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150―51 膠着の日々

「さて、これからどうしたものかのう」


 どちらかといえば『面白そう』と言った按排で、御領主様は楽し気におっしゃった。


「どうもこうも、これはもう展開を待つしかないでしょう。

 国境は『爺さん』が押さえてくれているから、ゲルス軍もそうそう再侵攻してこれないでしょうし、エルトミア王国軍が攻めてくるわけでもないでしょう。

 彼らはフリードリッヒ家の力を恐れているし、ドワーフの大群が召喚されたのを見ちゃいましたからねえ。

 おそらくは日和見をするでしょう。

 こっちも食い物はダンジョンから結構獲れたりしますし。

 ここは一つ稀人公爵さんの『天誅』を待ちましょうよ」


 そんな俺の腰の引けた様子を見て彼は笑い飛ばす。


「お前、本当に他力本願だのう」


「なんとでも言ってください。

 俺は只のモブキャラなんですから。

 でも守るべき家族や友もいるのです。

 ねえ、我が友サディウス・フォン・フリードリッヒ」


「はっはっはっは。

 では、そうするとしようかの。

 では皆の者、そういう方針だ。

 亀のように守りに撤するぞ」


 亀の爺さんなら国境付近で絶賛日光浴中だけどね。

 たまに水精霊の力で水浴びしながら。


 爺さんも収納持ちで弁当持ち込みらしいし、そのうえしばらく食わなくても全然平気らしい。

 ほぼドラゴン並みの凄さというか、並みのチンケなドラゴンが相手なら爺さんに一発で蹴散らされて返り討ちにされてしまうだろう。


 あの大きさに匹敵する馬鹿でかいドラゴンなんて、そうそういないんじゃないか。

 しかも亀なので、ずんぐりむっくりな体形だから、爺さんと御相撲を取るなら全長百メートルのドラゴンでも体重が足り無さそう。

 体重勝負なら二百メートルクラスでなんとかといったところか。


 そんな大物ドラゴンがこの世界にいればの話だが。

 もし、そんな怪物がいたらとんでもない話だわ。

 いわゆる災害級っていう奴だな。


 爺さんが一体いるだけでゲルスの連中も再度国境を越えて攻めてこられないようだ。

 巨大な大亀がドワーフの大群とコラボする妄想が頭から抜けないものらしい。

 精霊達も、わざと顕現して異形の姿を見せつけていたし。

 あいつらもゲルス相手に思いっきり遊んでいるみたいだ。


 ゲルス軍にしてみれば、国境に居るのは思いっきりヤバそうな大亀魔物×精霊軍団×ドワーフの軍勢×たまにドラゴンっていう感じなんだろうな。

 そりゃあビビるわ。


 おまけに奴らの目的である俺のスキルもあるのだから。

 あと冒険者達も大勢いる。

 うちのギルドはフリードリッヒ家の管轄だから気合の入った奴が多いからな。

 いざとなったら、あいつらに俺の必殺爆炎スクロールを山盛り配給しちゃうぜ。


 それからというものの、俺はうちの『国境警備隊』のところへ行っては魔力と御菓子を振る舞い、様子を伺いながらダイダラ爺さんを労った。


「悪いな、爺さん。

 俺の都合に付き合わせてさ」


「なあに、ダイゴ。

 稀人というものは付き合っていて本当に退屈せん。

 この長き時の流れの中で、誠に良き友よ」


「そうか、安心したぜ。

 先輩方も、あれこれとやらかしているみたいでよ」


 そして別邸から応援にやってきた、あの物騒なメイドさん方が、ゲルスなど何処吹く風といった按配で御使いに行ってくれるので思いっきり助かっている。


 やがてアルフォンス商会が開発した離乳食を試す日がやってきた。

 両側に両親を侍らせて、その御食い初めの儀式の日を迎えたうちの御姫様は、至極御満悦な御様子だった。


「美味しそうに食べているね」


「ああ、これは『輸入品』ではなくて、この現地での自己開発品だな。

 日本から持ち込んだ品ではなくて新しく作り出した奴のようだ。

 一応はレトルト商品なのだが、印刷された文字がこの世界の大陸共通語だ。

 アルバトロス王国の英雄さんには、日本の新製品をスキルで作り出す能力はないのかね」


「でも美味ですよ」


 すかさず離乳食の味見を済ませていたフィーが断言した。

 俺も同じく娘のために試食は済ませておいたのだが、確かに悪くない。

 味は十種類もあって、パッケージを見せるとミーナがどれにしようかと凄く迷っていた。

 どれもこれも御気に入りなものらしい。


 この子は獣人とのハーフだから匂いで違いがわかるのかな。

 匂いのキツイ物だと、ビニールパックみたいな包装の食品なんかは普通の人でも結構匂うような気がするんだけどね。

 インスタント味噌汁も生味噌を使っている奴なんかは、うっかりと腐らせてしまうと包装パック越しでも臭いが凄くキツイ。


「まあ、悪くないよな。

 だが、はたして『彼』は来てくれるものかね。

 かなり新商品開発に勤しんでいるみたいだしさ」


「なあに、しょせん稀人なんて騒動を起こすためにいるようなものさ。

 黙っていても巻き込まれるだろうから安心しなって」


 蜻蛉(せいれい)さんからの、そのような指摘を受けて首を捻った俺なのだった。


「はたして、それがいいのか悪いのかよくわからないな」


 そして、次の一口を催促するために俺の袖口をぐいぐいと引っ張るミーナの可愛らしい口にスプーンを走らせるのであった。



 やがて事態は動いた。

 知らせてくれたのは街にいる王国の役人だった。

 彼らも今は様子見をしており、中立的な立場のようだった。

 その理由は次に彼らの口から語られた。


「子爵、セブンフラッグが動いたそうです」


 なんだ、それ?

 そんな俺の表情を汲み取って、子爵は笑いながら説明してくれた。


「ははは、ダイゴよ。

 セブンフラッグというのは、ゲルスを中心とした連合軍と対峙する七つの国の事じゃ。

 最近、血族を中心として同盟で固まったザイード王国・ベルンシュタイン帝国・アルバトロス王国・ハイド王国の四か国。

 そしてアルバトロスの元々の兄弟国サイラスに、それにロス大陸中心に位置するエルドア王国とメルス大陸の大国であるケモミミハイム王国。

 それらの国家の旗の事じゃ。

 あのアルバトロスの魔王がそれを預かっておるそうじゃ」


「魔王?」


「例の稀人の事じゃよ。

 ヨウチエンの園長とやらをやっておるので、魔王園長と呼ばれておるらしいがの」


 俺は思わず沈黙した。

 えーと、それは魔王……なの?

 それとも園長先生なの?

 どっちなんだ。


 でも彼が経営している幼稚園には興味があるなあ。

 いや、ただうちの子の御遊戯発表会とか学芸会を見たいだけなのだが。

 きっと日本式にやってくれているはず!


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