152-5 目玉商品
その後も、あちこちのスタンドや軽食レストランを冷やかして回り、二人はちょっとしたデート気分だったろう。
傍目からは凄くいい感じなんだがな。
糠に釘の雰囲気を纏った男の方へ向かって、喚き散らす女の方が突っ込むという、ありがちなラブコメになっている。
そういうのを高校生とかじゃなくて三十代に入ってからやっているのはどうかと思うのだが。
どちらかといえば、それは彼らの同級生達の子供向けの仕事だ。
この五十代の魔王からみたら息子世代である彼らのその姿は、まだ微笑ましいといってもいい光景ではあるものの、俺が自分でやれと言われたら、さすがにきつ過ぎる。
その後で二人をあるところへ連れていった。
一種の目玉商品といってもいい場所だ。
「これは」
「おお、これかあ。
いや、よく出来ているねえ」
それは地球のCGデザインと異世界の魔法技術で作り上げた結晶、技術の粋を凝らして完成された『天空の結婚式場』だった。
「また誰かの結婚の世話をする時に使ってもいいし、ぼったくりの商売に使ってもいいしな。
まあこういう物は見学するだけでも楽しいだろう」
それはSFチック・アトランティックな佇まいで、見様によってはロマンチックなデザインだった。
透明感があり、非常に滑らかでデリケートな曲面・球面でデザインされ、超前衛的なデザインとCGデザインのような色合い、最新の映画から抜け出てきたというのがピッタリな代物だ。
なんというか、どこかのCG・デザイン・イラスト・アニメなどを勉強する専門学校の課題で作ったかのような奇天烈な式場だ。
一応、地球の教会を真似て主神ロスの像を飾ってある。
依然として、神の鷹アルフォンスを肩に乗せた髭のおっさんの像なのだが。
神の子たるファルの証言によって、既に主神ロスが実際には女神である事は広く知られており、各地のロス大神殿でもこれについてはかなり揉めたのだが、長年これを使ってきたので簡単には変えられずにそのままという、まるで稀人文化的な玉虫色の決着で今に至る。
この結婚式場は、日本で普通にやられる結婚式ならば真っ先にこれのカタログが一般的な新郎新婦の脳内から排除されるような強烈に奇天烈な代物、というか完全なイロモノなのだが、ここへ大金かけてやってくる地球の大金持ちならまた話は別だろう。
あまり日本人向きではないが、外国人、特に西洋人には人気になるのではないか。
特にテーマが欧州由来といってもいいアトランティスだし、ハリウッドの有名スターなどは、こういう注目されやすい変わった場所で結婚式を上げたがるかもしれない。
あの人達は、しょっちゅう離婚と結婚を繰り返しているし、イベントには派手にお金をかけるから。
「また物好きだなあ、あんたは。
あれこれ聞いているけど、どうしてそう人の結婚とか御見合いの世話ばかり焼くんだい」
「そんなもの、俺が世話焼き好きな爺さんだからに決まっているじゃないか。
こう見えて、もう五十七歳なんだぞ」
それを聞いて、やれやれといった感じで首を振るフランネル。
どうでもいいけど次のターゲットはあんたに決めたからな~。
とりあえず二人には式場をよく検分させておいた。
フランネルは自分が結婚する気はないようなので興味本位で、エドワードは特に自分がデザインした代物なので出来を楽しんでいたようだ。
目で楽しみ、手触りで感触を味わい、香りも調香するかのように嗜んだ。
「おお、ラベンダーか。
うん、こっちの柱は薔薇の香りか。
手が込んでいるな。
なかなかフローラルな香りじゃないか」
一見すると同じ料理の山のように見えて、実はその一つ一つの味が全部違うという、地球ではありふれたネタなのだが、ここでは新鮮な手法に映るのかもな。
「へへ、匂いまで柱の素材に合成してあるのさ。
錬金術というか、魔法と言うか」
まあ、只のアイテムボックス合成なのだが。
何故か魔法の素材だと匂いが非常に長持ちする。
「どうして、せっかくの魔法技術がそういう方向へいくのかねえ、あんたという人は」
「やかましい。
俺は物作りで有名な日本のデトロイトで生まれ育ったんだからな。
なんとなく、そういう方向へ行くんだよ」
「もうデトロイトも完全に落ちぶれたけどね。
昔のビッグ3もデトロイト3に格下げされ、もはやそれすらも死語になっている。
まあ、かくいう英国の産業などはとっくの昔に落日を迎えているのだが」
「それを言うのであれば日本もなあ。
家電亡きあと自動車産業は旧日本工業界の最後の砦みたいな感じになっていて、それすらも長くはもたないだろう。
自動車産業も複雑な工業技術を必要としない電気自動車へとシフトしていくだろうからな。
もう最新分野の技術系じゃ日本も落ちぶれる一方だからな。
まったく金をかけなくて、技術者も使い捨て状態だから」
かといって第二世界や第三世界の国々が、今すぐに全てを先進国にとって代われるほどでもない。
そういう訳なので、ある意味では地球世界も沈滞停滞しているのだ。
さしずめ、ここ異世界アスベータは表現的には第三世界ならぬ第四世界あたりか。
うちが少しは地球経済の足しになっているだろうか。
日本に資源を供給したり、世界中の物品を輸入したりで地球経済にも多少は貢献しているはずなのだが。
こちらで輸入している物は、高価な贅沢品なんかが多いしね。
異世界からの輸出部門も、常に停滞し気味な大金持ちの預金に多少の流動性を与えているのではないか。
まあ地球にとってアスベータにとっても、御互いに無いよりはあった方がいいくらいには有意義な関係なんだろう。
あんまり日本に実入りはないけどね。
でも資源のプレゼントはそれなりに嬉しいはずさ。
日本もこれから人口は減る一方だから、鉱物資源くらいないとどうにもならない。
各種レアアースまでコピーしてやっているからな。
せめて資源で潤った分くらいは人を大切にしてもらいたいものだ。
俺のような人間がこれ以上増えないように。




