150-44 御飯ですよ
とりあえず、米を炊いてみる事にした。
炊飯器なんていう上等な物はこの世界には存在しないので鍋を使って。
でも鍋で焚いた方が御米がピンと立って、艶々な御飯になるはずなんだよね。
竈だと火力が安定しないんで辛いなあ。
昔の人は焚き付けや、色々な大きさの広葉樹と針葉樹の薪を使い分けたりして上手に火力を調整していた。
しかし、それが美味しい味を作る秘訣でもあるんだろう。
「楽しそうだね、ダイゴさん」
「お、おう。
俺もパンは大好きなんだけど、こいつも懐かしくてさ。
せっかく海苔も手に入ったんだし」
仕入れてきたばかりの、梅干し・沢庵・混ぜ御飯の素・炊き込みご飯の具・ふりかけ・お茶漬け海苔・お吸い物・ツナ缶に焼き鳥缶などなど、懐かしいおかずには事欠かない。
ああ、オニギリが食いたい。
鮭? はあるしな。
焼いた脂の乗った身を解してオニギリの具を作っておいた。
なんと海苔の佃煮の瓶まであるのだ。
ラーナがお米やオニギリを気に入ってくれるといいんだがな。
梅干しは多分駄目だろうなー。
しかし、御味噌汁って外人さんでも大概は大丈夫っぽいから、そいつには期待している。
「上手く炊けるかどうか心配だ。
竈で御飯を炊いた事なんてないんだよね。
小中学生の頃に『山の学習』で飯盒炊爨をやったくらいだ」
鍋はぴっちりと蓋をするタイプの厚手の物があった。
炊飯器に高級な厚釜タイプがあるように、鍋も厚い物の方が美味しく米は炊ける。
鉄板料理も鉄板が厚い方が美味しく焼けるのだ。
ここの物は少し精度が悪いので、自分で気が済むまで叩いて直した。
わざわざ庭に出てガンガン叩いている。
さすがに家の中では音が反響して喧しい。
外でも喧しいけど。
まあ、これも加減が難しい。
あまりピッタリ過ぎてもいかんのだ。
ちゃんと噴きこぼれてくれんとね。
圧力釜を作るわけじゃないのだし。
まあ煮立ってくれば、蓋なんて勝手に持ち上がるんだけど。
炭火もいいかもしれない。
この世界にも炭はあるが、竈は普通に薪で炊く。
炭の方が火力も安定しているし、遠赤外線効果が期待出来る。
そういう遠赤外線効果があるタイプの高級炊飯器もあったような気が。
魔法のコンロはあるのだが、「それで作った食事は美味しくない」という御当主の意向から、そのようになっているのだ。
御蔭で美味しい御飯が食べられて幸せさ。
でも奥さんの手料理も食べたい。
うちの奥さんの料理は、まずパン生地を捏ねて、パン焼き釜でパンを焼くところから始まるんだぜ!
子供達は「またダイゴの奇行が始まった」とでも言いたそうに、俺が一心腐乱に炊飯鍋を叩きだしている様子を眺めている。
それでも離れないのは子供だからだよね。
目が離せないという奴なのだろう。
「ふう、こんなものかな」
そう言いながら俺はそれを持って、目で出来上がりを測った。
大体綺麗に仕上がったようだ。
何故異世界でこんな職人技を発揮しているものやら。
俺は手先が器用でよかったぜ。
まあ、こんな物は鍛冶屋さんで頼めば済む事なのだが、こういうところも自分でやって楽しんでいるのさ。
今度、土鍋作りも挑戦してみるかな。
あれで焚くと美味い米飯が焚けそうだけど、焼き物を作るのは大変だなあ。
出来上がったそいつを丁寧に生活魔法の水魔法で洗い、しっかりと例の風魔法で十分に乾燥させて、既に十分な時間冷やかしてから収納に入れておいた米を水ごと入れた。
その鍋を収納に入れて竈まで運び、同じく生活魔法の火起こしの魔法で準備しておいた薪に火を点ける。
まるで俺の魔法って異世界で米を炊くためにあるようなものだな。
薪も一応、火の点き易い針葉樹と火持ちのよい広葉樹、そして小さく割った焚き付けを用意してある。
「それって美味しいの?」
「なんていうのかね。
他のおかずと一緒に食うのさ。
美容と健康にいいぞ」
それを聞いて途端に張り切りだす幼女が約一名。
いやそういう話題は君にはまだはや……まあ御飯はいっぱい食べて早く大きくなった方がいいのか。
だがラーナが心配そうに呟いた。
「それが流行ると、パンが廃れちゃわないかしら」
「いや、それはないだろう。
貴族の間では流行るかもしれないけど。
この世界で米は栽培されていないんだぜ。
どこかにないと決まった物ではないが、少なくともここにはアルバトロス王国から来た物しかないんだ。
ちゃんと昔からたくさん生産されていて皆が食べ慣れた小麦粉が主食の座を降ろされる事なんかないよ。
俺のいた世界でも外国、特に超先進国のアメリカで和食はもてはやされていた。
同じくアメリカでたくさん食べられていた中華料理でも米は使う。
しかし中華料理でも小麦粉を使う料理が多いし。
米が売られるようになっても、そういう国ではやっぱり主食はパンやピザなどの小麦粉系なのさ。
アメリカでもレストランで米は安い物が使われる事が多く、こんな美味しい米はまず食べられないよ。
大体、米なんて本来ならこんなところで売られていないはずの品物なんだから。
ほら、ラーナ。
この文字とか読めるかい?」
「よ、読めないわ。
おかしな文字ね」
「ダイゴは読めるの?」
クラウスが聞いてきた。
この子も貴族家の人間だから、そういう物に興味があるんだろう。
「ああ、ここにはこう書かれている。
『新潟魚沼産コシヒカリ』と。
稀人の言葉である日本語さ。
こいつは美味い米なんだぜ。
一般に流通している米の中では最高級品だろう。
一番値段が高い種類だな。
一般庶民はあまり食べていないもんさ。
まあ、元々米自体が値段の安い部類の食品だから、たまに贅沢するくらいの事はできるけどさ。
しかも、こいつはなんと新米だ。
精米日付は……俺がこちらへ来る二週間前だな。
まだかろうじて新米が出回っている時分だなあ。
これを作った稀人は、この新米の小さな袋を持ち込んで、そいつを何らかの方法でコピーして売っているのか。
他の品も皆、そいつがこの世界へ大量に持ち込んだ物なんだ。
よくもまあ、こんなにあれこれと持ってこれたもんだ。
本気でイカレていやがるなあ。
まるで、この異世界へ来る事をあらかじめ予期していたみたいだ。
それにしても、実に羨ましい能力だな」
そして、お米の鍋が噴いている。
沸騰したので火力を調整して弱火にする。
台を作って鍋の高さを調整した方が簡単かな。
火加減が難しいや。
バーベキューコンロみたいなものだと、そうやって炭の高低で火力を調節したりもするよな。
今度、ドイツ弁当箱のメスティンみたいな特殊飯盒とアルコールストーブを作ってみたいな。
あれなら自動炊飯できるから便利だ。
ここにはアルミがないようなので代用金属で。
アルミの空き缶はあるけど、そこからアルミ材を作り出す技術が俺にはないな。
そういう缶詰や飲料の空き缶があるので、簡易なアルコールストーブは作れない事もない。
物体変性の能力でアルコールが作れるのは試した。
消毒薬に使うエタノールを作るつもりだったのだが、メタノールなんかも作れたのだ。
そう言う訳でアルコールストーブに使う燃料用の混合アルコールはもう作れる。
そいつ用の密封容器が上手く作れないので、液体のままで収納に入れっぱなしなんだけどね。
やがて水気が無くなったとみえて鍋は大人しくなった。
そのまま十分計って火から降ろす。
商業ギルドでキッチンタイマーまで売っていたし。
最後に藁を一掴みなんていう玄人っぽい芸当は、さすがに不慣れな俺なんかにはできない。
そしてキッチンタイマーは子供の玩具に早変わりした。
壊すなよ、そいつはカップ麺を作るのに使うんだから。
また今度スペアの奴を買ってこよう。
そのうちには電池が切れるだろうし。
あれって最初に入れてあるテスト電池でも結構長く使えるけどね。
さすがに交換用の電池までは商業ギルドでは売っていないし。
交換用の工具さえ無いわ。
俺は米を蒸らしている間に火を強めて御湯を沸かした。
その間に使い捨ての紙食器に味噌汁の素やカップスープを入れて準備し、たくわんを刻み、紀州梅の梅干しと一緒に皿に出した。
俺はフリカケも用意し、紙食器の御茶碗を用意した。
あとはツナ缶に海苔と醤油、味付け海苔と海苔の佃煮、あと試食用にカップ麺も用意した。
おそるおそる開けた鍋の中には、なかなか上手に炊けたお米があった。
「みんな、炊き立て御飯の匂いを嗅いでみて」
みんながそれを嗅いだが、全員が首を傾げる。
「これがどうしたの?」
「うーん、悪い匂いじゃないけど、特に好きでもないな」
「御腹が空いてるから、いい匂いだと思う」
「うん、美味しそうな匂いがする」
「はは、そいつはよかった。
外国人の中には、この炊き立て御飯の匂いが嫌いな人間が結構いてね。
みんながそうじゃなくて、よかったよ。
さあ食べようか。
おお、オコゲもいい感じに出来てんじゃん。
さすがは竈御飯だ」
俺はそう言って皆に御飯をよそい、ラーナがお湯を味噌汁やスープの入った容器に注いでくれていた。
「お前らはスプーンやフォークでな。
俺はこいつで」
そう言って俺は、食い物と一緒に仕入れてきた割り箸をパキっと割ったが、子供達もそれに手を伸ばした。
そして俺の真似をして食べ始めた。
みんな小さい子の持ち方だが、なんとか食べていて驚きだ。
今度、ちゃんとした箸の持ち方を教えよう。
箸も使い捨てじゃない奴を作らないとな。
俺はまず少し炙った焼き海苔からだ。
醤油に付けて御飯に乗せてっと。
「うーん、これこれ。
うっまあ」
そして皆がそれぞれおかずに手を出す中、幼女が梅干しに挑戦しようとしている。
「あ、そいつは酸っぱいから子供はやめとけ」
「そうですか、どれ」
「あっ」
ヘルマン君は俺が止める暇もなく、さっと梅干しを取って口に放り込んだのだった。
「す、すっぱ~」
彼はしばらくのたうっていたが、何故か吐き出さない。
そして言った。
「いやあ、これは通の味ですね」
さすが二代後には、この竜殺しのフリードリッヒ家を継ぐ予定の男だな。
実にいい根性をしている。
しかも種を割って、その中身まで味わっているし。
日本人でも、そこまでやる奴は滅多にいないよ。




