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150-43 商業ギルドにて

「ほっほっほ、ファナの子は可愛かったじゃろう」


「ええ、そりゃあもう。

 一人で御留守番をしていたあの子に懐かれちゃったんで、なかなか帰れなくて今頃になって帰ってきましたよ」


「ふぉっふぉっふぉ。

 そいつは、いかにもお前さんらしいのう」


 御領主様に御土産を渡し、御茶を御一緒させていただいていた。

 御土産は鮭みたいな魚を遊びで燻製にしておいた物だ。

 鮭というか、マスみたいなもんなのだろうか。

 日本で見かける、輸入品のサーモンと称する魚なんかも、その類じゃなかったっけ?


 ルーの奴も好奇心からちょっと味見していたのだが、一口齧って吐き出し顔を顰めて、以後はまったく食べなかったのだ。

 草食竜にはちょっと難しいだろうな。


 水草や藻の燻製は、さすがに無理がある。

 海苔とかを作ってやったら水竜の子供って食べるかなあ。


 いや、単に俺が海苔を食いたいだけなんだが。

 やっぱり日本人なら海苔は欲しいよね。

 曲がりなりにも焼き鮭は手に入ったし。

 卵焼きもある。


 そのうちに味噌も頑張って作ろう。

 俺には物体変性という特別な力があるのだ。

 やってやれない事はないのさ。


 あの別邸で暮らしていたので、少し垢抜けたというか、俺とラーナはほんの少しくらいは優雅さが身についたようだ。


「そういえばのう。

 最近、お前が留守の間に、商業ギルドに変わった商品が入るようになったそうじゃ。

 もしかしたら、お前さんみたいな稀人が気に入る物かもしれんし、新しく始めたい商売の一助になるかもしれんしのう。

 一回覗いてみたらどうじゃ」


「へえ、じゃあ行ってみようかな」


「いいわね。

 商業ギルドなんて滅多に行かないから、私も行ってみたいな」


 おお、可愛いネコミミ奥さんもその気のようだ。

 じゃあ、ちょっとだけデートしますか。

 ほんの五百メートルくらい。


 商業ギルドって、冒険者ギルドと同じところにあるケースが多いらしい。

 特にダンジョンの近くにある街だと大概そうなんだそうだ。

 まあ魔物などの素材の入手先だったり、武器その他の装備や物資の入荷先だったりと、御互いに便利だしね。


 俺達は仲良く御手手を繋いで、顔見知りの商店の人に目一杯冷やかされながら商業ギルドへ行った。

 だが、そこで並べられていた商品を見て、俺は思いっきり沈黙してしまった。

 しばしの間固まってしまっていたが、すぐに大興奮で品物を手に取っていた。


「ラーメンだ。

 こいつは紛れもない袋入りのラーメンだわ。

 しかも定番で昔から凄く人気のある奴ばかりだ。

 コンビニで見かけるような、今人気のある感じのカップ麺もあるし。

 そこで一緒に貰える割り箸まであるんだなあ」


 よく日本のスーパーやコンビニで見かける定番のパッケージに包まれた、それらの品々。

 なあ、君達は何故ここにいるんだい。


「あ、チョコ、チョコだー。

 わーい。

 ねー、ダイゴ。

 チョコ買ってー」


「お、おう」


 値段はそう高くない。

 日本よりは高いが、ここでこれが買えるなら絶対に惜しくはない。


 銅貨五枚は良心的な価格だろう。

 地球の二倍の値段、特売品なら二・五倍ってところか。

 俺なら銀貨一枚取るけどね。


 というわけで、そこにあった二十箱ほどのチョコを買い占めた。

 この世界って、『御一人様一個限り』とかいうルールはないんだよな。

 売れたら正義。


「そらよ」


 俺は、そのうち半分をフィーにくれてやった。

 おやつを買ってやる約束だったからな。

 これだけあれば、フィーの大きさならば相当食いでがあるだろう。


「わあい、夢にまで見たチョコだあ~。

 もうダイゴったら。

 チョコなんて二度と手に入らないかもっていうから、すっごく大事に食べていたのに。

 こんなにたくさん売っているじゃない」


「馬鹿、そんな日本の御菓子が、本来ならここに売っている訳なんかあるはずないじゃないか。

 それくらい、お前だって俺の記憶から知っているだろうに」


 そこで少し驚いたようにフィーも首を傾げる。


「そういや、これどうみても、この世界の物じゃないよね」


「ああ、俺の国で作っている奴だよ。

 あれ? やけに賞味期限が残り少ないな。

 しかし完全に輸入品だよな、これは。

 一体どうなっているんだ」


 だが、そこに並んでいた代物の数々は。

 どれもこれも見慣れたような物ばっかりだった。


 その他のポテチや御菓子達。

 醤油・ワンカップの日本酒・日本のワイン・缶ビールに、あと味噌というか一食分のそれが袋に入った味噌がついているインスタント味噌汁。


 箱に入ったカップスープもあれば、ツナ缶やマグロ醤油煮缶に焼き鳥缶やフルーツ缶まである。

 有名な高級缶詰のシリーズも数種類あった。

 どれもこれも慣れ親しんだ日本語パッケージだった。


 あ、海苔を発見。

 これも焼き海苔と味付け海苔の両方がある。


 う、梅干しだあ。

 こいつは海外旅行に持って行く人も少なくないという、日本人のソウルフードの決定版だよな。


 そして、何よりも『米』だ。

 うおお、魚沼産こしひかりがあるじゃんか。


 そっちの高い米はなんだろう。

 いやに大粒だが、特別な米のようだ。

 へえ、岐阜のお米か。

 これは見た事がないな。

 でも値段からして、きっと凄く美味いはずだ。

 もちろん、そいつも買った。


 レトルトカレーもいろんな種類がある。

 牛丼と中華丼もある。

 もちろん、全て日本語で書かれたパッケージだった。


「マジかよ。

 あ、ベーキングパウダーと重曹、こっちはイーストか。

 ホットケーキの素まであるし。

 缶ジュースにパックのジュースまで。

 すげえな、おい。

 一体どうなっているんだ、これは」


「どうしたの?」


 フィーが、大量に貰ったチョコに心あらずという感じでふらふらと漂ってきた。


「ああ、何故か俺の国の良い品物がいっぱいあるんだ。

 だけど賞味期限が古いのが多くて。

 いや、まだ賞味期限を過ぎちゃあいないんだが、なんか気になるな」


「賞味期限?」


「それを過ぎちゃあ食べたら駄目っていう事なのさ。

 まあ消費期限じゃないんだから、少々過ぎたくらいなら食べられない事もないんだけどな。

 だが変だな。

 こんなにいろんな種類が大量に入ってくるのなら、何故こんなに古い日付の物ばかりなんだ」


 すると商業ギルドの若い人が近寄ってきて訊いてくれる。


「御客様、どうかなさいましたか」


「いや、ここの商品に関して御領主様から聞いたので来てみたのだが、ここの品物は一体どこから来ているんだい?」


「アルバトロス王国からですよ」


「へえ、それってここから東へ行った三つ目の国だよな。

 それにしちゃあ、やけに日付が古いな」


「日付?」


「おい!

 食い物を売るんなら、賞味期限くらい覚えておけよ。

 食品は先入先出をしないと駄目だぞ。


 このラーメンなんかは、賞味期限は大体製造されてから七か月っていうところだが、こいつは賞味期限の残りが二か月くらいだ。

 消費期限じゃないけど、風味とかの問題もある。

 これくらいだと、もうお店に置いちゃあ駄目なんだよ。

 特にインスタントラーメンは古くなると油が酸化するから体に良くないんじゃないか?


 一般的には賞味期限の残りが三分の一くらいになったら、もう売り物としての価値がなくなる。

 本来なら、とっくの昔に叩き売りされている代物なんだ。

 価値ゼロさ。

 なんていうか、送料を負担すればネットで無料で手に入る事さえあるようなレベルのものだ。

 普通はそこまで売れ残ったりはしないけどな。

 御家庭で備蓄されていて、こうなるのは仕方が無いのだが」


「お客様。

 変な言いがかりを付けないでください。

 これは入荷したばかりの商品なんですよ」


「ええ?」


 それを聞いた俺はさらに首を捻った。

 入荷したばかりで、この日付なのだと。

 どうやら、この商業ギルド職員には賞味期限や消費期限の知識もないらしいし。

 しかし。


「なあ、この製品はアルバトロスで作っているのかい?」


「その辺はうちでは存じません。

 アルバの商業ギルドなら知っているかもしれませんが。

 ここだけの話ですが、どうやらこれらは稀人が作っているようなのです」


「あっはっはっは。

 そうか、そういう事か」


 彼は不思議に思っていたようだが、俺にはわかった。

 これを作った人物は、なんらかのスキルでこれらを自分で作っているのだ。


 そう聞いて、じっくりとそれらをよく見て見ると、商品の外装に印刷されているシリアルナンバーみたいな物が、どの商品も全品一緒だ。

 ナンバーが全部一緒の御札みたいなものだ。

 ある意味、全部『偽物』なのだ。


 いや、これは偽物なんかではない。

 全部本物だ。

 こいつは多分、魔法かスキルで物体をコピーしているのだ。


 その稀人は、どうやら3D原子プリンターのような能力を持っているらしい。

 それなら消味期限なんかが古くたって大丈夫そうだな。

 その人もきっと収納の能力を持っていて、持ち込んだ物をアイテムボックスに入れておいただろうから。

 そうでなければ売物には出来ないだろう。

 それに俺のアイテムボックスに入れておけば、ずっと腐ったりはすまい。


 こいつは楽しみが増えたなあ。

 いつか、そいつに会ってみたいもんだ。

 だがアルバトロス王国なんて物騒過ぎて、とてもじゃないが行けやしないぜ。

 それに、これから戦争が起きるのはあっち方面なんだからな。


 そのうちに、この素晴らしい物資も手に入らなくなってしまうかもしれない。

 そう思ったので、思わず大量に買い占めてしまった。


「毎度ありい~」


 活きのいい掛け声をかけて、御兄ちゃんは商品を次々と包装用の紙で包んでくれている。


 あ、そいつは日本の新聞紙じゃないか。

 帰ったら読もうっと。

 俺はいろいろなページで商品を包むように御願いしておいた。


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