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150-38 祝い

「ほう、これはまた。

 やるじゃないか、ダイゴ」


 料理長は持ち帰ったイモムシの山を見て、凄く褒めてくれた。

 元貴族の彼は収納の能力を持っており、俺が収納より外に出してから新鮮な内にそちらへ大量に引き渡したのだ。


「いやあ、ここの御姫様にいただいた魔法はイモムシによく効きましたよ。

 子供の柔軟なアイデアは馬鹿に出来ない。

 あれの御蔭でイモムシどもをすべて大人しくさせられました」


「うむ。

 たくさんあるので、またあれこれとレシピを開発してみるのもいいな。

 待っていろよ。

 結婚式では、とびきり美味い奴を食わせてやるからな」


「ええ、嫁さん共々楽しみにしていますよー」


 キノコなのか魔物なのか、それとも只のイモムシなのか。

 その正体は若干食うのが心配になるような魔物だったのだが、まあここではずっと普通に食されてきたレア食材なのだから、そう特に問題はないだろう。

 それよりも最愛の奥さんが喜んでくれているのが嬉しい。


「凄いですよ、ダイゴさん。

 これは超々高級品なので、私のような庶民なんか普通なら一生絶対に食べられないですから、一度でいいから食べてみたかったんです」


「いやあ、御嬢ちゃん。

 こいつは数が少ないので、御領主様でさえ中々食べられない代物なのさ。

 しかもダンジョンの割と下の方で獲れる奴だから、どうしても持ち帰るまでに鮮度は落ちる。

 今日のこいつらは、活〆にした上で収納に入れてきた最高の状態だからなあ」


 素晴らしい料理素材を、超新鮮な状態で思ってもいなかったほど大量に手に入れたので、料理長である彼もすこぶる上機嫌だった。


「ねえ、ラーナ。

 よかったら少しだけ味見してみる?」


「いーえ、どうせなら結婚式の御馳走で食べたいわ。

 その方が素敵~」


 という奥さんの意見があって、俺達の人生初グルメキャタピラーは、自分達の結婚式で頂く事にしたのであった。


 いやあ苦労したもんね、これを獲るのは。

 もうサイコメトリ万歳としか言いようがない。

 それは学会での歪な栄光を夢見た、独りよがりな変人教授の奸計に嵌って強制的に目覚めさせられた能力だったのだが、俺の人生にとっては大いに役に立ってくれた。


 特にこの異世界ではね。

 生憎な事に、そいつは教授にとっては何の役にも立たなかったのだが。


 だが、あの後も俺は教授の大切なサンプルとして、専門家から徹底的に手取り足取りという感じに教えられて能力開発に勤しみ、今この時の勇者の栄光に至るのだ。


 まあ俺も悪乗りして随分と面白がって一緒にやっていたんだけどね。

 研究に付き合って、夜間遅くなってから恩師の教授に御馳走になった屋台ラーメンの味は格別さ。


 出来る事なら教授にも、このイモムシを研究成果の一環として御馳走してあげたいのだが、さすがにそれは叶わないだろうな。

 

 在学中にこっちお世界へ来てしまったので、無事に大学を卒業する事は出来なかったのだが、そこで学べたのは異世界でも結構実利として役立つ素晴らしい能力であった。

 というか、このサイコメトリを強力に使えなかったら、街に辿り着くまでの冒険の序盤で野垂れ死にだったわ。


 いやあ、頑張って勉強して大学へ行っただけの甲斐はあったぜ。

 やや成績が振るわずに単位が危なかったから身につけてしまったという、ちょっと人聞きの悪い特技なのだがね。



 そして俺は御馳走イモムシを大量に持ち帰ったグルメな勇者として多くの人々から絶大な賛辞を受けながら、無事に結婚式の日を迎えたのであった。

 夢にまで見たネコミミの可愛い御嫁さんと一緒に。

 そのような憧れの御方は、日本にいた頃なら抱き枕としてしか存在していなかったのだから。


 あ、ヤベエ。

 あの抱き枕以下、凄い品々を日本に残してきてしまっているのだ。

 あれらの品が誰かに見られていなけりゃあいいんだが。

 できれば、それらを詰めてある段ボール箱の中身は見ずに、そっと処分していただきたいものだ。


 式を上げるのが教会ではないので幸せの鐘は鳴らなかったが、それでも俺は幸せいっぱいだったのだ。


 彼女のドレスは従兄妹のお兄ちゃんが用意してくれたもので、中々上等な物だった。

 そいつは何故か、日本で普通に着られているようなドレスなのであった。

 不思議な事もあるものだが、まあいいか。


 彼女のウエディングドレス姿は、それはもう綺麗だったんだ。

 結婚式の間、俺はずっとデレデレしっぱなしだった。


 お金は十分にあるし、御領主様やギルマスを始めとして、たくさんの人達に御祝いしてもらえて実に幸せな結婚式だった。

 サブマスやギルドのよく見知った人達も来てくれた。

 もちろん大親友である、あの見張り番のスパーナも御招待したよ。

 なんたって、この結婚の最初の一押しをくれたのは彼なんだからな。


 ふふ、それだけの人達に御祝いしてもらえても、御式で出す御馳走のイモムシだけには事欠かないんだぜ。

 みんな、あれには凄く喜んでくれたし。

 さすがの料理長も、あれを丸のままでは出さなかったが。


 そして俺はこの異世界に骨を(うず)める覚悟を持って、ケモミミな所帯を持ったのであった。



 それからは楽しい新婚生活が待っていた。

 あの御屋敷は日本の有名な安アパートと違って壁もぶ厚いしね!


 新婚旅行へ行きたかったのだが、この世界にはあまりそういう習慣はなかったらしい。

 それになんといっても行先がな。


 一番近い外国といえば、当然あの『ゲルス共和国』だ。

 なにしろ国同士の境界にある塀が街からも見えるくらいなんだから。


 そんなところ、死んでも行くかっ。

 ましてや最愛の奥さんを連れて。

 地獄の新婚旅行になってしまうわ。

 生きて帰れる自信がまったくない。


 一方、反対側の御隣は『遊牧の国』ザイードだ。

 うん、地球でもモンゴルなんかは日本人が行くと結構嵌まるというし、そう評判も悪くない。


 だが、王宮さえも遊牧用の移動住宅だという話だ。

 そんなところへ奥さんを連れて新婚旅行に行くのはどうだろうか。

 一番華やかであろう、第一目的地になるはずの王都すら固定式ではなさそうだ。


 どちらかというと、いつか子供が出来たら、一緒にキャンプしに連れていきたいような国だ。

 いっそキャンピング馬車でも作っておくかな。


 地球の貴族が乗っていたような、中で寝られるタイプの馬車はどうだろう。

 大型の馬車を魔道具化して、大型のキャンピングカーのようにトイレや風呂も子爵邸並みの凄い魔導式の奴を付けたりして。


 そして残る一つの近隣国家はドワーフの国エルドア王国なのだが、それもまたなあ。


「よしとけ、あんな国へ行くのは。

 しかも新婚旅行とかいう御楽しみで?

 そりゃあ一体どんな罰ゲームだ」


 ギルマスのクランツにもそう言って笑われてしまった。

 それらの国々を通らないと他の国へは行けないしな。

 後の南北東西の残りの方角には大洋しかない。


 海は大型の魔物がいっぱいで、この国から船に乗って隣の西方面にある大陸へは行けないらしい。

 地球の船でも第七艦隊あたりを護衛に連れていかないと海を渡るのは無理そうだ。


 中でもクラーケンという奴が特級でヤバイらしい。

 そいつに取り付かれてしまったら、全長三百メートルを優に超える原子力空母が大ウミヘビに襲われた昔の帆船の絵みたいになってしまいかねないほどの大きさとパワーのようだ。


 通常弾頭の対艦ミサイルで果たして倒せるものかどうか。

 そいつを退治するのに小型核兵器が必要なのかもしれないが、いきなり海中から現れるそうだから、水中でそいつを発見出来る攻撃型原潜から発射する核魚雷が必要かも。


 ラーナ達獣人族の故郷だと言うケモミミハイムも行ってみたら面白そうなのだが、そいつはこのロス大陸の東方にあるメルス大陸にあるという。


 そこへは数千キロはありそうな大陸の端から端まで旅をして、更に数千キロの海を渡らないといけないらしい。

 当然、大陸間の大洋にはクラーケンも出るらしいし、絶対に無理。


 そこへ行くにもハイド王国が船を出しているだけだ。

 あの国だけは大陸間航路へ進出しているそうだが、そこはなんか普通の国とは違うらしい。

 真面な国なら外洋へ船を出さないのは常識との事だ。


 そんな剣呑な船旅にはラーナ自身も特に行きたくないらしいし。

 それを聞いた親父さんも思いっきり笑っていた。

 まあその話題は家族円満の足しにはなったかもな。


 草原の国は普通に通れるのだろうが、その向こうにあるのがベルンシュタイン帝国とかいうヤバそうな強権国家なのだ。

 Cランク冒険者証があるので、いざとなったらそこを通過する事は可能だと思うが。

 

 それに飛行機や新幹線なんかがあるわけじゃないので、遠出すると凄く時間がかかってしまうのだ。

 また俺もラーナも馬には乗れないので馬車では速度が遅いだろうし、馬だって長距離を走り通すのは無理。


 普通は大荷物を馬に括り付けて、西部劇の旅のようにポックリポックリと時間をかけて旅するのだ。

 馬も道草を食わないと餓死しちゃうしね。


 そういう旅には馬よりも速度は遅いが力が強くタフなロバの方が向いていそうなのだが、いざとなったら頑張って走ってもらわねばならないので、この世界では速力の在る馬の方が無難だ。

 まあ緊急事態になったら、ラーナと一緒に馬に乗って俺の回復スクロールを馬に使いながら旅をするしかない。


 そういう訳なので御領主様が新婚旅行に行きたい俺の意思を汲んでくれて、なんと子爵家の別邸を使わせてくれる事になった。

 馬車も出してもらえる事になったので嬉しい。

 あの家の人は体を鍛えるために歩いてばっかりで、あまり馬車を使わないしな。


 子爵家の人々が保有する戦闘力なら、セキュリティ面から見ても、あの街を徒歩でも特に問題はない。

 五歳の幼女様でさえ魔法の名手なんだからな。

 それに歩いた方が健康的だ。


 良き領主である御領主様も、領民というか冒険者主体の住人からは慕われているし、なんたってドラゴンスレイヤーの一族なのだから。

 その領主館の住人には冒険者ギルドのギルマスもいるんだしね。


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