150-52 結末
このエルトミア王国も、何故かゲルスとの同盟を止めてしまったらしい。
御蔭で今までのようにゲルスの連中も公然とは軍勢を組んでやってこれなくなった。
まったくもって、ありがたいとしか言い様がない。
「同盟をやめたからと言って、すぐにセブンフラッグの連中からの覚えが目出度くなるわけではないのじゃろうが、まあゲルスと一緒に纏めて成敗されるような事もあるまいよ。
セブンフラッグも、そこまでの余力はあるまい。
あのゲルスは一筋縄ではいかぬ相手よ。
後はどれだけセブンフラッグの連中に協力して、今回の騒動を無難に凌ぐかなのじゃがなあ」
御領主様も少々歯切れが悪い。
あれ、何かあるのかな。
そんな俺の表情を読んだものか、彼は苦笑いしながら教えてくれた。
「このエルトミアの国はな、昔から少々計算高いというか、そういうところがあってな。
俗に言う、こすからいという奴じゃ。
セブンフラッグの連中から見れば、同じゲルスの一派だった国といえどもパルミア王国の方が信用があるのじゃろうな」
「でも、そういうのって辺境にあるこの地では関係ないですよね。
ここは気概のフリードリッヒ家の治める街ですから」
「まあ、それはそうなんじゃがのう。
向こうにしてみれば、やっぱり信用出来ないとか言われるのじゃろうな。
まあ、その辺りの話は王の仕事よ」
「ですよねー」
どの道、すべてが決着するまで俺にはどうしようもない。
屋敷からは出られず、家族と一緒に毎日過ごすだけだった。
それもまた悪くない生活なのであったが。
お金はまだまだ十分にあるからね。
だが、ある日唐突にゲルス共和国が滅んだ。
「え?」
その一報を、娘のところへ遊びにきたメレーナちゃんから聞いた俺は、思わずスプーンを取り落とした。
「あうー!」
口を開けて御飯を待っていた娘が、両手を振り回して癇癪を起こしている。
「ああ、ごめんごめん」
でもその様子も、ただただ可愛らしいだけだ。
体の割にちょっと大きなネコミミ。
お母さんと御揃いで可愛らしい白い鍵尻尾。
うちの娘はヤバ過ぎる。
ああ、カメラやビデオが欲しい。
アルフォンス商会で売り出してくれないかな。
そして御母さんの方は二番目の子が御腹を膨らませていた。
いやあ、ほぼ屋敷に閉じ籠りきりだとね~。
御母さんの健康のために、アルフォンス商会が販売してくれるカルシウム剤を始めとする産後に役立つあれこれは今回も必死で買い集めたのだが。
「こっちの方は平穏そのものだったのになあ」
「大きな国境警備隊さんがいてくれたからね」
ラーナも笑って、御飯に夢中になっている娘の頭を撫でている。
亀の爺さんは、あれからずっと国境の番をしてくれていて、ルーも爺さんのところへ通い詰めだ。
ルーはまだ子供なので飛べないらしくてファナが送り迎えしている。
俺も時々ミーナを連れていき彼らと一緒に遊んでいるので、ミーナも伝説の水竜や大亀と幼馴染になってしまった。
伝説のというか、彼女達も現役の立派な観光資源なのだが。
そのうちに成長したルーに跨って飛ぶ、うちの娘の姿が見られそうだ。
ちなみにルーの妹が生まれて、よくうちの娘とじゃれあっている。
ドラゴンの赤ちゃんも凄く可愛いな。
まあ母竜であるファナも草食竜だから怖い顔じゃないんだけど。
赤ちゃん竜は思ったよりも小さいので、うちの子が抱っこしたり御相撲を取ったりするには手頃なサイズだ。
赤ちゃんもルーと同じく大変に人懐っこい。
その子の名前はフェリスに決まった。
俺も次の子の名前を考えていたのだが、まだ決まっていない。
姓名判断辞典はアルフォンス商会でも販売していなかった。
何故かマンガとか、あとアニメみたいな物が見られる魔道具は売っているのになあ。
その絵細工という装置やソフトの製作者であるアオイ・ハギワラって絶対に日本人だな。
日本人としての名前を隠そうともしていない上に、かなりオタクが入っている感じだし。
俺の場合はダイゴだから、すぐには稀人とはわかりにくい名前っぽいんだけど。
醍醐じゃなくて大吾の方だと思えばピンとくるかも。
誰だ、こんなアレな作品の発売を許可した奴は。
うちは俺が選別し、健全な奴だけ買ってきてもらっているのだが。
その御蔭で俺が比較的ディープなオタク作品に詳しくなってしまったじゃないか。
「それで結局どうなったんだい?」
「うん。
昔の王国の、亡国の王子様だった人が王様になるんだってさ。
アル・グランド王国の復活よ」
「その人って、どんな人?」
「さあ、よく知らない」
「そうかあ……」
あまり変なのに王様になられてもなあ。
そして真っ先に攻めてこられるのって、ここじゃないか?
メレーナちゃんの話だと、あの魔王はパルミア側から攻めていったそうだから、今度来るのならまずこちら側からだよな。
「はっはっは、そう心配するでない、ダイゴ」
おお、そう力強く言ってくれたのは、孫と一緒に遊びに来てくれていた我が友サディウス・フォン・フリードリッヒこと、御領主様だった。
「というと?」
「セブンフラッグは、アル・グランド王国がこちら側へ攻めてくるような馬鹿な真似はさせぬよ。
というかの、アル・グランド王国はゲルスの圧政により国内が荒れ放題で、その立て直しに手一杯であろう。
あの新国王となった男は前の王家の生き残りなので、民のために粉骨砕身働く義務があるのじゃ。
むしろ、頼むからエルトミア王国は要らん真似をせずに大人しくしていてくれという想いだろう。
まあ我が国エルトミアとしても、魔法を封じられながらも強引に力技でゲルスを倒したという、あの強大なアルバトロスの魔王とわざわざ喧嘩したくはあるまい。
魔王は、あの新国王とは大親友のようだしの。
ダイゴよ。
戦はもう終わりだ」
「うちらは何もしてませんがね」
「はははは。
この屋敷の前でやったドワーフの大立ち回り。
あれが此度のすべてじゃったのう。
よかったな、ダイゴよ」
「はあ、なんかすっきりしませんけどね」
だが、こっちは子育て戦争でそれどころではないのだ。
しかし、最近のアルフォンス商会は便利過ぎるわ。
日本式のスーパーやコンビニまで作っているし、日本製の子供用の薬や各種オムツまで販売してくれている。
最近はまた物凄く品数が増えたしなあ。
でもそれは日本生まれの俺にとっては、ありがたいという以外に、どんな辞書をめくったって他に言葉はない。




