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150-29 勇者の時間

 そこからは大変な騒ぎとなった。

 あれこれが、いっぺんに進行して。


 まずは……ゴブリン討伐からだった!


「なんでだよ!」


 だが、ギルマス・クランツも笑って取り合わなかった。


「だって、お前。

 うちのサブマスに逆らうつもりなのか?」


「う“」


 うーん、さすがにそれはちょっと出来ない相談だった。


「じゃあ、仕方がないな。

 また御守りの冒険者をつけてやるから行ってこい」


 ま、まあいいんだけど。

 あれからスクロール作りは技術が向上して、子供達が描いてくれたものと遜色のない物が成功率百パーセントで作れるようになったし。


「えー、ダイゴちゃんがスクロールをちゃんと作ってる。

 すごーい」


「マジか。

 奇跡が起きたな」


「神の、いやトンボの御加護だねえ」


 もうっ!

 豪い言われようだな。

 俺だって不器用じゃないんだからね。

 異世界の技術や産物に戸惑っていただけなんだから。


 これが日本ならPCでサクっと作って印刷してあっさりと終了するような簡単な作業さ。

 こんな物は只の魔法術式を通す魔道回路に過ぎない物なんだからな。

 魔導インクで描かれた魔法陣と羊皮紙が、基板にプリントされる電子回路と同じような働きをする物なのだ。


 そういや、フィーはよく屋敷の厨房に入り浸って、またあれこれと食道楽の毎日だ。

 向こうも、曲がりなりにも精霊が居ついているので、厨房が清浄な気に満ちて有難いらしい。

 なんていうか、奴が厨房でうろうろしていると食い物にも加護がつくというか、健康にもいい感じのようだ。


 精霊の力ってよく理解出来ないのだが、とにかくフィーの奴に対しては子爵家の料理人達も『御供え』は欠かせない物なのであるらしい。

 まあ奴も体は小さいから食う量自体はたいした事がないのだが。


 それにしても俺の作るスクロールはトンボの加護のせいもあるものか、魔力が大きいせいで威力があり過ぎる場合がある。


 うっかりと突然に現れたスライム相手に慌ててしまい、物体変性で作り上げたスーパー・スクロールを使って大爆風を生み出してしまって、あちこちの冒険者を巻き込んだせいでギルマスから攻撃魔法系のスクロールを使用禁止にされてしまった。


 幸いにして死んだ奴はいなかったから俺のヒールで全員治療できたのだが。

 俺のヒールは凄く強力でみんなから驚かれた。

 ハイヒール以上の圧倒的な威力らしい。


 それは俺の豊富過ぎる魔力のせいなんだろう。

 相変わらず、他の回復魔法は覚えられないのだが。


 その超強力なヒールをスクロールにして更に物体変性を使用すると、これがまた物凄い威力だ。

 魔物に片足を食われてしまって仲間に抱えられながら戻ってきた奴がいたので緊急で使ってやったら、なんと足が生えてきてしまってびっくりした。

 いわゆるグレーターヒールという最上級の回復魔法クラスの回復力らしい。

 あるいは、それ以上の。


 さすがにこれは、ちょっとした騒ぎになったのだが、それもギルマスによって箝口令が敷かれ、ヒールのスクロールは使用禁止になった。


 さらに上位回復魔法のスクロールも習って描き上げたのだが、そっちも物体変性を用いたら非常にヤバイ事になってしまって使用禁止を食らってしまったのであった。


 身体を真っ二つにされて戻って(持ち帰られて)きた冒険者へ試しにそいつを使ったら、なんと体がくっついて、そのまま何事も無く生き返ったので。

 こういう事は伝説に聞くエリクサーあたりが持つ効果のようだった。


 俺の開発するスクロールが皆、次々と使用禁止になっていく。

 普通に魔法を使えないので、後はへっぽこな剣や槍の腕だけしかないのだが。


「どうやってゴブリンを倒そうかなあ。

 えーと、毒餌の罠とか?」


 うーん、ゴキブリや鼠じゃああるまいし。


 そうこうするうちに援軍が来た。

 それはなんと、あのチーム・ベルモントの連中だった。

 懐かしのフランケンさんも御健在だ。


「よお、ダイゴ。結婚するんだって?」

「相変わらずゴブリンを一人で狩れないのねえ」


「しょうがないでしょう。

 スクロールを使用禁止にされているんだから」


「ほれ、そう思って良い物を用意してきてやったぞ」


 そう言ってベルモントが渡してくれたものは、なんとあのコンビニなどで防犯用に使われている『さすまた』だった。


「うわ、こいつはまたベタなものがきたな」

「慣れないと使いにくいかもしれないが、これでゴブリンを押さえておけば怖くはあるまい」


「誰かが、そいつでゴブリンを押さえてくれているのを倒すという選択肢は?」


「甘ったれるでないわ。

 それで片手で押さえておいて、もう一方の手で持ったこの槍でだな」


「ブスリ」

「ブスっ」

「ズブっ」


「ううっ!

 なんなの、そのリレーはさ」


 ノリノリだなあ、みんな。


 俺がゴブリン討伐を嫌がるもう一つの理由。

 俺ってスプラッターなのが苦手なんだよね。

 上手に戦えないと、血塗れのあいつらが牙を剝いて向かってくるから。


 ゾンビかよっ。

 俺はホラーは苦手なのっ。


 あと人型をしているのも非常に良くない。

 猟友会でも、猿を撃つのは嫌がる人が多いからなあ。

 猿って仕草とかも妙に人間臭い感じがするし。


 ゴブリンは魔物の中では、比較的感情表現も豊かで人間臭い感じがするものらしい。

 それもまた厭らしい部分ではあるのだが。


 その日のうちにまたダンジョンへと出掛け、楽しんでいる他の連中を尻目に俺は必死でゴブリンをさすまたで抑え込み、そいつを槍で狙っている。


 それがまた一発で仕留められないと哀れっぽい声を出しやがるんだ。

 怯えた命乞いをしているような目でこっちを見てやがるし。

 見ているこちらの方が鬱になりそうだ。


 冒険者連中は、それぞれがゴブリン一体を押さえているというか、ゴブリンの両腕を掴んで宙にぶらさげている。

 米軍の秘密基地で写真に撮られている捕獲された宇宙人かよ。


 ゴブリン連中も必死だ。

 先に仕留められている仲間を見ているので死に物狂いで逃げようとしているのだが、高ランク冒険者にがっちりとホールドされているので、空中で足をバタバタさせるばかりで逃げられない。


 俺が仕留め終わると、チームの連中が次のゴブリンを放り出してくる。

 しかし俺が迂闊な動きをして、うっかりと一匹脇を抜かれてしまった。


「しまった!」


 すかさず、次々と飛んでくる罵声の嵐。

 ゴブリンはピッタリの数しか用意していなかったので、その分はまた探さないといけないからな。


「何をやっとるんじゃあ」

「結婚がかかってるんでしょ、あんた」

「ほれほれ、次行くぞ、次」


 ゴブリンも一匹は逃走に成功したが、そのうちに俺も要領がよくなってきて、次々とリズムよく逃がさないようになった。


 逃げたゴブリンもメンバーによって、すかさず再度捕獲されていたので、見事ノルマ達成で終了となった。

 俺は浮かれて有頂天だった。


「なあ、みんな!

 これ、なんか凄くねえ?

 新人なんかもう、ゴブリン狩りの装備はもうこれでいいんじゃないか?」


 だが、奴らは大笑いで酷評してくれた。


「そんな物を使いたがるのは、あんたくらいのものよ」

「そうそう、お前を弄るためのネタとして持ってきただけなんだがな」

「まさか本当にそいつを使うとはなあ」

「それでこそダイゴっていうものだよ」


 なんじゃ、それは。

 だって本当に凄くいい感じで狩れたというのに。


「ああっ、みんな酷い。

 俺だって頑張ったのに~」


「まあまあ、結婚までのノルマは無事に果たしたんじゃないか」

「これでサブマスも納得してくれるでしょ」


「あの人は楽しんでるだけだろ!」

「あらそんなの、みんな同じよ~」


 ダンジョンに精鋭パーティの楽しそうな笑い声が響くのだった。


 くそう。

 一応、討伐の証拠となる魔石の取り出しは手伝ってくれたんだけどね。

 いやー、こいつがまたスプラッターな作業なんだわ~。


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