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150-42 ハッと気がつけば

 そして、俺達は毎日夢のような日々を過ごした。


 美しい湖と美しい館、そして湖の幸をふんだんに使った美味しい御飯。

 もちろん、山の幸なんかもあるのだ。

 もう典型的なレイクリゾートだった。

 フィーの奴も満足そうだ。


「いやあ、極楽極楽。

 ここはいい街だなあ。

 ねえ、ダイゴ。

 ここに引っ越さない?」


「あのなあ。

 こういうところは、たまに来るからいいんだよ。

 こんなところにずっといたら人間が駄目になってしまうわ」


「ちぇっ、稀人さんは御堅いなあ」


 旅する精霊といっても、こんなにも堂々と人間の館でもてなされる事は、本来ならば普通はない。

 奴もすっかりと新婚旅行を堪能していた。


 普通は日本人が新婚旅行へ行く時、自分に加護をくれた精霊なんて一緒に連れていかないもんだけどね。


 そして、何よりも温泉だ。

 俺達の部屋にはなんと、部屋風呂までついていて堪能しまくった。

 まるで、ちょっといい温泉旅館の特別室みたいだ。


 ここの街には無論他の御客さん達もいるのだが、ドラゴンと大亀が生息しているので、他の客は湖の中へは入ってこない。

 客が湖に入らなくてもルーは陸に上がっていき、観光客に馴れ馴れしく話しかけちゃうんだけどね。


 ちなみに、ここのドラゴンはフリードリッヒ子爵の名において保護されているので、おかしなちょっかいをかけられる事はないそうだ。

 保護ドラゴンが生息している旨、ちゃんとあちこちに看板が出ているし。

 もちろん、厳重に保護されている事もしっかりと書かれている。


 あのネス湖と違うのは、ドラゴンが堂々と姿を見せている事だな。

 姿を見せるどころか積極的に話しかけてくるのだが。

 まだ子供なんだしなあ。


 俺達は大亀のダイダラ爺さんとも仲良くなって、ルーともども背中に乗っけてもらって湖を周遊したりしていた。


 そしてハッと気がついたら、もう一ヶ月が過ぎてしまっていた。

 地球でリゾートホテルに泊まるのと違って、決まった宿泊費を払って滞在しているわけではないので、うっかりしているとこうなる。


 竜宮城ですか。

 まるで浦島太郎だ。

 御土産の玉手箱から、あの最悪なエネルギー霧ワンダーミストが湧いてこなければいいのだが。


「きゃあ、今思い出したけど御店の御手伝いを放りっぱなしだわ~」


「あ、それは大丈夫。

 ギルドの新人冒険者の子にバイトで依頼しておいたからね。

 割がいい仕事になるように依頼しておいたから、本人も喜んでいるんじゃないのかな」


「そうかあ、それならいいんだけど」

「あはは、よかったら人手を増やして、何か新商売をしないか」


「新しい商売?」

「お金は十分にあるから、そうガツガツしなくてもいいんだけど、何か新しい商売をやってみたいなあ」


「何をやるの?」


「ああ、同じ食い物屋という事で方向性は決まっているよ。

 冒険者が多い街なんだから、御腹に溜まるものがいいからさ」


「へえ、じゃあ街に帰ったら、御父さん達と相談してやってみる?」


 そろそろ帰る事をウインディさんや館の人達に伝えたのだが、その他の『住人』で約一匹が駄々を捏ねた。

 駄々捏ねニャンコならぬ、駄々捏ね子竜だ。


「ええーっ、どこかへ帰っちゃうの~。

 ダイゴったらひどーい。

 勇者にあるまじき蛮行だよ。

 それじゃあ、ルーが一人(いっぴき)になっちゃうじゃないの。

 もっといてよー」


「いや、お前。

 そんな事を言ったってなあ」


「やだあ。

 いてー、いてよ~」


 これだから御子様は困る。

 というか、こんな寂しがり屋の子供を置いて、母親はどこまで行ってしまったのか。

 まあ、子供の前だとイチャイチャしづらいのかもしれないが。


 だが奴があまりに泣き喚くものだから、ラーナがもう少しいようと言い出した。

 まあ俺だってそう異存はないのだが。

 ここはマジで素敵だ。

 毎日スイートな暮らしなのだから。


 結局、ラーナの家には手紙を書き、俺もギルマスに引き続きパン屋さんの方の手伝いの件は頼んでおいて、もう一か月ほど滞在を伸ばしたのであった。

 一応は俺達が帰るまで仕事を続けてもらうという話にしておいたが、いい加減に帰らないと、ここに根が生えてしまうわ。

 また、ここの温泉が本当にいい御湯なんだよな。


 そして、さすがにそろそろ帰らないといけないかななどと思っていたある日の朝、窓の外で物凄い着水音がしたので何事かとベッドから飛び起きた。


「ねえ、ダイゴさん。

 今のは何の音だったのかなあ。

 びっくりしたあ」


「さあ。

 でも、多分こいつは」


 そして小走りに窓辺に寄って窓を開けたら、そこに正解がいた。

 知っていたけど。


「初めまして。

 あなたがダイゴ?」


 そこにはルーと初めて会った時以上の衝撃が、その窓から見える景色の中に占める面積増量分やってきた。

 さすがに大人の水竜は迫力があるわあ。

 スマホで見ていた番組を五十インチテレビで見るようなもんだ。

 草食竜だけあって、とても優しそうな顔をしているので別に怖くはないのだが。

 ドラゴンは可愛らしいルーで見慣れちゃっているし。


 ルーも大人になったらこんな感じになるのだろうか。

 それはいつの事になるものやら。

 千年くらい後?


「こんにちは。

 あなたはルーのママ?」


「ええ、私はファナよ。

 よろしくね、勇者さん。

 そういえば、ダイダラの爺さんとも仲良くなったのね。


 ああそうそう、あなたって稀人なんですって?

 あのダイダラ爺さんの名前も昔に現れた稀人が名前をつけてくれてね。

 ダイダラボッチじゃ長いから、ダイダラって呼ばれているのよ。


 そういや、あなたネコミミの御嫁さんを貰ったのね。

 稀人さんって、そういうのが好きなのよねー。

 そうそう、そういや前に会った稀人さんもねー……」


 うわー、ルーのお話好きは間違いなく彼女からの遺伝だなあ。


 そんなこんなで、俺達はそろそろ帰る予定であったのだが、彼女のお話に付き合って、もう三日滞在を延長したのであった。


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