150-33 必殺技の時間
そして、それは唐突に起こった。
戦闘中の魔物がポンっと突然に消えたのだ。
そいつはFランクに毛の生えたような雑魚な魔物だった。
このCランクゾーンにも下位の魔物は湧くが、それにしても奇妙な話だ。
そして、いきなりそいつの姿がかき消えたのだ。
転移したとか、空間トラップにかかったとか、そういう類のものではなさそうだった。
単に魔物がいきなり消えたのだ。
思わず目と目でアイコンタクトするメンバー達。
「なんだったんだ、今のは」
「さ、さあ。
なんだか知らんが、どうにも様子がおかしい。
みんな気を付けろ」
「この間の件といい、何か変だなあ。
ねえ、サイオン。
ここのところ、魔物に異変があるとかギルドから何か聞いていないです?」
「わかりません。
しかし、魔物に異変があるというのはよくない話です。
スタンピードの可能性だってあるわけですから」
うわあ。
俺も思わず顔を顰める。
スタンピードが何か物凄いものだという話は聞いているのだが、俺はゴブリン一匹で分類上は『それ』に該当してしまう物を引き起こした事があるのだ。
「ダイゴよ、そんな顔をするでない。
あんなゴブリン一匹がスタンピードのうちに入るかい。
がははは」
パウエルは笑顔でモーニングスターを振るい、急に湧いて現れたコボルトをぶっとばした。
「ねえ、リーダー。
やけに雑魚魔物がいっぱい現れてこない?
いつもこの深い階層に出ないよね、こんな弱小魔物は」
「ええ、一体なんなんでしょうね」
どうやら、この界隈を根城にする冒険者達も不思議に思うような現象が起きているらしい。
まったく訳がわからない。
そして次にまた出てきたオーク。
しかし、こいつもなんだかおかしい。
姿がブレるというか、また何故か俺にはイモムシに見えるのだ。
「ねえ、みんな。
そこのオークは何かおかしくないかい?」
「そいつ?」
女の子の魔法使いマリーロアが、そこの斜め右前にいた奴をスタッフで指さした。
「うん、そう」
「別に」
「ええ、パッと見た限りでは普通のオークですね。
またですか?」
サイオンも首を捻った。
うーむ、他の人には見えないのか。
これは、もしかして。
見えないのではなく、『視えない』のかもしれんな。
奴がおかしいのではなくて、この現象は俺の能力が齎しているものなのか。
別にあいつに触っちゃいないんだがな。
ただESPという能力は目で見ても発動するような物ではあるのだが。
しかし、俺の得意な能力サイコメトリは『触る』という事が最大の特徴なのだ。
その点、妙に挙動がおかしい魔物である奴らの場合には、何か特別に反応しているのかもしれない。
あるいはダンジョンという場所の特異性から、魔物と俺が双方足で踏み締めているこの地面を介して。
「なあ、サイオン。
ちょっと援護してくれないかい?」
「何をするんですか?」
「ちょっと、あいつを触ってみる。
何か『視える』かもしれないから」
「例のあなたの能力ですか。
しかし、オークは下位の魔物とはいえ、かなりパワーがあって危ないですよ」
「そうなんだが、なにかあったら俺にこいつを使ってくれ」
そう言って彼に渡したのは、物体変性のスキルで変質させた『グレーターヒール級』の威力を持ったヒールのスクロールだった。
念のために、更にそれ以上の威力がある例の上級回復魔法のスクロールも渡しておいた。
「あれま。
一発食らう覚悟は出来ているんですね。
それではやってみますか。
パウエル、あなたは彼がそいつに触れるように、挑発してヘイトコントロールをしつつ立ち回ってください。
マリーロア、あなたはそいつがおかしな真似をした時には魔法で速攻倒して。
メルバは私と一緒に残りの雑魚の相手を。
リップは予備要員として、マリーロアの補佐に入りつつ自分の判断で遊撃を。
これでいいですか、ダイゴさん」
「うん。
感謝、感謝。
とにかく何かがおかしいんだ。
ここは是非確認しておきたい」
そして俺はそいつに向かって、にじり寄った。
もっぱらパウエルを盾にする感じで。
オークの棍棒が唸る。
受け止めるパウエルのモーニングスター。
力が拮抗して膠着した冒険者と魔物。
「それ、ダイゴ。今じゃ」
「おう!」
そして奴の体を触った瞬間に流れ込んできた情報は!
「ええっ、なんじゃこれは~」
「どうしました!」
少し慌てたサイモンが、すかさず声をかけてきた。
だが、ちょっとメンバーが目を離した隙にそのオークは、またしてもかき消えてしまった。
そして残りの奴等は大慌てで逃げていった。
「ほう、組み合っておる最中に見事に煙のように消え失せおったわい。
不思議な手応えじゃ。
それになんじゃい。
えらく積極的に攻めてきたと思ったら、奴ら一斉に逃げていきよった。
よくわからん奴らじゃのう」
「あー、あれはあれでいいんです。
理屈には合っているんだから。
みんな、よく聞いてくれ。
イモムシ(風)魔物は獲れるみたいだ」




