150-40 風の将軍とフォートレス
「ようこそ、このレイク・フォートレスへ」
まず何から突っ込もうか。
この世界には、結構『英語風』の言葉が多い。
ここの言葉はドイツ風の単語が多いんだけど。
あのアルバトロス王国の稀人の国王とかが結構この世界へ地球の言葉を持ち込んだらしい。
彼は錬金魔王などと呼ばれていたそうだから、もしかしたらドイツが圧倒的な権勢を誇っていただろう化学系の仕事の関係者だったのかもしれない。
しかし、フォートレスかあ。
まあ、あの外開きで荘厳な門を見ただけでも、この別荘の中身に関して想像はついていたのだがな。
しかし、この出迎えてくれた方ときた日には。
「どうかなさいましたか?
ダイゴ様、私がこのレイク・フォートレスの管理者、ジェネラル・ウインディです」
うーん。
ここは普通、執事さんが現れるシーンではないだろうか。
ジェネラル様直々の御出迎えでございましたか。
フォートレスに将軍は付き物だよな。
騎兵隊はどこだ。
まあ別邸と言っても別荘みたいなもんなのだから、管理者というか管理人さんがいるのはわかるのだが。
管理者のウインディは女性の方で、歳の頃は二十代後半に入ったばかりといった感じか。
髪は黒髪を伸ばしており、明るいグリーンの瞳でなかなかの美人さんのようなのだが、その格好がな。
片目に海賊のような真っ黒の眼帯をして、まるでナポレオンがいた時代の派手な軍服みたいな物を着込んで、腰には剣を帯刀している。
しかもナポレオン時代の柔そうな剣ではなく、ずっしりとした感じの冒険者用の剣だ。
そいつは大剣ではないのだが、この御方が持っているだけで、それ並みの迫力がある。
さすがにあの宝塚歌劇団でも、ちょっとばかり持て余しそうなタイプだ。
もしかしたら眼帯の下には魔眼のような、何か秘められた異能でも隠し持っているのだろうか。
でも、この方を御姉様と慕う御嬢さんなんかは普通にいそうな気がするよな、この世界なら。
ウインディという名前は某有名ファンタジー物語に登場する少女の名を思い起こすが、ここではただの偶然だろう。
例の稀人国王が風という言葉の英語名から残した人名なのかもしれない。
少なくとも、この方の場合はその役よりは某炭水化物っぽい名前の少年の方か、あるいは左手が義手(銃ではなくフックがついている方)の海賊船長なんかの役がいいかもしれない。
その少年の役は女の子(ある程度年齢のいった女性含む)が舞台の配役をやる事が多いキャラクターで、海賊船長の方はあまり女性がやらない、おっさんが演じる敵役であったように思うのだが。
この将軍閣下は、なかなか活発そうな御嬢様のようだった。
そして、その後ろには一応メイドさんらしき方々が並んでいたのだが、彼女達は両手を前に添えて「ようこそ、フリードリッヒ別邸へ」という感じに並んでいるのではなく、まるで戦闘態勢を整えているかのようだ。
特に殺気を放ってはいないのだが。
ねえ、そこの左から二番目の御嬢さん。
何故両手に鞭を持って撓め、「パンっ」ていう感じに鳴らすのでしょう。
うちの嫁が怯えるといけないから止めてくれないかな。
そして、その隣の真ん中にいる御嬢さんは、何故スカートの裾をめくりながら中に手を突っ込んでいらっしゃるので?
めくれたスカートの裾の下に、何か投げナイフのような物騒な刃物をたくさん止めたガーターベルトのような物がチラチラと見えていますよ。
その魅惑の太腿も、かなり鍛えられていそうで、俺から見てあまり魅力的には映らないのですが。
全員、もれなく美少女揃いなのですがね。
あと、そこの管理者殿と御揃いで黒の丸眼帯をしながら腕組みしていらっしゃる、いかにもメイドさんのリーダーっぽい感じの御嬢様は不敵な表情で俺を睨んでいるのですが。
ヤベエ、この屋敷はヤベエ。
きっと、ここの人達は何か酷く勘違いをしているのだ。
『勇者』と聞いて、俺がこの手の『歓迎の挨拶』を喜ぶタイプだと思われているのだろうか。
それとも単に素でこうなのか。
この世界では、どっちも有り得るから判断に困る。
俺はただ新婚旅行に来ただけなんだけど。
俺がダラダラと冷や汗を垂れ流している様子を見て、ラーナはくすくす笑っている。
「どうも。
イモムシ魔物退治をさせたら天下一品、勇者ダイゴとは俺の事。
しばらくこちらの別荘で御厄介になります。
あの、これつまらないものですが、よろしければ」
そう言って俺が近くにあったテーブルの上に出したものは、もちろん例のイモムシだ。
「まあっ、これこそは噂に名高い超高級食材グルメキャタピラー。
凄い、六匹も纏めて!
それに収納の能力を御持ちとは実に素晴らしい。
御蔭で新鮮そのものの肉質だわ。
さすがは勇者様ですわね」
ふふ。
こいつだけは、どこで出しても喜ばれるんだな。
後ろの美少女メイド達も一様に嬉しそうで、ようやく武器から手を離してくれた。
やれやれ。
しかし、この国ではイモムシこそ勇者が狩るのに相応しい獲物なのだろうか。
まあ狩るのに無茶苦茶苦労したんだし、確かに俺の特殊な能力がないと真面に狩れなかった代物なのだが。
「ねえ、一つ聞いてもいいかな」
「なんでしょう」
「そのう、この湖って安心な場所なのかな。
大きな水龍の伝説があるとかはないですよね?」
すると彼女はコロコロと笑って、事も無げにこう言った。
「もちろん、ありますとも」
ああ、やっぱりですかー。
そんな気がしていたんだよね~。
ここはフリードリッヒ家の領地なんだものなあ。
「もしかして、昔の御領主様が退治した奴ですか?」
「いえ、ドラゴンは今もおりますが」
く~、これもそんな気がしたんだよな。
何が悲しくて新婚旅行でドラゴンと対決しないといけないんだろうか。
一度フリードリッヒまで戻って、冒険者ギルドでレイドパーティを組むか。
「では、後で湖に御案内しますね」
「おい~」
「ははは、勇者様ともあろう御方が何を仰いますか。
御心配なく。
ここのドラゴンは大人しい種類ですから。
よく湖の畔で御腹を上に向けて寝こけていますよ」
それは魔物の頂点ともいえる種族であるドラゴンたるものとして、さすがに如何なものだろう。
「もしかして、ここの飼い竜ですか?」
「別にそういう訳ではありません。
昔から普通にここに住んでいる湖の住人なのです。
うちの昔の御領主様が退治されましたのは、ダンジョンにイレギュラーで沸いた奴とか悪さをして街を襲った奴ですから」
「あっそう」
駄目だ、何か調子が狂うな。
でも、せっかくだから見ていくか。
異世界のドラゴンねえ。




