦めると空中で踵を返した。

 転移魔法で消えてヘリへ帰還していく彼女を見送り、俺はやってきてくれた仲間達に声をかける。


「さあ、あいつを迎え撃とう。

 いつもと違って、特別な上手い手はないんだけどな」


「まあそのあたりは毎度の事さ」


 精霊の子鎧を展開しているグスタフが笑って腕組みをして、そのように声をかけてくる。

 そして。


「ん、ファル。

 どうしたい」


 妙に神妙な表情というか神聖な貌付きで静かに、前方の大地を覆い尽くすかのような、地面から湧き上がる黒雲の如く漂う瘴気を睨んでいるファル。


「おいちゃん、今のあたしならやれるかもしれない」

「え、何をだい」


「あたし達ファルスの真の力を発揮できる気がするの。

 膨らむ物ファルスの力、精霊の森を守る力を。

 それは本来なら、このように使う物じゃないのだけれど、あの瘴気の鎧は親の代からの宿敵だからね。

 あまり動けない御母ちゃんに代わって、このあたしが成敗するよ。


 さあ、阿呆の鎧よ。

 親の二倍サイズに成長したスーパー・レインボーファルスの力を見るがいい。

 御願い、空魔達。

 来てー」


 みるみるうちに集まって空を埋め尽くした蒼空の覇者、空魔達。

 常に高空を漂うこいつらが、このような低空に集まるなど前代未聞の出来事だ。


「これは!」


「そう、これがこの子達の本当の役割。

 ファルスが真の力を発揮する必要があった時に補佐する。

 それが、彼らが自ら背負った使命なの」


 彼ら空魔は、単に飢餓のせいで精霊がその姿を変えたものではなかった。

 あのようなファルス不在の時代を引き起こさないように、ファルスが真の力を発揮する時に助けとなるようにという事もあったようだ。


 彼らは生ける魔力コンバーターと化した。

 彼らの力を受けて、ファルは祝福の歌『フィーア・ルゥアー・オースリー』を歌い出した。

 精霊の森へと部分的にゲートを繋いだので、遠くからレインの歌も聞こえてきた。


 俺はすかさず祝福アンプと化し魔力放射を強めた。

 すると精霊達が顕現してきて、これまたファルに力を貸すように周囲を飛び回る。


 俺の主神ロスの契約者の称号が空中に現れて耀き、ファルの体はレインボーファルス形態を取りながら膨らみ、みるみるうちに巨大な姿、いや巨大な光の守護陣へと変わっていった。


「これがファルスの力なのか。

 この世界の最後の砦のような精霊の森を、あの凄まじい次元の裂け目からすら守る神の子の真の力か。

 これは凄いものだ」


 もしかしたら、この聖なる力ならば、あの呪われた鎧の怨念すら清めてくれるのではないだろうか。

 真っ白で柔らかい聖光に満ちた神聖なる陣の前に、さしもの黒雲の進撃も阻まれた。


「やったか」


 だが、苦しそうなファルの声が響く。


「駄目だ、おいちゃん。

 あたしはまだ子供だから完璧にこの力を使いこなせないわ。

 パワーはあるから一旦は止めたけれど、やっぱり押される~。

 ああ、御母ちゃん、ロス御姉ちゃん。

 あたしに力をー」


「くそ、ファル!

 ええい、精霊の鎧よ、フルパワーだ」


 同じく、子鎧を輝かせる祝福の騎士グスタフ。

 ここで踏ん張らんとファルの努力が無駄になる。

 一瞬、魔界の鎧は怯み、ファルの聖光が黒き物を押し返した。


 しかし、なんとあの糞鎧は自ら一旦後方へと思いっきり下がり、再び助走をつけて戻ってくるとファルの守護陣に強烈に当たる。


 あっちゃあ。

 あいつは元が人間だけあって、また妙な知恵を持っていやがる。

 こいつは性質が悪いなあ。


「ぐあああー」


 その勢いに屈したファルの光が弾けて聖光が消し飛び、子供形態に戻ったファルが無様に転がった。

 すかさずグスタフが急行し拾い上げる。


「ふにゃあ、ごめん。

 負けちゃったー。

 あーん、悔しい~」


「アル、こいつはヤバくないか」

「ああ、マズイな」


 すかさず真理がエリクサーを滝のように降らせ、奴の足を止めてくれる。

 まるで昔の頑強な戦艦に群がる雷撃機か何かのようだが、いかんせん相手が悪い。


 昔の怪獣映画に登場する戦闘機みたいなもので、蝦トンボも同然だ。

 まあ、うちのゴーレム連中は映画の自衛隊みたいに簡単にやられてしまったりはしないのだが。


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