150-45 新しい季節
やがて季節は過ぎ、俺とラーナは新商売を始めた。
その名も『バーガー・ラーナ』だ。
バンズは嫁さんの実家で焼いてくれるし、ハンバーガーは挽肉を捏ねる機械を作成してもらった。
ついでに腸詰めの機械も作ってもらい、同じ材料で作れる『腸詰めハンバーグ』なんてものまで作って、それをホットドッグにしてメニューにも幅を持たせた。
もはやハンバーグでもなんでもない。
普通のウインナーを入れたホットドッグに限りなく近い代物だ。
でも材料はハンバーグのそれだし、その御蔭で噛み締めた時に溢れる肉汁の量だけは半端ないがな。
ソースには思いっきり拘りを見せたぜ。
そこはズルして子爵邸の料理人衆に助っ人を頼んだけど。
何しろ、うちは強い。
美味いと評判のパン屋『パナパナ・ラーナ』で作った『手作りバンズ』なのだ。
例の稀人商品も用いて、さらに美味しくなっている。
あれこれと総菜パンなんかも作っているのだ。
それらの作り方とかは殆どうちだけの専売特許みたいなものだし、それらは真似をしようとしても簡単に真似できない。
見様見真似で商売する連中もいるが、多彩な知識の中から厳選した商品のアイデアなので、こちらは幾らでもアレンジが利く。
何しろ品質そのもので他の店は太刀打ちできない。
だが追随する者がいるのはいい事だ。
商売にとって裾野が広がる事は必要だ。
その上で上級版としての先行者利益をうちでしっかりと頂く。
ガ〇プラなんか、そのいい例だよな。
あれはライバルが海賊版だけど。
芋料理などにも趣向を凝らしている。
その上、良心価格での販売は『パナパナ・ラーナ』系列の伝統なのだ。
しかも御領主様の御用達で、冒険者ギルド・ギルマスの同居人が作っているのだし、何しろ経営者がドラゴン以上の魔物を倒した勇者なので、この冒険者の街では有名なのだ。
ネームバリューでも勝負出来る勇者ブランドバーガーだな。
おまけに、『今も一人でゴブリンが退治できなくて冒険者稼業が務まらない』『凄い魔力を持っているくせに筋金入りの魔法音痴でスクロール使い』『ケモミミ娘が大大大好き』『いつも奇天烈な事をやりだす変人』などの話でも有名人なのだ。
あまり褒められるネタがない……。
それでも美味しくて新しい食べ物であるハンバーガー屋さんなどを始めてくれたのだから、皆もそれでよしとしてくれているようだった。
うちは行列の出来る美味しいハンバーガー屋さんなのだ。
そんなある日、ギルマス・クランツが思わせぶりに話しかけてきた。
「聞いたか、ダイゴ」
「何をですか、ギルマス」
「ベルンシュタイン帝国の軍勢がアルバトロス王国へ奇襲で攻め込んだそうだ」
「え、それでどうなったっすか」
俺の心配は、もっぱら稀人商品の入荷についてだ。
フィーもチョコの事が心配なようで、俺達二人はギルマスの次の言葉を待った。
だが、彼はにいっと笑って言ったのだ。
「稀人が一人で堂々とぶちのめしたそうだ。
五十万の大兵団をな」
五十万⁉
それなりの人口を誇る地球でも普通そこまでの兵士を繰り出さないぞ。
第二次世界大戦か!
それって絶対に殆どが徴用した農民兵だろう。
あと兵站に収納を使ったり、あれこれと魔法を使ってインチキしたりしているのに違いない。
それは大昔なら、侵攻方向へ向かって兵站のために都市を作りながら進軍しないといけなくなるレベルの人数を擁する大軍勢だ。
現代地球並みの輸送力・物流システムが普及すればまた別なのだが。
それでも金がかかるわ、訓練が豪い事だわという感じで超大変なレベルの話だ。
普通の国に出来る事ではない。
あの超大国アメリカだって、そこまでやれるのはベトナム戦争の時代までだ。
「どんなんですかっ。
どうやったら、そんな真似が出来るんですか」
「さあな、稀人は非常識な奴だというのはよく知っているしな」
そう言って彼は俺を値踏みするかのように眺めた。
「俺には、そんな真似はできませんからね!
それより安心しましたわ。
俺の米や味噌汁の供給が途絶える事はなさそうだし」
「フィーのチョコもね」
「お前らな。
ただ、そうなるとだな。
今度はゲルス共和国の動きがどうなるかだ。
御隣のザイードは帝国と反目していたからともかく、更には一体どういう訳なのか知らんが、あの鍛冶以外の他の些事には一切関わらないはずのドワーフどもまでがアルバトロスの稀人に加担した。
元々アルバトロスが同盟を模索していたハイドは、ハイドの王太子とアルバトロスの王女との組み合わせによってアルバトロスと血の同盟を結んだし、サイラスは元々アルバトロスの兄弟国だ。
この意味はわかるか?」
「さあー」
「俺達エルトミアは、この大陸において完全に弱小勢力と化したのさ。
元からそういう雰囲気はあったのだが、ここに来てそれが決定的になったという事だ。
おまけに向こうには、たった一人で五十万もの大軍を無力化するほどの稀人の英雄がついている」
「無力化?」
「ああ、どういうわけか兵士達を一人も殺さずに、縛り上げて荒野に転がしてあったそうだ」
「どうせ、そいつも日本人でしょうからね。
あまり好き好んで殺しはしないでしょう」
「だが帝国内での反乱首謀者であった第二王子の首は、一切躊躇わずに叩き落としたそうだから決して甘い奴ではなかろう」
「ひえっ、おっかねえなあ。
そいつ、本当に日本人っすか」
「さあな、あくまで稀人だという事だ。
その前にもあれこれとやらかしていたそうだし。
なんでも、強者として名を馳せたベルンシュタイン帝国のSクラス冒険者『灼熱のバラン』を尋常ではない方法で斃したそうだし、その前には同じくベルンシュタイン帝国のSクラス冒険者死神リック伯爵も捕縛され、奴の姦計を巡らせた罠に嵌まり帝国から追われて帝国自身の手によって消されたらしい。
おまけに三人いたSランク冒険者の内、最後の一人であるアルスも奴についている。
かなりヤバい男らしいから、お前は絶対そいつには関わるな」
「そ、そいつの名は」
「アルフォンス・フォン・グランバースト。
今では各種功績によりアルバトロス王国の名誉公爵位を持つSSSランクの冒険者だそうだ。
この冒険者ギルドのギルマスたる俺とても、そいつがどんな力を秘めているものか、まったく想像もつかん」
ガクガクガクガク。
俺は膝が震えるのを抑えられなかった。
そいつは俺のようなモブとは違う本物のチート野郎だ。
心底ヤバイ、俺が絶対に関わってはいけない人物ナンバーワンだな。
俺にはわかる。
奴は間違いなく日本人、しかも同じ日本にいたとしても絶対に関わってはいけないタイプだ。
そいつと目を合わせたら負けだな。
「どうしたの、ダイゴさん」
後ろから、少し御腹の目立ってきたラーナが可愛く小首を傾げた。
「おお、ラーナ。
大丈夫。
何があろうと俺が君達を絶対に守ってみせるから」
俺はそう言ってしゃがむと、彼女の御腹をそっと撫でた。
そう、俺はあれから凄く『頑張って』ついに子宝を授かったのだ。
あの時はもう嬉しくて嬉しくて、街中を踊り狂いながら例の塀の上に駆け上り、いつもの限定パンと果実水で仲良しの彼と乾杯したのだった。
また一つ俺の奇行伝説が街に広がった瞬間だったが、俺は一向に気にしない。
どんな可愛い子供が生まれてくるのだろうか。
考えるのはもうそれだけだった。
それにしてもアルフォンスとはまた不吉な名前だなあ。
御隣の国はちょっと前までアル・グランド王国という名前だったそうで、その反乱で焼け落ちた王都の名がアルフォンスだそうだから。
ああ、やだやだ。




