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150-41 ルー

 ウインディが案内してくれた部屋は豪華なものだった。

 天井は高く、どちらかというと上品な赤で纏められ、艶やかで派手な内装だ。

 ずっとここに住むとなると落ち着かないのだろうが、ホテルや高級別荘としては合格だ。

 気分も変わるし、新婚旅行に求める全てがあるような、そんな有り様であった。


 そして何と言っても部屋がレイクビューなのだ。

 これが地球で人気のホテルなら、それだけで馬鹿高い料金を取られてしまうようなものだ。

 窓から眺める湖も素晴らしい景色だ。


 俺は思わず気合を入れて、バンっと大きめの窓を思いっきり外側に開けたら、そこにはドラゴンがいた。

 俺は思いっきり、窓の観音開きの鎧戸を引き閉めた。


「はあはあ」


 だが窓は外から上手に器用に開けられてしまった。

 おい、防犯はどうした。


「ねえねえ、おじさん。

 なんで窓閉めちゃうの~」


 うわっ、ドラゴンが喋った。

 しかも、これって明らかに子供の声だよな。

 そういえば、ちょっと小さいわ、この子。


 しかし、おじさんか……。

 まあ俺も大学生とはいえ、もう二十歳過ぎているんだからな。


 相手は凄く小さな子供のような感じがする。

 何かこう大変に懐っこい感じもするしな。

 逆に変な奴らについていってしまいそうで怖いわ。


 ドラゴンなんて、きっと物凄く値打ちが高い。

 しかも生きた子供ならば、いくらでも飼い慣らしようがある。

 これだけ人懐っこいんだからな。

 中には、おかしな気を起こす連中だっているだろう。 

 まあ、それも御母さんのリスクを計算しないならの話なのだが。


 ドラゴンのママったら暢気だな。

 もしかして、ここの強面なメイド達に預けていったのか?


「いや、いきなりでびっくりしたから。

 俺はダイゴで、そっちは奥さんのラーナだ。

 えーと、人間の言葉を喋るのか、お前」


「喋るよー、ドラゴンだから。

 あたしはルー」


 ドラゴンって、そういうものなのか⁉

 確かに超高ランク魔物だとは思うのだが。


「ねえねえ、ウインディ。

 その人が噂の勇者様なの?」


「ああそうだけど、あんまり御邪魔をしたら駄目だよ。

 結婚して新婚旅行に来たんだから」


「えー、ルーと遊んでほしいな。

 ママ、まだ帰らないし」


「へえ、ママはどこかへお出かけなのかい?」


「パパのとこ。

 ルーの妹を作りにだって」


「ぶふっ」


 隣でラーナが楽しそうに笑っていた。

 いやうちも、そういう予定はあるんだけどね。


「ルーっていうのね、よろしく。

 あたし、ラーナよ」


「わあい。

 一緒に遊んでくれる?

 ルーの上に乗っけてあげるよ」


 はは、あれだな。

 湖には付き物であるボート系のお遊びか。

 それも楽しそうだ。

 湖があるというので色々と支度はしてきたんだけどね。


「では、御飯前に一緒に遊んでいらっしゃいな。

 ちなみにその子は草食竜なので、魚とかは食べませんので」


「へえ」


 そういや恐竜にも肉食とか草食とかいるんだった。

 草食動物も、特別に食べないといけない時には肉を食ったりする場合もあるそうだが。

 雑食である野良猫も畑で野菜とかを食う事もある。


「じゃあ、行くか」

「うん、はいどうぞ」


 そう言ってルーは背中を見せる。


「窓からなのかよ!」


「はは、ここは湖面からそう高くないのでここから出られますよ。

 湖を一周してきなさいな。

 ここに水浴着がありますよ」


 そんな別荘って、水害や嵐の時は大丈夫なのかね。

 まあ日本の富士五湖あたりなんかは、波も物凄く穏やかで滅多な事はないのだが。


 俺とラーナはウインディが出ていってから、用意してくれた水浴着に着替えておいた。

 少し薄めの、なんか温泉の温浴着とも違い、特に女性用は何かこうヒラヒラした奴だった。

 これって水に濡れたら一発でスケちゃうんじゃないか?

 ラーナが露わな姿になってしまいそうだ。

 ここに男はいないみたいだからいいけど。


「はやくー!」


 ルーが窓際で可愛い手をペチペチして催促している。


「はいはい。

 御手柔らかに頼むぜー」


「ルーは速いよー」

「だ・か・ら!」


 ルーの頭や首を、半ばしがみつくようなスタイルで滑り台のように上手に伝って背に乗ってみた。

 ラーナは体力に余裕がある獣人族なので、俺よりは遥かに優雅な感じで滑り降りた。

 ルーの大きさは、パッと見に全長十メートルはなさそうだった。

 でも俺達二人を背中に乗せて十分に移動できるくらいの体付きはあった。


 ざっと三十フィートクラスっていうところだから、これがクルーザーなら軽く三千万円以上はするんだろうな。

 これで幼児クラスなんだ。

 母親は推定三十~五十メートルっていうところかな。


 ネス湖のアレは温度や食料その他のせいで条件的に生息出来ないらしいが、こいつらは草食だし、きっと食っても食っても魔素によってザクザクと増えるような水草や苔を食って生きているのに違いない。


 ルーは退屈している時に上手い事遊び相手を見つけたので、それはもう有頂天だ。

 あっちこっち泳いで、くねくねくねくねと曲がりくねって泳いでいた。

 まだ子供だしなー。


 俺は乗り物酔いに強いタイプだし、ラーナは体が強い獣人なので、そんなものにはビクともしていない。


「あの岩のところに大きな亀さんがいるのー」

「へえ」


 ルーは、ざざーっとすぐに岩の傍まで泳ぎつき、大きな声で亀を呼んだ。


「爺様ー、爺様ー。

 あれえ、もう爺様ったら、また寝てる」


「ははは、他に御友達は?」

「普段お話してくれる御友達は、後はウインディやシャーリー達だけだよ」


 ほぼ、ここの別荘が託児所も同然なんだな。


 パパは一緒に住まないのかな。

 あるいは、湖は女子供だけが暮らす、いわば人間の世界でハリーム(ハーレム)と呼ばれるような場所だとか。


 はたまた子供が大きくなってきたら一人(一匹)で置いておき、交尾の時だけ両親が一緒に過ごす感じなんだろうか。

 まあ、別に一人じゃないっぽいけど。


「ルー、俺達も御腹が空いてきたから、そろそろ別荘へ戻るわ。

 亀の爺さんは、また今度紹介してくれよ」


「わかったー」


 そして、ルーが館の窓まで泳ぎ着いて俺達が部屋に上がり、待ってくれていたメイドさんからタオルを受け取った頃、物凄い水音がしたので何事かと振り返ってみたら『さっきの岩が』起き上がっていた。


 それを見たルーが叫ぶ。


「あ、爺様だー。

 今頃起きたのかー」


 でけえな、おい。

 島だと思っていたのが、爺さん亀の甲羅だったみたいだ。

 これまたデカイ大亀だなあ。

 あれは最低に見積もっても長さ五十メートル以上はあるんじゃないか?

 

 いつも湖に浮かんで甲羅干しをしながら寝ているのかねえ。

 いかにも亀らしいや。

 まあ普通は岩の上で寝るもんだけど、あのサイズじゃそうなるわなあ。


 そしてウインディさんも言った。


「おや、亀のダイダラ爺さん。

 まだまだ御元気ねえ。

 もう軽く数千年は生きているみたいだけど」


 うわあ、マジで亀は万年ってか。

 やっぱり異世界は半端ねえな、おい。


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