150-35 壁の中の住人
俺はふと気になるというか、思い当たる事があって手近な壁に触ってみた。
「ああ、やっぱりそうなのか」
「どうしました?」
「あの魔物どもは、みんな壁の中にいました」
「壁の中ですって?」
「ええ、このダンジョンの壁の中に潜り込んでいるんです」
視えたのだ。
本来ならサイコメトリは現在の状況を見るものではない。
直接接触により、物体から強力に過去の情報を『視る』ためのものなのだから。
だが奴らが壁をかきわけて、壁の中に潜り込む様子がたくさん見えたのだ。
普通は魔物なんていうものは逆のパターンで、壁からポップしてくるというのに。
「魔物が何故そんな事を?」
「そんな話は聞いた事がないのお」
「でも実際にそうなんですよ。
奴ら完全に憑かれていますね」
「憑かれている?」
「ええ、まあ件のイモムシに」
「それは、もしかして昆虫魔物の親に卵を産み付けられたとか?」
「少し違います」
だが結果としては、そう変わらないものなのだがな。
どうやら話の内容からすると、この世界にもジガバチみたいな奴等がいるんだな。
きっと、でかい魔物なのに違いあるまいよ。
もし、そいつらが人間を襲うのだとしたら、とてつもない恐怖だぜ。
そんなものは完全にB級映画の世界だ。
冗談じゃない。
そんな連中が近所に湧いたら絶対に退治する。
この俺が作る、焚書扱いも同然の禁じられたスクロールを使いまくってなあ。
偉い人達から怒られたってかまうもんか。
うちの家族は絶対に守るぜ。
あと俺達によくしてくれる街の人達の事も。
「どうします?
探して掘り起こしますか?」
「いえ、今は無理でしょう。
そいつらの居場所を見つけて、イモムシが現れるのを待ちましょう。
奴らどういうつもりなのか、纏まって集まっているようなのです。
でもどこなのか、よくわからないなあ」
「なるほどな。
もしかすると、あそこなのかもしれん。
奴ら、通常のイモムシ出現階層である、この階層から出ないらしいので」
「へえ、どこなんですか?」
すると、彼リップは嬉しそうにニーっと歯を剥いて笑うと答えた。
「通称、冒険者の墓場、だ」
「えー。
何ですか、その物騒な名前は」
「リップ、そう脅かすものじゃありませんよ。
ダイゴさん、安心してください。
それは過去の名残でそう呼ばれていたものなのです。
昔は有名なモンスターハウスでしてね。
十名余の高ランク冒険者達を筆頭にして数か月がかりで攻め立てて、やっとモンスターが湧かなくなり、冒険者の陣地となった物なので。
今は空きドームとして、ダンジョンの野営所の一つになっているのです。
新人の多くやってくる季節などには、ギルドが中堅冒険者に引率させてダンジョン・ツアーをやる事もありまして、そのキャンプの下層限界がここですね。
これ以上下へ行くと、稀に『はぐれ』のBランクの魔物が迷い込む事がありますので」
「そんな親切な研修ツアーがあるんだ」
「ここの御領主様は、『経験を積ませた若者は街の良き財産だ』などと仰られるような方ですので。
実際に、この比較的実入りのいいダンジョンは経験多めの冒険者も多いため、収益も非常によく上がる状態なのです。
ダンジョンも運営方法一つで色々と変わるものなのですよ」
御領主様、経営手腕も凄かったんだな。
日本なら大会社の創業家社長っていう感じの人なのだろうか。
俺なんか、どこへ行ってもモブだけど。
でもいいのだ。
日本では決して望めないような、可愛いネコミミの嫁さんを貰えたのだから。
とりあえず、そのためには結婚式の御馳走用に「イモムシ?」を狩って帰らないとな。
「じゃあ、現場へ行きますか。
ついでに、そこでキャンプしていればいいんだしね」
「だが御主の言い草であれば、気を付けんと魔物が大発生する可能性もあるのではないか?」
「あー、イモムシって強いのです?
俺でも楽勝で狩れると聞いてきたんですが」
「いや、他の魔物を呼ぶのではないかと思ってな。
あれはよく他のCランクと一緒に現れる」
俺は目を瞑って、あれらの映像を思い起こしてみた。
「多分、大丈夫でしょう。
イモムシが生まれるだけなのですから」
「イモムシが卵から孵るというの?」
マリーロアが不思議そうに、その美しい琥珀の瞳を揺らめかせた。
「イモムシが卵から生まれると、一体どこの誰が決めつけましたので?」
「ええっ、それはどういう事かしら」
「あれは魔物ではない。
見かけ通りのイモムシですらない。
そして卵から孵るような物でもない。
何か特殊で不思議な生態を持っているようです」
俺はあれの正体について、ほぼ結論のような物を持っていたのだが、現物を見てもらった方が早いだろう。
俺もちゃんと確認してみたいし。




